「いい子ちゃん症候群」を生む子育てはもう古い AI時代に求められる教育とは
文春オンライン / 2024年7月22日 6時0分
![「いい子ちゃん症候群」を生む子育てはもう古い AI時代に求められる教育とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_71993_0-small.jpg)
写真はイメージ ©AFLO
生成と呼ばれる人工知能がビジネスシーンでも用いられるなど本格的に突入したAI時代。そんな新しい時代を生き抜く子供たちに求められるのが「自己肯定感」だ。20世紀の「躾けていい子にする」子育て法はもはや通用せず、これからはAIにとって代わられない「個性を発揮する」子に育てること。そこで求められるのは「子供の気持ちに寄り添い、その言動にイラつかない子育て役」…まさに祖父母だ。
祖父母がAI時代を生き抜く孫たちにすべきことを示した『 孫のトリセツ 』(扶桑社)より一部抜粋して紹介します。(全3回の1回目/ 2回目 に続く)
親が優等生すぎると子どもが発想力を失う
人にとやかく言われたくない、変に目立ちたくない。世間に後ろ指をさされないよう、他人様に迷惑をかけないよう、正しく振る舞わなきゃ―そんなふうに、親が緊張していると、子どもの脳も世間に対して緊張するようになる。なにせ、幼子のミラーニューロンは高性能で、親の表情を鏡映しに自分の顔に移し取る。そして表情が変わればその表情に合わせて脳神経信号が起こる。つまり、親が悲しい顔をすれば悲しくなり、緊張すれば緊張するわけだ。親が世間に対峙して緊張していると、子どもの脳は、無邪気な発想力を失うことにもなりかねない。何か好奇心に駆られたことがあっても「叱られるかも」と思ってあきらめる、何かことばが浮かんでも「反論されて嫌な思いをするかも」「笑われて恥ずかしい思いをするかも」と思ってあきらめる、そんなふうにあきらめていくうちに、脳は好奇心の信号や発想の信号を抑制するからだ。
いい子ちゃん症候群―私がそう呼んでいる脳の現象がある。「いい子(いい人)であろうとしすぎて、他人の評価軸で自分を見るあまり、いつも“憧れの存在”からの減点法で自分を反省し、律している。あげく、自分自身がやりたいこと、あるいは好きなことがわからなくなって、人生を虚しく感じる」のが、それ。「子どもをきちんと育てなければ」という気持ちの強い親に育てられ、その期待にちゃんと応えながら大人になってしまった優等生たちに起こりがちな現象である。美人だったり、一流校か一流企業に入ってしまったら、その時点から親の自慢の種になり、この仕組みからなかなか抜け出せない。
いい子ちゃん症候群の親は、子どもにも同じことをしがち。その連鎖を断たないと、孫もまた同じ悩みを抱えることになる。
20世紀の子育ては「世間様に恥ずかしくないように子どもを躾ける」ものだった。特に1960年代以降の子育てはエリート志向が強かったので、私たちの世代にも、子どもたちの世代にも「いい子ちゃん症候群」に悩む人は多い。
この星は、自分のためにある
躾は、世間と子どもを対峙させ、子どもの脳を緊張させる行為だ。世間は厳しい、ちゃんとしないと大変なことになる、と。よく躾けられた子はお行儀が良く成績もいい。大人になればエレガントで、周囲に信頼もされるし出世もする。たしかに、躾けられることには大事な一面もある。それに、兄弟姉妹が多かったり、両親共に仕事があって核家族だったりしたら、子どもたちをある程度躾けておかないと、日々の暮らしを回してはいけない。聞き分けのいい長子がいて、やっと回っているおうちだってあるはず。公共の場では、身を守るために守らなきゃいけないルールもある。道路に飛び出していいわけじゃないし、砂場で、他人のおもちゃをいきなりつかんだり、ほかの子に砂をかけたりするのは、もちろん止めなきゃならない。
だから、躾が全面的に悪いことだなんて、私は思わない。ただ、躾のマイナス面も知っておいたほうがいい。世間体を気にしすぎる親に育てられると、子どもの脳は「この世の主体は世間であって、自分はその一部分にしかすぎない」と感じる。このため「いい子でないと存在価値がない」と思い込む。
でもね、本当は、脳の主人公は自分。この星は、誰にとっても、「自分のためにある」ものなのである。本来、そう感じるように、脳は作られている。
子どもたちだけじゃない。すべての人に、無邪気な時間を過ごしてほしいと私は思う(生活時間のすべてでなくていいから)。心に浮かんだことをそのまま肯定できる、そんな時間を。心に浮かんだことをそのまま言動に移しても、きっと周囲が受け止めてくれると信じられる、そんな時間を。そういう時間を確保されている人にとっては、人生は自分のものになる。この星も、自分のものになる。
私たちの世代は、躾けることで子どもを育てた。「はじめに」にも書いたけれど、それが20世紀に必要とされた子育てだったからだ。その過去を悔いる必要はないけど、自分の子育ての方針を、孫にそのまま使うつもりでいると、孫にとっても、その親たちにとっても酷なのである。
昭和生まれと、昭和生まれに育てられた人たちの心の中にある、「世間様に迷惑をかけないように、自分と子どもを律するのは美しいこと。せめてそういう姿勢を見せないと恥ずかしい」という気持ちを、この際、捨ててください。
少し図々しくなってあげよう
祖母たちは、母たちより、少しだけ図々しくなれる。これを利用して、世間体を気にする親たちの緊張を少しほどいてあげたらどうかしら。我が家の2歳児は、斜め前のおうちの玄関先に置いてある乗用おもちゃ(ミニーちゃんの飛行機)がいたくお気に入りで、散歩のたびに触りたくて、触りたくてしょうがない。彼の母(およめちゃん)は、当然、「他人のおもちゃを無断で触るなんて言語道断」と厳しく遠ざけていた。
私としては、その家の家族と交流もあるし、「外に出してあるおもちゃをほかの子が多少触っても、きっと気にしないだろうなぁ。うちだってぜんぜん気にしないもん」と思っていたので、ちょっと乗るくらいは許していたが、さずがに道路に乗り出していくことは止めていたのだった。ところがある日、その家の向かいのおうち(我が家の隣家)のマダムが、「大丈夫よ~、乗ってっちゃいなさい。私が言っといてあげるから」と満面の笑顔で声をかけてくれたのである。
ちょうどそのとき、持ち主のママが、郵便を取りに出てきた。ガチャっと玄関が開く音がしたら、孫は跳びあがるように乗用おもちゃを降りて、すたこらさっさと逃げていく。彼の母親の緊張感が、ここまで孫に伝搬しているとは…これじゃ、世間は厳しいものと思い込んじゃうよなぁと感じたその瞬間、隣家のマダムが、「貸してあげてもいいわよねぇ」とすかさず華やかな声をかけてくれた。持ち主のママも即座に笑顔になって「もちろんです~、いつでも、どうぞ」と言ってくださった。隣家のマダムは、高校生の孫がいて、私より先輩おばあちゃん。さすが、いちだん肝が太い(微笑)。
で、その話をおよめちゃんにするのだけど、およめちゃんは「そうは言っても」とドン引き。そこで私が「ちょっとした駄菓子をお礼にポストに入れたらどう?」と提案。それで、やっと彼女が笑顔になった。以来、孫がミニーちゃんの飛行機を借りたときには、孫も大好きなお菓子に「ミニーちゃんお借りしました、ありがとうございます」と書いた付箋紙を貼って、ポストに入れさせていただいている。孫は2回ほど借りたら気が済んだらしく、最近は、ミニーちゃんに手を振って楽しそうに通り過ぎる。
躾も大事だけど、必要以上に世間を怖がらせることもない。もしも、母親が神経質になっているようなら、ときには祖母がちょっと図々しくなって、孫に「世間とは優しいものである」ことを知らせてあげよう。
〈 グーグルが断言する、効果の出せるチームとそうでないチームの「たった一つの違い」とは 〉へ続く
(黒川 伊保子/Webオリジナル(外部転載))
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