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中国、ウクライナ、アメリカ…「連邦議会襲撃事件」を予言した政治学者が語る“内戦の起きやすい国”とは?

文春オンライン / 2024年7月13日 6時0分

中国、ウクライナ、アメリカ…「連邦議会襲撃事件」を予言した政治学者が語る“内戦の起きやすい国”とは?

バーバラ・ウォルター氏 ©delmarphotographics

2021年1月6日、ドナルド・トランプ氏の大統領選敗北を認めない支持者が米国会議事堂を占拠し、警官ら5人が死亡した。この「連邦議会襲撃事件」を“予言”していた政治学者が、カリフォルニア大学サンディエゴ校・政治学教授のバーバラ・ウォルター氏だ。(聞き手 ・奥山真司・戦略学者)

◆◆◆

CIAの「政治的不安定性タスクフォース」

 ──『アメリカは内戦に向かうのか』という衝撃的なタイトルのご著書は、日本語版(井坂康志訳、東洋経済新報社)も出ていますが、なぜこの本を書かれたのですか。

 ウォルター 実は、「米国の内戦」に関する本を書くことになるとは、自分でも思いもよりませんでした。

 私は政治学者として世界中の「政治的暴力」を研究してきました。1990年からは「内戦」を研究しています。2017年から2021年にはCIAの「政治的不安定性タスクフォース」のメンバーに加わりました。どの国が政情不安や政治的暴力に見舞われる可能性が高いかを「モデル」を使って予測するのです。

 タスクフォースは2種類の人々から構成されていました。紛争専門家とデータアナリストです。紛争専門家が内戦のリスクを高める「変数」をデータアナリストに教えて「モデル」を作成するのです。

 そこで過去の政治的暴力や内戦に関する研究を調べ上げた結果、38個の変数を見つけました。統計的に一度でも有意であると判断されれば、とりあえず「変数」としてカウントしたわけです。貧困、民族多様性、人口規模、領土の大きさ、不平等、腐敗、地形(湿地帯や山岳地帯が多いかどうか)などです。

 さらにアナリストたちは、「パーシモニアス(倹約的な)モデル」、すなわち予測値が最も高く変数の数が最も少ないモデルに辿り着くまで試行錯誤を繰り返しました。その結果、「本当に重要なのは二つの変数だ」ということを発見したのです。しかもそれは私たちが予想していた変数ではありませんでした。

「アノクラシー」が危ない

 第一の変数は、「アノクラシー」と呼ばれるものです。

 世界には、民主主義の特徴を持つ国、独裁的専制の特徴を持つ国がありますが、その中間にある「アノクラシー」と呼ばれる政体の国があります。この「部分的民主主義」と呼ばれる国家では、政情不安や内戦に至る危険性が、「専制国家」の2倍、「民主主義国家」の3倍にも及んでいたのです。

 北欧のような十全な「民主主義国家」で内戦が起きることはほとんどありません。北朝鮮のような抑圧的な「専制国家」で内戦が起きることもほとんどありません。例えば中国には、反乱を起こすだけの理由を持つ集団が数多く存在しますが、実際に反乱を起こすチャンスは彼らにはありません。他方、民主主義国家にも不満を持つ集団が存在しますが、システムを変えるための暴力以外の平和的な方法を彼らは手にしています。「内戦」はいずれでもない「中間的な政体」で起こるのです。

 ある国がどの程度まで「民主的」か「専制的」かを該当年ごとに数値化した「ポリティ・インデックス」──プラス10(最も民主的)〜マイナス10(最も専制的)──では、プラス10〜プラス6なら「民主主義国家」とみなされ、マイナス10からマイナス6なら「専制国家」とみなされますが、その中間に位置するプラス5〜マイナス5が「アノクラシー」に該当します(下の表参照)。

 私たちの当初の予想に反して、内戦リスクが最も高い国は、「最貧国」でも「不平等国」でもなく、さらには「民族的・宗教的に多様な国」でもなく「抑圧度の高い国」でもありませんでした。むしろ部分的に民主主義が機能する社会、すなわち「アノクラシー」──専制国家から民主国家への移行過程、民主国家における民主主義の退行過程──の国において、「内戦」が起こるリスクが高かったのです(グラフ参照)。

 ただし、すべてのアノクラシー国家が内戦に陥るわけではありません。シンガポールのように、長年、専制的な国家体制が保持されながらも、暴徒化することなく、平和と安定を見出す国も存在します。

アイデンティティによる分断

 ──もう一つの変数は何ですか。

 ウォルター 「民族、宗教、人種的アイデンティティによる政治的分断の激化」という変数です。

 ただ誤解してはならないのは、多民族を抱える国が他国より必ずしも内戦が勃発しやすいわけではない、ということです。

 タスクフォースでは、「国内の民族・宗教グループの数と種類」よりも「民族がいかなる権力と結びついているか」を分析することで、一つのパターンを発見しました。内戦に陥る国には、「イデオロギー」より「民族、宗教、人種的なアイデンティティ」に基礎づけられた「政党」が存在し、他者を排斥する「派閥主義(factionalism)」の特徴が見られるのです。

 例えば、冷戦後の旧ユーゴスラビアでは、セルビア人かクロアチア人かボスニア人かで政党が組織され、各指導者は、首尾一貫した政治綱領をもつわけではなく、権力の獲得と維持のためなら民族的・宗教的ナショナリズムに訴えることも厭いませんでした。チトー元大統領がそうしたように、共産主義、自由主義、コーポラティズムなど、それぞれの「政治信条」による組織化も可能だったはずですが、そうはならなかったのです。

 アイデンティティに訴える政党は、政治信条に基づく政党よりも柔軟性を欠き、妥協をいっさい拒否します。ユーゴが内戦に突入したのは、クロアチア人、セルビア人、ボスニア人が互いに消しがたい憎悪を抱いていたからではなく、機会主義的な指導者が、恐怖や憎悪を掻き立て、権力獲得のために小規模の武装集団を利用したからです。同じ悲劇がルワンダのフツ族とツチ族の間でも起きました。

 タスクフォースでは、この二つの特徴──アノクラシーとアイデンティティによる政治的分断──を持つ国を「監視リスト」にピックアップし、ホワイトハウスに提出していました。会合では、「エチオピアで何が起きているか」などと世界中の国について情報交換をしましたが、ただ米国については議論する機会はありませんでした。そもそもCIAには米国内に関する調査は、法的に認められていないからです。

 しかし私は民間人です。米国のことも調べてみると、「ポリティ・インデックス」のスコアが、2016年に「プラス10」から「プラス8」に下がっていることに気づいたのです。そこで私は、米国の政党に目を向けて、何が起きているのかを二つの変数に注目しながら本格的に調べ始めました。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています( 「米国で南北戦争が再び起こる日」 )。

(バーバラ・ウォルター/文藝春秋 2024年8月号)

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