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殺人を目撃したダンサーを追う漫画家兼殺し屋。台湾映画のイメージを覆す幻の作品『逃亡者狂騒曲』

文春オンライン / 2024年7月7日 11時0分

殺人を目撃したダンサーを追う漫画家兼殺し屋。台湾映画のイメージを覆す幻の作品『逃亡者狂騒曲』

台湾版ポスター ©FOUNTAIN FILMS CO. All Rights Reserved.

〈 妻の遺体は塩漬けにされていた…孤独な魂が生んだ切なすぎる愛情物語〈台湾映画『春行』〉 〉から続く

 リム・カーワイ監督をキュレータ―に迎えてリニューアルした「台湾文化センター 台湾映画上映会」。その第3回が6月29日、台湾文化センター(東京・港区虎ノ門)で開かれた。今回上映されるのが台湾でもあまり知られていない幻の作品とあって、多くのファンが詰めかけた。上映後に行われたトークイベントの模様をレポートする。( #1 、 #2 を読む)

◆◆◆

台湾映画とは思えない台湾映画

 この日上映されたのは、1997年製作の『逃亡者狂騒曲 デジタルリマスター版』。トークイベントには、同作の監督、ワン・チャイシアン(王財祥)監督がオンラインで、会場にはPFF(ぴあフィルムフェスティバル)ディレクターの荒木啓子さんが登壇した。

『逃亡者狂騒曲』

台北に住む若いダンサーは、ニューヨークでダンサーになることを夢見ている。ある日、猟奇殺人を目撃してしまったことで、彼は漫画家兼殺し屋から追われる立場になってしまう。CM界で著名な演出家が世紀末の虚無感を荒々しい実験的なスタイルで捉えた、知る人ぞ知る“伝説の映画”。1997ベルリン国際映画祭フォーラム部門選出、1997アジア太平洋映画祭最優秀撮影賞、編集賞、音響効果賞受賞。

監督:ワン・チャイシアン/出演:チェン・ホンレン、ルー・シンユー/1997年/台湾/83分/©FOUNTAIN FILMS CO. All Rights Reserved.

リム・カーワイ(以下、リム) この『逃亡者狂騒曲』は97年に作られた当時にベルリン映画祭で上映されたんですが、荒木さんはそこで観たそうですね。

荒木啓子(以下、荒木) 矢口史靖監督の『ひみつの花園』をベルリンに持って行ったときです。ぴあフィルムフェスティバルは無名の頃からホウ・シャオシェン監督作を上映したり、台湾映画をよく紹介していたんです。でもこの『逃亡者狂騒曲』は台湾映画と思いませんでした。アメリカなど外国にいた人が台湾で撮ったのでは?と思いました。

リム ホウ・シャオシェンとかエドワード・ヤンといった台湾映画のイメージとはまったく違いますからね。

戒厳令が解かれて開放された思い

ワン・チャイシアン(以下、ワン) 私は十数年CMを撮っていて、そろそろ映画を撮りたいと思っていました。CMは商業的なものですから、そういう制約のない映画を撮りたかった。そんな時にこの映画の主人公を演じた男性ダンサーと知り合いました。このダンサーで映画を撮りたいとまず思って、彼らの生活スタイルを見てみると、だいたい昼間は寝て、夜に活動するという人が多かった。そういう若者の生態からコンセプトを考えられないか、というのが出発点でした。だから当初のタイトルは『蛾』というものでした。蛾は昼間寝て夜活動しますよね。

 当時の台湾は、87年に戒厳令が解かれ開放が進んで、それまで心に閉じ込めていたものを言えるようになっていたわけです。私も、自分の思っていることを開放しようという思いでこの映画を作りました。

荒木 その思いを具体的に映画にする、実現する技術がすごいですね。特に撮影にびっくりしました。大量の爆竹が破裂するシーンや、夜の高速を猛スピードのバイクで疾走するシーンなど、よく死人が出なかったなと思いました。

ワン 私はもともとカメラマンの出身で、多くのシーンについて私自身が撮影しました。確かに見直すと非常に危険なシーンがあって、今だったらこういう撮り方はできないなと思っています。

リム この映画、観終わった後にもいろいろ謎が残っていますね。たとえば主人公がニューヨークから手紙をもらって、映画の中で読み上げられますが、その手紙が誰からのものなのかわからない。いったい誰なんでしょう。

荒木 そういうのは想像するのが楽しいんじゃない。

リム そうなんですけど、やっぱりちょっと知りたいと思って(笑)。

ワン 主人公はそもそも名前もないんです。それが暗示しているのは、誰しもがこの主人公に当てはまるということ。映画にはいろいろな比喩を盛り込んでいるのですが、今言われたニューヨークの友人というのは、当時の台湾の人たちが抱いていた、外の世界に対する想像、理想、そういったものを比喩しています。

主演のダンサーがサプライズ登場

リム 主人公を演じるダンサーの男性はとても魅力的ですが、今は何をしているんですか?

ワン 実は今日、ここに来てもらっています。

荒木 え!

リム これはサプライズですね。

(主演を務めたチェン・ホンレンさんが登場)

リム びっくりしました。ぜひ映画に出たときの思い出を聞かせてください。

チェン・ホンレン(以下、チェン) どのシーンもすごくチャレンジングなものでしたね。たとえば屋上で細いてすりの上を歩くシーンはとても危険でした。夜オートバイに乗るシーンも、監督がもっとスピードを出せというので大変でした。

ワン (笑)

チェン この映画は私にとって重要なものでした。できるだけ多くの人にこの映画を観てほしいと思っています。いまも舞踊団に所属していて、毎年海外公演にも参加しています。

 製作から26年という歳月を経て、この映画を日本で観てもらうことができて大変嬉しいです。この作品を通じていろいろなことを感じていただけたらと思います。

ワン これは過去の台湾の姿を超現実的に描いた作品ですが、気に入っていただけたら嬉しいです。

荒木 映画にはその国その国の空気が反映しますが、台湾映画にはまっすぐな感じがして、そこが好きなんです。たとえば台湾の映画祭にいくとみんな普段着なんです。日本だと正装しなければならないでしょう? 自然体で、いっしょに喜びましょう楽しみましょうという気持ちがストレートに感じられる。そんなまっすぐさが作品にも出ていると思います。そこが台湾映画の強みですね。

(週刊文春CINEMAオンライン編集部/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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