「ワシは遺書なんか書かん」と…《紀州のドン・ファン事件》で側近が「遺産13億円は市に」判決を疑問視するワケ
文春オンライン / 2024年7月7日 17時0分
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「4000人の女性と関係した」と豪語していた “紀州のドン・ファン”こと野﨑幸助氏
“紀州のドン・ファン”こと野﨑幸助氏(享年77)の死後に出てきた手書きの遺言書は本物か否か――。6月21日、和歌山地裁は、遺言書の無効確認を求めていた野﨑氏の実兄ら親族の訴えを退け、遺言書を「有効」とする判決を言い渡した。
◆◆◆
遺言書をめぐり徹底抗戦
和歌山県田辺市で貸金業などを営む資産家の野﨑氏が怪死したのは、2018年5月のこと。約3年後の21年4月、同氏に致死量を超える覚醒剤を飲ませて殺害したとして、3人目の妻だった須藤早貴(28)が逮捕される。“パパ活婚”から105日後の犯行だった。
一方、野﨑氏の死の翌月に見つかったのが、「いごん」で始まるA4用紙1枚の遺言書だ。そこには〈個人の全財産を田辺市にキフする〉などと癖の強い文字で綴られていた。
司法記者が振り返る。
「保管していたのは野﨑氏の会社にいた元幹部で、野﨑氏の死後、和歌山家裁田辺支部に遺言を提出。遺言書としての形式は整っていたため、19年9月、田辺市が受遺を決め、受け取りの手続きを開始しました」
コンドームの訪問販売をきっかけに、一代で莫大な富を築いた野﨑氏。遺産は預貯金や不動産、絵画、有価証券など、総額で13億2000万円にも及んだ。
「ところが翌年4月、野﨑氏の親族4人が『遺言は何者かに偽造されたもので無効だ』として、和歌山地裁に提訴したのです」(同前)
野﨑氏には子がなく、両親も他界しているため、遺産は、法定相続分に従えば、配偶者の早貴が4分の3、残る4分の1を野﨑氏のきょうだいに分配するはずだった。だが、遺言の登場によって状況は一変。遺言が有効でも、配偶者の早貴は相続取り分(遺留分)として、遺産の2分の1を請求する権利があるが、きょうだいには遺留分がなく、取り分はゼロになる。
「親族は、遺言書を別人の筆跡とする複数の筆跡鑑定書を地裁に提出。市側は、徹底抗戦をしてきた」(同前)
「ワシは最低でも100歳まで生きるんや。遺言なんか書かん」
提訴から4年、和歌山地裁は遺言を本人が書いたものと認定したわけだが、野﨑氏の信用を得ていた元側近従業員の1人はこう疑義を呈する。
「野﨑社長のミミズみたいな読みづらい字を、何千回と見てきました。あの遺言は、筆跡を似せてはいるけど、今でも偽物ではないかと思っています」
この人物は遺言裁判に関わっていないが、続けてこんな新証言をするのだ。
「社長が遺言を残していたこと自体が不自然なんです。2度目の離婚の後、『死んだら次の嫁に全財産をやる。もし嫁がいなかったら田辺市に寄付する』と、確かに言っていたことはあった。ただ、遺言は書かないんですかと聞いたら『ワシは最低でも100歳まで生きるんや。遺言なんか書かん』と」
発見された遺言の日付は13年2月8日。
「遺言なんか書かないと言っていたのは、それより後で、殺される数年前のことでした。それに社長は、金融業務ではきっちり公正証書で借用書を作っていましたし、遺言を残すなら公正証書遺言にするはずです」(同前)
3人目の妻の裁き
田辺市は受遺を決めた19年以降、遺産受け取りの諸経費として、すでに6700万円を支出。地裁判決に胸を撫でおろしたが、親族側代理人はこう語る。
「判決文を読むと、不合理な理由付けが目立つ。控訴するかどうかを依頼者のご親族が検討しているところ」
ともあれ、遺産の行方が決定するには、早貴の裁きを待つ必要がある。
「夫の野﨑氏に対する殺人罪等で起訴されている早貴は、有罪になると民法の規定で相続権を失う。遺言を有効とした今回の地裁判決が確定し、早貴が有罪になれば、野﨑氏の遺言通り全財産が田辺市のものに。なお、遺言が無効で早貴が有罪の場合は、親族の総取りです」(前出・記者)
現在、早貴は別件の詐欺罪で審判を受けており、次回公判は7月5日。だが、殺人罪の裁判は、期日も決まっていない。法廷に舞台を移した“ドン・ファン劇場”。終幕はまだまだ先である。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年7月4日号)
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