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大ブレイク直前にビートルズを解雇された元メンバーが語った、驚きの真相とは?……『ザ・ビートルズの軌跡 リヴァプールから世界へ』

文春オンライン / 2024年7月10日 6時0分

大ブレイク直前にビートルズを解雇された元メンバーが語った、驚きの真相とは?……『ザ・ビートルズの軌跡 リヴァプールから世界へ』

ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、ジョン・レノン ©SHORELINE ENTERTAINMENT

 ポール、ジョン、ジョージ、リンゴ。ザ・ビートルズがこの4人になる前、ドラマーは別の男だった。ピート・ベスト。メジャーデビュー直前に突然解雇された彼が、ビートルズを追い出された日やその過程などについて自ら詳細に語ったドキュメンタリーを、洋楽ファンのジャーナリスト・相澤冬樹が大推薦!

◆◆◆

「ドラムセットを持っていたから」選ばれた男

 パッとしないバンドで2年半も苦楽を共にしたじゃないか。場末のクラブで演奏を繰り返し、ドイツへの遠征で場数を踏んで腕を磨き、さあこれからって時に「お前はクビだ」って、そりゃないだろ?

 誰もが知ってるビートルズ。そのメジャーデビュー直前にバンドを解雇されたドラマー、ピート・ベストの心中は察するに余りある。映画は彼らが世界に羽ばたく寸前の“知られざる”エピソードを描く。中でもピートが率直に当時の出来事を回想するシーンがかなりの部分を占め、文句なしに面白い。例えば彼が他のメンバーに抱いていた印象。

 ポール・マッカートニー……「広報マンみたい。『調子はどう?』みたいな」

 ジョージ・ハリスン……「一番若くておとなしい。誰よりも子供で幼かった」

 それがジョン・レノンになると……「初対面で圧倒されたよ。ルックスもそうだけど、ちょっとした冗談、一風変わったユーモアにね」

 何となくわかる気がする。

 ビートルズ、デビュー前のエピソードとしてよく知られるドイツ・ハンブルクへの遠征についても詳細に語っている。演奏するクラブは、世界的に有名な“飾り窓”の歓楽街レーパーバーンにある。その巨大なネオン街に圧倒される若き“ビートル”たち。革ジャンを着て粋がっていても、まだ17~18歳の少年だった。ベルリンの壁が構築される直前だと思うと歴史を感じる。

 最初は街一番のクラブで演奏するつもりだったけど、実際には「薄汚く古い」店に回された。そこを街一番にしてやろうと張り切ってライヴを。毎晩7時間もの長時間演奏を要求されたが、客の反応、客足の動きを見極め、緩急つけたパフォーマンスで乗り切った。

「プロになったよ。あそこで成長したんだ」

 ハンブルクでのビートルズを当事者が誇らしげに語る貴重な映像だ。実は彼の加入は、このハンブルクでのクラブ出演にあたり「ドラマーを見つける」という条件を満たすためだったと音楽評論家が明かしている。ピートが選ばれた理由は「ドラムセットを所有していた」。

 そう言えば何かとビートルズと比較されるローリング・ストーンズも、ビル・ワイマンをベーシストに選んだのは「大きなアンプを持っていた」のが理由だったとか。ピートもビルも腕は確かだが、それ以上に楽器の所持が大事だったというわけだ。高価だったからなあ。

ライヴの後にさっさと帰っていたことで……

 こうして3回に渡るハンブルク遠征で実力を蓄えた。音楽にどっぷり浸かりオリジナル曲の制作も進む。故郷リヴァプールに凱旋し、ライヴは超満員の大人気。他のバンドも彼らの革ジャン姿をまねた。満を持してレコード会社との契約にこぎつけ、デビュー曲『ラヴ・ミー・ドゥ』の録音に取りかかった。ところがここで問題が生じる。ピートのドラムにレコード会社のプロデューサーが難色を示したのだ。

 解雇を告げられた日のことを、ピートがリアルに語る。ビートルズの著名なマネージャー、ブライアン・エプスタインは、ためらった末にこう告げたという。

「メンバーは君を外すと決めて、後任も決まっているんだ」

「爆弾を落とされたようだった」とピート。私も組織に“切られた”ことがあるからよくわかる。だが口調は淡々として表情も穏やか。40年以上の時の流れを感じる。重要なのは、この時彼を“切った”のはレコード会社だけではない。バンドの仲間にも見限られてしまっていた。それをよく表すジョン・レノンの発言が紹介されている。その言葉が「ベスト・ドラマーが去り、グレート・ビートルがやってきた」という映画のキャッチコピーにつながる。

 ジョン、ポール、ジョージの3人はライヴ後も呑んで騒いで愉快に過ごす。ところがピートは彼女と一緒にさっさと帰ってしまう。一方、後任のドラマーとなるリンゴ・スターは当時別のバンドだったが、3人と一緒に楽しんでいたという。つまり問題は腕前じゃなく、相性なのだ。それは努力だけではどうにもならないから余計に切ない。

 ビートルズがロック初体験、という方は少なくないだろう。私もその一人だ。中学時、解散から5年だったが「世界を変えたバンド」としてすでにレジェンドだった。「赤盤・青盤」と呼ばれるベスト盤をカセットテープに録音し、旋律が脳髄に沁み通るほど聴いた。今でも時々脳内で再生される。高校でストーンズに心変わりしてしまったが。

ほんの少しの行き違いが変えた運命

 当時聴き覚えた『オール・マイ・ラヴィング』『フロム・ミー・トゥ・ユー』『プリーズ・プリーズ・ミー』といったヒット曲の演奏シーンをふんだんに味わえるのも魅力だ。おそろいのマッシュルームカット。がに股で歌うジョン。「ライヴに行っても演奏が聞こえない」と伝説になった女子たちの歓声。そしてビートルズと言えば圧倒的なハーモニーの美しさ。「声域に恵まれてとてもいいハーモニーを奏でた」とピートも認める。最後にしみじみ振り返る。

「いつも満員だった。他のバンドがやらない境界線を越えるようなことをやっていたから。とても刺激的だったよ。その一端を担えて素晴らしかった」

 バックに流れる曲は『シー・ラヴズ・ユー』=彼女はお前が好きなんだ、うれしいだろ。裏には「俺じゃなくってさ」という悔しさを感じる。意図した選曲だよね。バンドは俺(ピート)じゃなくあいつ(リンゴ)を選んだ。ほんの少しの行き違いが、世界的大スターになるかどうかの運命を分けた。人生は計り知れない。ビートルズや音楽ファンはもちろん、どなたにもオススメできる一作だ。

『ザ・ビートルズの軌跡 リヴァプールから世界へ』
 伝説のロックバンド「ザ・ビートルズ」。数多くの名曲を生み出し熱狂的なファンを生んだ彼らも、メジャーデビュー前はリヴァプールで演奏する小さなコピーバンドだった。元ドラマー、ピート・ベストらメジャーデビュー前を知る関係者のインタビューと、当時のTVパフォーマンス映像を交えながら、知る人ぞ知る初期ビートルズの在りし日を紹介する。

監督:ボブ・カラザーズ/出演:アラン・ウィリアムズ、ピート・ベスト、アンディ・ホワイト/2008年/イギリス/74分/配給:NEGA/©SHORELINE ENTERTAINMENT/公開中

(相澤 冬樹/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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