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「赤字になってからリストラしても遅すぎる」黒字なのに“リストラを止めない企業”の思惑

文春オンライン / 2024年7月8日 11時0分

「赤字になってからリストラしても遅すぎる」黒字なのに“リストラを止めない企業”の思惑

黒字企業がリストラを実施する理由とは…? 写真はイメージ ©getty

 資生堂やオムロンなど近年、大手企業が進めるのが「黒字リストラ」。儲かっているのになぜ社員の首を切る? そして黒字リストラの先にあるものとは……。経営コンサルタントの日沖健氏の分析を前後編に分けて紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

黒字企業がなぜリストラ?

 決算が黒字なのに早期希望退職を募集する「黒字リストラ」。昨年あたりから多くの有力企業が大規模な黒字リストラを実施しており、今年の募集人数は、過去最高を大きく更新する見込みです。今回は、企業が黒字リストラに突き進む理由と今後の展開について考えてみましょう。

 まず確認しておきたいのは、一口に黒字リストラといっても、動機が「後ろ向き」のものと、「前向き」のものがあるということです。

 後ろ向きの黒字リストラというのは、従来からよくあるリストラの延長です。経営状態が厳しくなった企業が、人件費負担を軽減するために中高年社員を中心に早期希望退職を募集するものです。

 FA機器大手のオムロンは、主力の中国市場で極度の販売不振で、2024年3月期の見通しを2度下方修正した上、2000人の早期希望退職の募集を行いました。苦境を脱するための後ろ向きの黒字リストラといえます。同様のことを資生堂・住友化学・イトーヨーカ堂も実施しています。

 一方、前向きの黒字リストラというのは、経営状態が厳しくなっているわけではないのに、将来の環境変化に備えて事業構造を改革するために、先手を打ってリストラを実施するものです。

 ソニーグループ傘下のソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)は、世界で約900人の人員削減をすると発表しました。SIEは前年に過去最高の売上高を計上するなど業績は堅調で、構造改革のための前向きの黒字リストラと言えます。

かつては「リストラはご法度」だったが…

 日本では昭和の時代まで、基本的に「リストラはご法度」で、会社が倒産の瀬戸際に追い込まれた際の最終手段でした。ところが、バブル崩壊後の1990年代後半、日立製作所・富士通といった電機メーカーなどが大規模なリストラをするようになりました。

 私事ですが、筆者が勤務していた日本石油(現ENEOS)は、1999年に同社で初めて早期希望退職を募集しました。三菱石油と合併し余剰人員が発生したためですが、当時の人事担当役員は責任を感じて自ら辞職しました。当時はまだ「リストラはご法度」という考え方が強く残っていたのです。

 その後、2008年のリーマンショックを経て、企業は一時的・軽微な業績悪化でも、躊躇せずリストラをするようになりました。そして、コロナ禍を経て最近は、業績が良い企業の黒字リストラが広がっています。

 ここで問題になるのは、前向きのリストラでしょう。「将来の環境変化に備えて」と言われると、将来はどんな環境変化も起こりうるので、事実上「企業は思い立ったらいつでもリストラできる」ということになってしまいます。

 メディアやSNSでは、「コロナ禍に便乗している」といった批判が出ていますが、当の企業はどう考えているのでしょうか。今回、大手企業の人事担当役員に取材したところ、「当然の措置」という意見が多く聞かれました。

「赤字部門を助けるために余剰人員を他部門で受け入れていたら、会社が丸ごと潰れてしまいます。余剰人員には辞めてもらい、不採算事業を縮小・廃止することが、会社全体の構造改革に繋がり、結果として多くの雇用を守ることに繋がるのではないでしょうか」(食品)

「技術・市場の変化の激しい時代に、大赤字になってから慌ててリストラするのでは、手遅れです。黒字リストラは、会社が長期的に発展するために当然の措置でしょう。退職強要ではなく正当な退職勧奨であり、やましいところは一切ありません」(IT)

 ここでの「退職勧奨」は、社員が自らの意思で退職してくれるよう、会社が社員に働きかけることです。「退職強要」は、会社が社員に対し、本人の意思に関係なく、退職を強要することです。退職勧奨は適切な方法であれば問題ありませんが、退職強要は違法です。

黒字リストラの先にあるものとは…

 では、今後はどうなるのでしょうか。黒字リストラが定着し、リストラが当たり前の時代になりつつありますが、企業はその先を見据えているようです。それは、「解雇の金銭解決」です。

 現在、日本の労働法制は、企業が社員を解雇することを厳しく制限しています。解雇の金銭解決とは、違法な解雇が行われた場合に社員の職場復帰という方法だけでなく、金銭の支払いで解決しようというもので、経団連が制度導入を政府に働きかけています。

 さらに、解雇そのものの規制を緩和し、違法な解雇だけでなく、一般的な解雇も金銭で解決できるように法改正を望む声がありました。言うなれば、「金を払うから解雇させろ」ということです。

「当社の中国・アメリカなど海外の現地法人では、成績不振の社員を補償金を支払って解雇しています。当社はすでにグループ全体の過半数が外国籍で、日本人だけが解雇されず雇用を守られているのは、合理的ではありません」(機械)

「いったん正社員として雇ったらどんなに働かなくても解雇できないって、冷静に考えておかしくないですか。よく働く社員には高い給料を払う、働かない社員には辞めてもらう、というやり方に変えないと、日本全体が沈んでしまいます」(商社)

 社員にとって、早期希望退職なら応募しなければ済む話かもしれませんが、解雇規制が緩和されたら、大きな影響が及びそうです。これからどのように政策議論が進み、どう制度が変わっていくのか、注視する必要がありそうです。

〈 「若手が本当に気の毒」業務負荷が増え、メンバーは疲弊、モチベーションも低下…「リストラを繰り返した会社」の末路 〉へ続く

(日沖 健)

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