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《父・手塚治虫が心配し大島渚が驚愕》「観客を不幸のどん底に突き落とす」手塚眞監督(62)が19歳で撮った映画『MOMENT』の恐るべき展開

文春オンライン / 2024年8月2日 6時0分

《父・手塚治虫が心配し大島渚が驚愕》「観客を不幸のどん底に突き落とす」手塚眞監督(62)が19歳で撮った映画『MOMENT』の恐るべき展開

©藍河兼一

〈 「『ジョーズ』の一番怖いシーンは?」手塚眞監督(62)がスピルバーグの名作から学んだ“恐怖の演出術”《死んだ漁師さんの顔が…》 〉から続く

 日大芸術学部在籍時の19歳で撮った8ミリ作品『MOMENT』は自主映画界に旋風を巻き起こした。日本映画界の「青春時代」を描くインタビューシリーズ第3弾。(全4回の3回目/ #1 、 #2 、 #4 を読む)

◆◆◆

8ミリ作品の決定版『MOMENT』

手塚 『MOMENT』は、最後が結構残酷に終わるんですよ。それを見て意外だと思った人は多かった。

―― 前半は、とてもかわいくてポップな映画で、それを楽しんで見ていると、後半すごい展開になります。

ポッキーは元気な女の子。的中率100パーセントの占いのおじさんのおかげでテストは合格点。お財布は拾うし、ステキな男の子は見つかる、と大ラッキー。でも肝心の今後の占いは、あたしが死ぬって? ――『MOMENT』DVDより

手塚 クライマックスが非常に残酷で。みんな死んでしまう。さすがにうちの父親も脚本を読んで、最後に全員死んじゃうのはどうかと言って、誰か残すことはできないかとか、いろいろ心配してくれてましたね。

―― 手塚治虫さんこそそういう人ですけど(笑)。

手塚 僕もそう思ったんです。「あなたの漫画だってそうじゃないですか」って言いたかったけど。『FANTASTIC★PARTY』が本当にほんわかした、希望とか夢を感じさせる映画だったので、逆にその希望とか夢を全部断ち切ったような『MOMENT』のラストシーンというのは、大島渚監督も驚かれたみたいで。ただ、大島監督は「意外だったけど、逆にもっと作品を見たくなった」といたずらに否定はしなかったです。

―― 手塚さんはそれこそがやりたいことだったんですね。

手塚 ひっくり返すというか、裏返すことをやりたかった。それも本気で裏返す。楽しさの頂点からいきなり不幸のどん底に突き落とされる感覚というのをやってみたかったんです。

―― 途中、手塚さん自身が監督役でも出て進行している映画にカットをかけたり、メタ的というか、映画であることにすごく自覚的な演出ですね。

手塚 ある種の楽しさとか、無為なエンターテインメントのピークみたいなものが途中にあって、最後が全く真逆で本当に地獄のような場面で終わるという構造です。ちょうど真ん中でそれがブツッと切れてそうなっていっている。

―― その橋渡し的なシークエンスでもあったんですね。

「どうせ安易で無責任な自主映画に過ぎないんだ!」

手塚 そうなんです。だから、それほど頭を使って書いたシナリオではないんだけど、何となく自分の中でそういう構造を考えて書いていたんです。唯一そこを指摘されたのが蓮實重彦さんでした。蓮實さんは「手塚君は非常に形而上学的な人だね」とおっしゃったんですよ。僕はその頃、形而上学的ってよく分かってなくて、なんか難しいことを言われたと思って。でも、たぶん僕がすごく論理的にシーンを作っているというのは薄々分かっていらっしゃって。

―― なるほど。蓮實さんらしいですね。僕も似た感想を持ちました。時々ギャグのようにこれが映画であることを指摘する台詞があって、最後にポッキーが死ぬ時も、「誰が脚本を書いたのよ」ってすごく映画のヒロインであることを自覚しながら死んでいく。

手塚 爆弾魔が最後に吠えるんですけれども、「どうせ安易で無責任な自主映画に過ぎないんだ!」というセリフがあるんです。これは実は大島さんが「安易で無責任な自主映画が多すぎる」と言っていたんですよ。

―― そこを引用したんですね(笑)。

手塚 そのまま引用して。自主映画というものに対して、考え方がみんな安易で無責任すぎると。言ってる自分たちもどこまで責任があるんですかというような、非常に客観的な映画ですよね。

テレビのバラエティ番組内で短編ホラーを放送

―― 『MOMENT』を見て声をかけてきたのが、『もんもんドラエティ』(注1)のスタッフですね。

手塚 そうですね。

―― その番組の1コーナーである「お茶の子博士のホラーシアター」で週に1本短編を作っていくって、大変なことだったと思うんですけれども。しかも学校生活もありながら。

手塚 始めてみたら大変だということに気づいた感じで。とにかく『MOMENT』という大作を撮り切ったという自信があったのと、『HIGH-SCHOOL-TERROR』を2晩で撮ったので、そのノリでいけば1週間に1本はできるんじゃないかと思ったんです。でもプロのビデオのスタッフでやるということになったら、スタッフの拘束時間がどうのと、製作費にかかわっていくわけですよ。だから、1日にまとめて何本撮りみたいになっていくんです。今までの自分のやり方とは違うわけですよ。そこでは葛藤がありましたね。思ったことができないという。それで途中で、もう8ミリにさせてくださいと、こちらから提案したんです。

―― ビデオ撮りの最初の体制の時に出演者をやらせてもらいました。

手塚 また白目をむいてね(笑)。

―― 原口さん(注2)が作った宇宙人のマスクをかぶったり、焼却炉の中で白塗りで白目の幽霊をやったり。ビデオ撮り体制の作品を見た時、ビデオの質感だと怖くないなと感じました。

手塚 そうですね。全体的に思ったようにはいかなかった感じはします。やっぱりあの時は最初、ビデオのスタッフとやるということで、シナリオも若干テレビ的な、ある種分かりやすいものにしようというふうに考えていたんです。途中で考え方を切り替えて自分で8ミリで撮ろうと思った時に、シナリオを放棄した。もっと表現のほうに突出しようと変えて、シナリオはラフになっていったんです。でも、それがむしろよかったみたいです。

―― それを認めてもらえたのはすごいですよね。

手塚 向こうも半信半疑で。取りあえず放送してみようと。放送したらすごい反響が来たので、じゃあそれで行こうという感じになりましたね。

―― シナリオチェック無しで、どんどん撮っていくようになったんですか?

手塚 最初はちゃんとチェックしてもらっていたんですけど、そのうちに「もう好きにやっていいよ」となって。あの頃はそういうバラエティというもの自体に勢いがあったんですね。3分といえども、ゴールデンタイムに一介の学生に任せちゃうって相当な実験ですよね。

―― しかもお茶の子博士として出演されて。

手塚 テレビ局の人が、いわゆる『ヒッチコック劇場』的に、監督が出ていって一言説明してからやってくださいと。ヒッチコックと言われたから、普通の背広みたいな格好で出るんだろうと思ったら、真っ赤なとんでもない衣装が用意してあって、「なんだこれは」みたいな感じで。

―― 岸田森さんとの掛け合いはとても楽しかったです。ドラキュラと共演できたというのはすごいことですよね。

手塚 そうなんですよ。ちょっとビックリしました。同じ楽屋でね。

とても勉強になったテレビバラエティでの経験

―― 手塚さん以外にも8ミリ仲間が監督しました。

手塚 2シーズン目に入って、ちょっと1人でやるのはしんどいなと思って。テレビ局的にも少しバラエティ色を出してほしいという希望もあったので。

―― 犬童(一心)さんが殺人鬼を演じた作品は強烈でしたよね。

手塚 そうですね。あれは小林(弘利)さんが撮った。テレビ局とプロの制作会社、あれはナベプロでしたね。そういう方々とも一緒に仕事ができて、テレビのやり方、プロの考え方、あるいは視聴者と番組の関係とか、いろいろ勉強になりました。その後にいろんな仕事をするためには非常に役に立ちました。

―― 自主映画との違いを体験できたんですね。

手塚 そうですね。映画業界とテレビ業界も全然考え方が違うし。特にバラエティ番組ですからね。

―― そういう意味では手塚さんの場合、自主映画から映画業界じゃなくて、テレビ業界を経て映画業界という感じなんですね。

手塚 たまたまそこにテレビが一回入ったということなんです。商業映画デビュー作『星くず兄弟の伝説』は元をたどれば『MOMENT』からなんです。『MOMENT』を見て気に入ったテレビ局の人が、近田(春夫)さんの番組で取り上げてくれた。そこで近田さんも見て気に入って、「一緒に映画をやろうよ」と言ってくれた。

注1 『もんもんドラエティ』 1981年10月からテレビ東京で放送された全30回のバラエティ番組。

注2 原口智生 『異人たちとの夏』の特殊メイク、『ガメラ』シリーズの造型。『さくや妖怪伝』『デスカッパ』の監督、特技監督。

〈 「映画監督になったらいけないんじゃないか」手塚眞監督(62)が“ヴィジュアリスト”を名乗るきっかけになった“巨匠の存在” 〉へ続く

(小中 和哉/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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