「若手が本当に気の毒」業務負荷が増え、メンバーは疲弊、モチベーションも低下…「リストラを繰り返した会社」の末路
文春オンライン / 2024年7月8日 11時0分
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何度もリストラを実施する会社が招いた「悪影響」とは…? 写真はイメージ ©getty
〈 「赤字になってからリストラしても遅すぎる」黒字なのに“リストラを止めない企業”の思惑 〉から続く
決算が黒字なのに早期希望退職を募集する「黒字リストラ」。近年は多くの有名企業が大規模な黒字リストラを実施しており、今年の募集人数は過去最高を大きく更新する見込みだ。経営コンサルタントの日沖健氏の分析の後編では「リストラが会社に招く悪影響」について解説していく。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
◆◆◆
「黒字リストラ」が社員に与える影響は…
黒字リストラの実施方法は、各社まちまちです。日本企業で多いのは、「45歳以上の社員」や「営業部門に所属する社員」などと対象を絞って早期希望退職を募集し、応募者には割増退職金を支給して退職してもらう、というやり方です。
こうした黒字リストラは、社員にどういう影響を与えるのでしょうか。まず、近年リストラを実施した会社の人事部門関係者に取材しました。結論から言えば、「社員には大きな影響はない」という見解が大勢でした。
「昔は当社でも、辞めさせたい社員を個別に会議室に呼んで、首を縦に振るまで説得するといった手荒なことをしていました。しかし、近年はコンプライアンスがうるさいので、そういうリスキーなことはしていません。応募があったら『はいどうぞ』と受付けるだけで、社員との間でトラブルになるとかは、ありません」(金融サービス)
「早期希望退職を募集したら、もともと転職志望があるとか、実家が資産家といった社員が応募します。なので、周りの社員は『あの人がやっぱり応募したのね』という受け止め方でしょう。当社は45歳以上の社員が対象で、もともと戦力として期待していないので、職場でも大きな影響はないはずです」(エネルギー)
早期希望退職の募集では、「会社から見て辞めて欲しくない優秀な人が応募し、本当は辞めて欲しいダメ社員は応募しない」という問題がよく指摘されます。実際は、どうなのでしょうか。
「以前は、たしかにそういう傾向がありました。しかし、近年は優秀で上昇志向の強い社員は、早期希望退職とかに関係なくさっさと外コン(外資系コンサルティングファーム)とかに転職しています。早期希望退職によって職場が戦力ダウンになったなどは、耳にしません」(素材)
では、当の社員は、早期希望退職をどう受け止めているのでしょうか。実際に早期希望退職に応募し退職した人は、思い切って応募したことに満足しているようです。
「30年近く勤めた会社を辞めるかどうか、さすがに悩みました。ただ、50歳を過ぎてからだんだんと職場で居づらくなってきていましたし、意外とスムーズに転職できたので、結果的には退職し満足しています」(生活品メーカーを退職・50代)
「昨年就任した新社長は、経営方針が不明確で、戦略は外しっぱなし。業界では一人負けで、この会社にそろそろ見切りを付けようと考えていました。昨年から転職活動を始めて、再就職のめどが立っていたので、今回の早期希望退職は渡りに船というところです」(計測器メーカーを退職・40代)
かつては、リストラというと、「首切り」「社員が路頭にまよう」といったネガティブなイメージがありました。しかし、近年は、転職市場が発達し、容易に再就職先を見つけられるようになったせいもあって、早期希望退職は社員にとってさほど大ごとではなくなっているようです。
「リストラを繰り返した会社」の末路
一方、早期希望退職に応募せず会社に残った社員はどうでしょうか。「そんなに大きな影響はありません」(食品)という見解が多く聞かれましたが、一部に悪影響を訴える意見がありました。
「近年、事業部門の業績が悪く、もともと人員を減らしていたところに早期希望退職がありました。私の職場では、全部で10人いたのが早期希望退職で2名減って、1年経っても補充がありません。1人当たりの業務負荷が増え、メンバーは疲弊していますが、部門長は見て見ぬふりです」(サービス)
今回の取材で最も印象に残ったのは、60代前半の電機メーカーの社員の過去の述懐と感想です。その電機メーカーは、1990年代から早期希望退職・事業売却といったリストラ策を繰り返し実施しています。
「最初の頃は、職場の管理職が高齢の部下に執拗に退職届を出すように迫り、組合がそれに反発し、騒然としました。社員も『誰が応募するのか?』と疑心暗鬼でした。しかし、回を重ねるたびに、『ああ、またか』という感じになり、今では組合は会社に抗議しませんし、社員も話題にすらしません」
「私自身は、リストラそのものには賛成でも反対でもありません。ただ、リストラを何度も繰り返し、リストラが当たり前というのは、ちょっと異常ではないでしょうか。淡々と静かに滅んでいく会社に、誰も希望を持てません。こんな会社にしてしまって、将来ある若手には本当に気の毒です」
会社が生き残るために、リストラは必要なこと。ただ、それが当たり前になり、残った若手が失望して働く意欲を失うとすれば、社員にとっても会社にとっても不幸です。リストラが当たり前という現状を労使・政府が問題視し、しっかり対応を考えていくことを期待しましょう。
(日沖 健)
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