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「キノコ雲とB29爆撃機」がフットボールチームのマークに…原子力爆弾開発で栄えた“リッチランド”に暮らす人々の真実

文春オンライン / 2024年7月5日 6時0分

「キノコ雲とB29爆撃機」がフットボールチームのマークに…原子力爆弾開発で栄えた“リッチランド”に暮らす人々の真実

アイリーン・ルスティック監督

 リッチランドとは、アメリカ・ワシントン州南部にある都市の名前。そして映画『リッチランド』は、そこに暮らすさまざまな人たちの声を集めたドキュメンタリー作品だ。

 映し出されるのは、穏やかで満ち足りた表情をした住人たちの平和な日常。しかし、彼らが応援する地元高校のフットボールチームのマークを見たら、あなたの心は穏やかでいられるだろうか? そこには原爆投下によるキノコ雲とB29爆撃機が描かれている。

 ここは一体、どんな町なのか。本作の監督、製作、編集を務めたアイリーン・ルスティックさんに聞いた。

「リッチランドは、第二次世界大戦時、原子力爆弾開発のために設立された核燃料生産の拠点ハンフォード・サイトのベッドタウンとして栄えた町です。当時はそこで働く人たちが、現在では汚染された土地の浄化作業に従事する人たちが多く暮らしています」

 ハンフォード・サイトでは、1987年の原子炉閉鎖まで米国の軍事用プルトニウムの約3分の2が作られた。長崎に落とされた原子爆弾「ファットマン」のそれも同様だ。原子力産業は町を潤したが、かつて先住民族の居住地だった土地を、放射能によって深く傷つけもした。この事実に、リッチランドの人々はどう向き合っているのか。取材は、あくまで慎重に行われた。

「私が初めてリッチランドを訪れたのは2015年です。町の象徴として堂々と掲げられたキノコ雲の絵を見て衝撃を受け、忘れられなくなりました。でも、私はこの町の人たちを批判したくて本作を撮ったのではありません。また、原子力産業の是非を問うためでもない。もしそれが目的だったなら、あれほど心を開いてはくれなかったでしょう」

 詩の朗読、歌唱などを取り入れ、彼らに“参加”してもらうことで映画作りを進めていった。高校生には、本音での話し合いをしてもらった。

「考えてみてください。自分を育んだ町、愛するコミュニティ、昼夜励んできた誇るべき仕事が、実は世界に大きなダメージを与える忌まわしいものに繋がっていると知った時、どう折り合いをつけるのか。これは、とても普遍的な問題をはらんでいるのです」

 だからこそ、作中で語られる言葉はどれも、すべて耳を傾けるに値するのだ。

 日本人も登場する。広島出身で被爆3世であるアーティスト・川野ゆきよさんだ。

「彼女の作ったアートは、本作のもうひとつのテーマにおいて重要な役割を果たしてくれました。より深い地質的な時間の中での、土地と原子力の対峙です。さらに故郷とは何かという問いにも。アートには、時を超える力があると私は信じていますので」

Irene Lusztig/英国生まれ、米国ボストン育ち。フェミニスト映画作家、アーカイブ研究者、アマチュア裁縫家。両親はチャウシェスク政権下のルーマニアからの政治亡命者で、その家族の歴史を掘り下げた『Reconstruction』(2001)が長編1作目。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で、映画およびデジタルメディア学教授として映画制作を教えている。

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映画『リッチランド』
7月6日全国順次公開
https://richland-movie.com/

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年7月11日号)

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