SMAP“公開謝罪”の舞台裏が明かされた理由とは…「あの時。終わったのだと思う」「死んだのだ」
文春オンライン / 2024年7月11日 11時0分
![SMAP“公開謝罪”の舞台裏が明かされた理由とは…「あの時。終わったのだと思う」「死んだのだ」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71854_0-small.jpg)
SMAP ©文藝春秋
「これは『小説SMAP』である」と帯に謳った単行本『 もう明日が待っている 』が、今年(2024年)3月末に文藝春秋より発売されて以来、版を重ねている。著者は、この本が出ると同時に放送作家を引退した鈴木おさむ氏だ。
本書は、鈴木氏が月刊『文藝春秋』2023年1月号掲載の「小説『20160118』」以来、同誌に断続的に発表してきた文章に大幅な加筆・修正のうえ、新たな書き下ろしも交えてまとめたものである。
本文中では、グループ名や番組タイトルは伏せてあるものの、先の帯文にもあるとおりここに登場するアイドルグループはSMAPであり、著者が『SMAP×SMAP』などの番組で彼らと関係するなかで起こった出来事がつづられている。
生々しくつづられた緊急生放送の舞台裏
本書のもととなる文章のうち最初に発表された前出の「小説『20160118』」(本書の第8章・第9章に相当)は、SMAPの解散報道が出た2016年1月、報道を受けてメンバー5人が『SMAP×SMAP』の緊急生放送で謝罪するにいたるまでの経緯をつまびらかにし、世間に衝撃を与えた。
それによれば、生放送は放送当日になって急遽決まったという。番組スタッフと彼らの事務所側の話し合いの結果、一旦はメンバーが今回の一件で世間の人に心配や迷惑をかけたことを謝るという内容で著者が原稿を書き、事務所にもOKをもらった。それにもかかわらず、放送1時間前になって事務所の「ソウギョウケ」のトップの一人から、メンバーが社長に謝ったという一文を入れるよう強い指示があり、それに従わざるをえなかった。著者の鈴木氏はこの一部始終を、小説の形をとりながらも生々しくつづっている。
そのなかに出てくる《僕はテレビ番組を作る人間として。あの時。終わったのだと思う。死んだのだ》という一文に表れているように、結果的にメンバーを「悪者」にしてしまい、ファンを不安にさせ、悲しませたことを著者は強く悔いた。
こうして小説として世に出したのも、あの一件についてはいつかどこかで自分のなかでの決着をつけなければいけないとの思いからであったと、本書とほぼ同時に刊行した著書『 最後のテレビ論 』(文藝春秋)で明かしている。とはいえ、芸能界の暗部にも触れた内容だけに、これが出たら自分はもういまの仕事ができないかもしれないと覚悟のうえで執筆したという。
「テレビを番組を作る人間として終わった」とまで書かざるをえなかった
それにしても、著者が「テレビ番組を作る人間として終わった」とまで書かざるをえなかったのはやはりただごとではない。なぜ、それほどまでに自責の念に駆られたのか。今回、こうして『 もう明日が待っている 』と題して1冊にまとめられた本を読んで、そう書かざるをえなかった著者の心情が痛いほど伝わってきた。それというのも、本書には全編を通して、鈴木氏や番組スタッフが長年にわたり、メンバーたちとの信頼関係のもと、ただひたすらに人々を楽しませるために番組をつくってきた様子が、たっぷり描かれていたからだ。
リーダーが提案し、5人を信じて生まれた旅企画
たとえば、第5章と第6章では、『SMAP×SMAP』が始まって10年以上が経ち、視聴率が落ちないよう、内容も古く見えないよう、スタッフらが必死になって企画を練る様子がつづられている。2013年、SMAPが結成から25年を迎えたタイミングで行われた、メンバーが5人だけで旅をする企画も、そのなかで生まれたものだった。
『SMAP×SMAP』では、高倉健が出たのをきっかけとして国内の大物俳優が続々とゲスト出演し(前出の『 最後のテレビ論 』によれば、高倉の出演は、番組の初代チーフプロデューサーが50通もの手紙を書いて実現したという)、さらには交渉に苦労しながらも、マイケル・ジャクソンをはじめ海外の大スターたちにも出てもらえるようになっていた。
この流れに加え、他局の《7人の腕利きの芸人がしゃべりまくる》裏番組が勢いを増しており、それに勝つためにも強いゲストを登場させることにスタッフは力を注いでいた。
「5人旅」の企画がすぐには通らなかった理由
これに対し、「リーダー」(中居正広のこと。以下、登場人物名は本書の表記に従う)は《ゲストはもちろんありがたいんだけど、この番組は俺たち5人が毎週ゲストなんだよ》とよく言っていたという。5人だけで旅をするというのも、もともとはリーダーが提案したものであった。世間では5人は仲が悪いと思われているふしがあり、だからこそいま、5人だけの旅を見せるべきだとリーダーは考えたらしい。しかし、上記のような事情から、スタッフたちはいまそれをやっても視聴率は取れないんじゃないかと考え、リーダーの提案に「すぐにやりましょう」とはならなかった。
それでも、その後、「演出の野口」(『SMAP×SMAP』で演出を担当していた出口敬生氏と思われる)が「ゲストじゃなくて、5人を信じて作りませんか?」と改めて提案し、実行することになる。
5人の旅は大阪からスタートした。伊丹空港に全員が集結するとリーダーの運転するレンタカーで出発、まずコンビニに立ち寄って旅行雑誌を買い、みんなで話し合ってUSJに行くと決める。そこでメンバーが直接USJに電話すると、受け入れ態勢を整えるため2時間待ってほしいとの返事。その間、メンバーは食事をするためお好み焼き屋に入った。USJを楽しんだあとは、ゴロウチャン(稲垣吾郎)から「温泉」の提案を受け、再び旅行雑誌を見て、有馬温泉の旅館に1泊することになる。
いままで見せたことのない5人を見せよう
この企画でスタッフが目指したのは、いままで見たことのない、見せたことのない5人を見せようということであった。だから、彼らが自分たちで行動したように見せなければならないし、彼らにもそう思わせなければならなかった。そこで、事前にメンバーから希望を聞いたうえで、必要最小限の指示を出したり、行く先々の関係各所に連絡をとって仕掛けを用意するなどして、5人が自然に行動をとるよう仕向けた。ただし、それはいわゆる「やらせ」とはまったく違う。
USJへ行く前に入ったお好み焼き屋にも、事前にディレクターから、テレビ撮影は可能かという確認と、自分たちスタッフが食べに行くかもしれないという予約だけして、5人が行くとは伝えなかった。一方で5人にも予約したことは教えなかったので、彼らが確実にその店に入るという保証はなかった。
「乾杯じゃねえよ」と思わずタクヤがツッコむ
それが本番では、彼らの乗る車のちょっと先にスタッフの車が走っていることに、リーダーは気づいた。スタッフのほうでも気づくだろうと信じたという。まさに阿吽の呼吸で、リーダーは先を行く車と同じ方向にレンタカーを走らせると、無事その店を見つけ、5人で入ってくれた。店側ではまさか彼らが来るとは思わず、店主と店員さんたちが慌ててざわつく。そのなかで彼らは次のように自然なやりとりを見せた。
〈 お好み焼き3つと焼きそば。そしてリーダーが大好きな生姜焼き定食まで頼んだ。
彼らは5人だけでテーブルを囲み、グラスを合わせて、言った。
「かんぱーい」
すると乾杯したのにタクヤ(引用者注:木村拓哉)が思わず。
「乾杯じゃねえよ」
その状況のありえなさにツッコむ。〉
そんな「ありえない状況」も、彼らとスタッフが長年築いた信頼関係から生まれたといえる。
温泉旅館のカラオケで歌った“あの曲”
5人旅のクライマックスは、有馬温泉の旅館内にあるカラオケに行く場面だった。このとき彼らは、まさか自分たちの歌は歌わないだろうというスタッフの予想に反し、どんどん自分たちの曲を入れ、歌っていく。とくにリーダーはそれが楽しくなり、かなり酒が回ってきたところで、あの曲を入れた。
それは《大切な友達に贈る彼らの曲。ベストなフレンドに向けた曲》で、この時点で17年の番組の歴史のなかでたった2回だけ、メンバーだったモリクン(森且行)がオートレーサーになるためグループを抜ける回と、ゴロウチャンが不祥事による活動自粛から復帰した回と、グループがピンチに直面したときにみんなで歌った曲だった。
そんな特別な曲をこのときカラオケに入れ、みんなで歌い始めると、リーダーは泣き出した。ほかのメンバーはそんな彼の姿を見て爆笑する。
リーダーの頭の中によぎっていたこと
このときリーダーのなかでは、グループ結成から25年のあいだにあったさまざまな出来事が歌とともによぎっていたのだろうと、著者は推し量る。彼らはアイドル冬の時代と言われた頃にデビューしたがゆえ、それまでアイドルがやらなかったバラエティー番組へ出演することで自分たちをアピールするしかなかった。
それでも徐々に光が見え始めてやっとブレイクしたと思った瞬間、メンバーの1人が脱退。《リーダーはきっとあの時、解散することも考えたはずだ》と著者は書くが、彼らはそのあとも、ピンチに陥ってもチャンスに変えて、メンバー全員で乗り切っていった。
〈 そんな思い出がリーダーの頭の中に歌とともによぎっていったのだろう。
このリーダーの姿を見ている人も、きっと笑いながら、思い出すはずだ。
彼らのここまでの歴史を。
彼らがしてきたことの凄さを。
リーダーは、自分がこの歌で号泣するという恥ずかしい姿を思い切り見せることで、視聴者を笑わせながら、自分たち5人の絆の強さの理由に気づかせたかったのだろう。
どこかでそれを見せることをきっと狙っていた。
それがここだった。〉
リーダーの狙いは見事に当たり、視聴率は久々に20%を超え、5人だけでも勝てることを十分に証明した。5人は仲が悪いという世間の噂もこれで払拭されたはずだった。それがわずか3年後、同じ番組で彼らは謝罪する事態へと追い込まれ、ついには解散にいたる。鈴木氏たちスタッフが強く悔やんだのも当然だろう。
本書でもうひとつ強く印象に残ったこと
本書でもうひとつ強く印象に残ったのは、グループのマネージャーだったイイジマサン(飯島三智氏)の肝の座り方だ。タクヤが授かり婚をしたときは、当初、進行中だったライブツアーの終了後に会見を開いて発表するつもりが、その前週に新聞にすっぱ抜かれたのを受け、イイジマサンは急遽予定を繰り上げ、ツアー途中での会見に踏み切った。
2011年に東日本大震災が起き、バラエティー番組をやる空気ではまったくないなかで、「こんな時だからこそ生放送をやりたい」と、『SMAP×SMAP』のスタッフに提案してきたのも彼女だった。たとえリスクがあっても、必要と考えれば実行する。それができるのも、イイジマサンがメンバーに絶大の信頼を置いていたからだと、本書を読んでよくわかった。
「もう明日が待っている」ことは間違いない
本書のもととなる小説の第1弾が発表されたのは『文藝春秋』の昨年の正月号である(発売は前年の2022年12月だが)。折しもこの年、SMAPが所属した事務所は、彼らがかつて謝罪した元社長が生前に繰り返していた性加害を告発され、社会から強い批判を浴びた。おかげで、小説に描かれた「ソウギョウケ」の圧力は期せずしてよりリアリティを帯びることになる。
他方で、著者が書くように、芸能人が事務所から独立するということも、かつては、それをやるなら仕事を干されることも覚悟せねばならないと思われていたのが、いまやそのタブー感もかなり薄れた。それもSMAPの「あの放送」が契機となったところも多分にあるのだろう。
このほか、芸能界も私たちも、それまで自分たちがとらわれていた価値観を疑い、必要とあれば変わらねばならない時期を迎えている。本書のタイトル、そしてその元となる彼らの名曲の一節のとおり、「もう明日が待っている」ことは間違いない。
(近藤 正高)
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