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「4年間、人間から逃げたのになぜ…?」最凶ヒグマ“OSO18”があっけない最期を迎えた理由

文春オンライン / 2024年7月14日 17時0分

「4年間、人間から逃げたのになぜ…?」最凶ヒグマ“OSO18”があっけない最期を迎えた理由

OSO18のあっけない最期とは…? 写真はイメージ ©getty

〈 「人生で一度もかいだことのないような臭い」最凶ヒグマ“OSO18の骨”を掘り出したNHKディレクターが見た「驚きの光景」 〉から続く

 66頭の牛を襲い、人間社会を恐怖に陥れた凶悪熊「OSO18」があっけない最期を迎えた理由とは…? 「怪物ヒグマ」と呼ばれたOSO18と人間との戦いを描いたノンフィクション『 OSO18を追え “怪物ヒグマ”との闘い560日 』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

OSO18に何が起きたのか?

 改めて2023年6月24日のOSOによる最後の襲撃から駆除されるまでの経緯をまとめると以下のようになる。

 既に述べた通り、我々が駆除を許可されているのは標茶町と厚岸町であり、今回OSOが現れ駆除された釧路町は許可の範囲外にある。

 オスのヒグマは一日に10km以上移動することもあるので、標茶・厚岸両町から40~50kmの釧路町に現れたこと自体は、ありえないことではない。

 だが、なぜOSOはこの夏、これまでの「狩場」であった標茶・厚岸から離れたのであろうか。

 その理由は2023年以降のOSOの動きを時系列で整理すると、うっすらと見えてくる。


6月24日 標茶町上茶安別の牧場で生後14カ月の乳牛が背中の肉を食われ、死亡。
同25日 前日の襲撃地点から南に10km離れた標茶町の町有林のセンサーカメラに木に背中をこすりつけるOSOの鮮明な姿が初めて捉えられる。
7月1日 上茶安別の襲撃現場に再びOSOが現れる。
7月14日 阿歴内から上尾幌方面へと向かうOSOの足跡を発見。
7月30日 OSO18駆除。

 この年は、OSOの出没が予測された阿歴内から中茶安別のエリアのトレイルカメラにOSOを上回る大型のヒグマが多数映ったことは既に述べた。クマは自分より大きいクマは基本的に避けようとする。OSOはこれらの大型のクマを避けたのか、この年最初の──結果的に最後となった──襲撃は、6月24日、中茶安別の手前の上茶安別で起きた。

 同25日に襲撃現場の南方10km地点で一種のマーキング行動の“背こすり”をしている姿を撮影され、7月1日に上茶安別の襲撃現場に戻ってくる。

 そこで我々が仕掛けた括り罠を間一髪で回避した後、最後に上尾幌方面へと向かう足跡が確認されたのが7月14日ということになる。

 位置関係としては、北から上茶安別—中茶安別—阿歴内—上尾幌となっており、OSOは大型クマが多数いる〈中茶安別から阿歴内〉エリアをスルーするようにして一気に南に下ったことになる。

エゾシカ不法投棄の闇

 なぜOSOは釧路町オタクパウシに現れたのか。

 後にわかったことだが、実はオタクパウシには上尾幌と同じようなエゾシカの不法投棄場所が存在していたのである。

 OSOの駆除現場から林道を海岸線に向かって進んでいくと右側に小川が流れ、その左右をトドマツに囲まれたエゾシカにとっては、住み心地の良い場所が広がっている。

 不法投棄場所はその一角にあった。

 実際に我々のNPOのメンバーがエゾシカの猟期中にこの場所をたまたま訪れ、不届きな狩猟者による不法投棄の現場を目撃している。そこには背中からロースをはぎ取られた無残な姿で横たわるエゾシカの死体が積まれていたという。

 その場所は、OSOが駆除された現場から、わずか1kmほどしか離れていない。

 さらに言うと、私が独自に発見した違法な括り罠の設置場所ともほど近い。

 それにしても、あれほど人間を警戒し、4年間に亘って追跡の手をかわし続けてOSO18が、なぜかくも呆気ない最期を迎えたのか。

OSO18の最期

 駆除後に判明した様々な事実が意味するところを踏まえて、そのラストシーンに至るまでの物語を描くとすれば、次のようなものだったのではないか。

〈あの場所に行けば、いつでも美味いエゾシカの肉にありつける〉

 森の中にいくつかエゾシカの不法投棄場所を見つけたOSOにとって、そこはまさに「レストラン」であった。山菜やドングリなどの木の実をとるよりも簡単に肉を食えるため、いつしかOSOは肉以外のものを口にしなくなっていた。

 5歳になったある日、OSOは牛の肉を口にする。放牧中に自然死した牛の死体を食べたのか、それとも最初は好奇心で牛を襲ったのかはわからない。

 いずれにしろ、それは、エゾシカよりもはるかに美味だったに違いない。

 草木類や果実が見つけにくくなる夏場、牧場にさえいけばいくらでも襲えて、しかもエゾシカほど俊敏ではない牛は、OSOにとって貴重なご馳走となった。

 だが襲撃を繰り返すうちに人間側の警戒も強まり、ついには追跡の手がすぐ近くにまで及び始める。以前のように一週間、二週間という短い周期で連続して襲うことは難しくなっていった。

 襲撃を初めてから5年目となる2023年。

 OSOは6月24日に一頭の子牛を襲ったものの、背中の肉を食べたところで、人の気配を感じて逃げ出した。一週間後に現場に戻ったものの牛の死体は既に分解が始まっており、左脚をかじりとるのがやっとだった。

 さらにこの年は、OSOの「狩場」に巨大なクマが集まるようになり、OSOは追い出されるようにして、「狩場」を去らざるを得なかった。

 向かった先は、一番楽にエゾシカの肉が手に入る上尾幌の「レストラン」、そしてもう一つの「レストラン」があるオタクパウシだった。

(藤本 靖/ノンフィクション出版)

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