【ドラマ化】「依頼者も弁護士も不幸になる」SNSで“無理筋な情報開示請求”をしまくる有名人の目的とは《激変するネット中傷訴訟の10年》
文春オンライン / 2024年7月19日 13時0分
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〈 【ドラマ化】《傷ついた心の値段は?》加害男性がテラハ木村花さんに支払った「リアルな金額」とネット中傷裁判にかかる「相当な期間」 〉から続く
白泉社『黒蜜』で連載中のマンガ『しょせん他人事(ひとごと)ですから~とある弁護士の本音の仕事~』がドラマ化され、7月19日からテレビ東京系で放送がスタートする(毎週金曜20:00~)。
主人公の弁護士・保田理は中島健人、保田の事務所に勤めるパラリーガルは白石聖、ドラマオリジナルキャラクターの喫茶店主・柏原麻帆を片平なぎさが演じる。〈炎上〉〈誹謗中傷〉〈情報開示請求〉などネットトラブルに特化したドラマとして「テーマが身近すぎる」「実際に起こりそう」と早くも話題だ。
『しょせん他人事ですから』をより楽しむために、主人公のモデルであり、マンガ監修を担当する弁護士・清水陽平氏のインタビュー記事を再公開する(初出2022年8月29日、単行本巻数、発行部数は最新のものに変更。肩書き、年齢等は当時のまま)。
◆◆◆
現在は「SNS依存」「SNS中毒」という言葉が当然のように使われている。だが、10年前の世界は、日々ここまでSNSに浸ってはいなかった。マンガ 『しょせん他人事(ひとごと)ですから』 (白泉社)を監修する弁護士・清水陽平氏は、約15年前からインターネットの誹謗中傷に関わっている。
当時と今、ネットと人の関わりはどう移り変わったのか。(全3回の3回目/ 1回目 を読む)
2010年頃までは「SNSはmixi、携帯はガラケー」
――清水さんがネットの誹謗中傷、炎上案件に関わり始めたのは、2008年頃からだそうですね。当時はどんな相談が多かったですか。
清水 2008年頃は、SNSといえばmixiくらいでした。TwitterやFacebookはその年に日本上陸していますが、まだ流行ってはいなかったので。
ですから、2ちゃんねる関連の相談が多かったです。「2ちゃんで中傷された」「個人名を晒された」などですね。
――2ちゃんねるはよく燃えてましたね。
清水 当時は《炎上》という言葉自体がなかったと思います。2ちゃんねるでは、炎上ではなく《祭り》と言っていました。
――あ。言われてみればそうでしたね。
清水 それに当時は、携帯といえばガラケー。iPhoneが出始めた頃で、スマホユーザーはごくわずかでした。世の中全体としては「ネットというものがあるよね」ぐらいで、使わない人はまったく使わないものだったと思います。
スマホがネット文化を変えた
――ネットの地位はとても低かったですね。2ちゃんねるは「便所の落書き」と言われてましたし。
清水 ええ。インターネットの情報は不確かで、まともなものはない……みたいな。それが変わったのは、2010年代に入って、スマホが普及したことが大きいです。
それまでは、ちゃんとネットにつながるには、家やネットカフェのPCから……という時代でした。ところが、スマホの普及と同時にSNSも発達したので、誰もが常時、SNSを見られるようになったんです。
裁判官たちに《wwwww》の意味を説明
――10年前と今では、裁判の進め方も変わりましたか。
清水 もしかすると、裁判で勝てるラインは、ゆるくなったかもしれません。
――10年前より勝てるようになった?
清水 勝てるというか、話が通じやすくなりました。2010年頃までは、ネットの誹謗中傷の判例がわずかだったので。
――そうか。そういう時代ですよね。
清水 ええ。当時の裁判官は、ネットの知識がゼロに近かったんです。ところが、誹謗中傷はネットスラングを使うケースが多くて。
――笑いを意味する《w》などは当時からありましたね。でも、裁判関係者にとっては「これは英語のダブリューだ」と?
清水 そうですね。《w》がひとつならまだ説明は簡単なんですが、《wwwww》のように連続する場合、侮辱・嘲笑的な意味合いが加わるじゃないですか。
ですから、裁判のたびに資料をつけて、「この言葉にはこういう意味がある」など、かなり細かく説明しなくてはいけなくて。
「ハッシュタグとは…」延々と説明
――裁判で、説明するのに苦労したネット用語はありますか。
清水 ハッシュタグですね。ニコニコ動画だったと思いますが、中傷的な言葉のハッシュタグが付けられてたんですよ。
でも裁判で、「ハッシュタグとは何か」を説明するのがとても大変で。
――2010年頃にハッシュタグの意味を理解させるのは、大変そうです。
清水 そのときの裁判官は高齢の女性だったんですが、書面で何回も説明しても、理解してくれなくて。
ハッシュタグって、自分で言葉を選んで投稿するものじゃないですか。ところが、その裁判官は「ハッシュタグは《検索》のためのタグだから、《投稿》とはいえない」などチグハグなことを言いだして。「いやいや、違うでしょ」と。
――(笑)。
清水 話が通じないんです。結局、こちらの言い分は何も理解されないまま、その裁判は負けました。そんな頃に比べたら、今はややマシですね。
SNSで無理筋な開示請求をする人たち
――ところでSNSには、すぐに「これは名誉毀損だ」「情報開示請求をする」など、はためには無理筋な主張をする有名アカウントや弁護士がいます。この人たちの狙いは何でしょうか。
清水 特に狙いはないと思います。そういったアカウントは「不快な書き込みはすべて開示請求したい。実際に開示できる/できないは問わない」という思いがあるのではないかと。
で、それを受ける弁護士は、「依頼はどんな内容でも断らない。裁判所が依頼者の主張を認めなくてもいいので、とにかく手続きを進める」というスタンス。私とはタイプが違うな、と思います。
――清水さんは、無理筋な依頼は受けないですか。
清水 私は、自分が対応できそうな案件だけを受けています。というのは、相談の中には、どうやっても勝てる見込みがないものがあるんですね。
――先ほどの、“結婚詐欺師が「詐欺師」と言ってきた相手を訴える”ようなケースですね。
清水 ええ。弁護士に依頼して裁判を起こすと、依頼者はそれなりのお金と時間を失います。
ですから、裁判で負ける可能性が高い案件を受けるのは、依頼者も弁護士も不幸になると思っています。
弁護士と依頼者が一体化してはいけない
――なるほど。清水さんはドライな弁護士という印象でしたが、誠実なんですね。
清水 私はフラットなつもりなんですよ(笑)。
――お話を伺う前は、「どんな依頼でもすべて受ける」弁護士の方が人情派かと思っていましたが、今はドライな清水さんがいい人に見えてきました。
清水 ……やっぱり、弁護士は“代理人”であることに意味があるんですよ。弁護士が依頼者と同化すると、代理人の意味がなくなってしまう。
依頼者の主張をくみとりつつ、第三者として冷静に状況を見て、「よい・悪い」の判断を提供する仕事だと思うんです。
――他人目線だからこそ、その人のためになる助言ができる?
清水 そう思っています。だから、マンガタイトルの「しょせん他人事」というのは、すごく冷たく聞こえるかもしれませんが、そうではなくて。
「依頼は“他人のこと”として、自分から切り離したうえで、きちんと考える」という意味合いがあります。
――なるほど。……すみません、ずっと気になっていたんですが、清水さんの後ろに掛け軸のようなものがありますね。
マンガでは、保田は事務所に《他人事》と書かれた掛け軸を飾っていますが、清水さんもやっぱり同じ言葉を?
清水 あ、この掛け軸に書いてあるのは、事務所のモットーです。
ただ、マンガ家さんが取材に来たときに、これを見てヒントにしたのかもしれません。
――残念。ちょっと期待していました。
清水 マンガは今、だいぶ知られてきたようで。ネットの誹謗中傷、炎上のさまざまな例を載せているので、誰が読んでも面白いと思います。
でも最近、いろんな人に「保田弁護士のモデルなんですよね」と言われて。印象がひとり歩きしている気がしますが、私はあそこまで極端な性格ではないですよ。そこは自分ごととして主張しておきます(笑)。
〈 【マンガ】「風俗勤務」「おっぱい見せろ」中傷された人妻&弁護士の大逆襲!現実よりリアルな《情報開示請求ドラマ》 〉へ続く
(前島 環夏/Webオリジナル(特集班))
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