「友人と思っている」段ボールに閉じ込めて、黒板消しの粉を振りかけて…小山田圭吾が語る“後悔”
文春オンライン / 2024年7月24日 6時10分
小山田圭吾氏 ©文藝春秋
〈 「全裸ぐるぐる巻き」「ウンコ食わせた」記事で炎上した小山田圭吾が語る、そのとき本当は何が起きたのか 〉から続く
2021年7月、ミュージシャン・小山田圭吾氏は表舞台から姿を消した。過去に雑誌に掲載された自身の“いじめ告白”記事がSNS上で炎上し、就任したばかりだった東京オリンピック開会式音楽担当の辞任を余儀なくされたのだ。
小山田氏は炎上の直後に発表した声明文で、問題とされる雑誌の記事について「事実と異なる内容も多く記載されております」と主張している。では、実際には、現場で何が起きていたのか。
ノンフィクション作家の中原一歩氏による小山田氏インタビューの一部を『 小山田圭吾 炎上の「嘘」 』(文藝春秋)より抜粋して紹介する。(全4回の2回目/ 最初から読む )
◆◆◆
「事実と異なる」こともある、では実際にした行為は?
終始、小山田は冷静な対応だった。特段、弁護士や事務所のマネージャーにSOSを求めるわけでもなく、手元にカンペがあるわけでもなかった。緊張のせいか、ところどころ言葉を噛んだりはすることがあったものの、自分の言葉で考えて話している様子が窺えた。
では、小山田が実際に自分で行った行為は、雑誌の中で語られているうちの、どれなのだろうか。
その相手は、『クイック・ジャパン』に登場する沢田君である。
沢田君との出会いは小学2年生の時のこと。転校生だったそうだが、彼の登場に、学校中が衝撃を受けたと書かれている。
〈転校してきて自己紹介とかするじゃないですか、もういきなり(言語障害っぽい口調で)『サワダです』とか言ってさ、『うわ、すごい!』ってなるじゃないですか。で、転校してきた初日に、ウンコしたんだ。なんか学校でウンコするとかいうのは小学生にとっては重罪だっていうのはあるじゃないですか? で、いきなり初日にウンコするんだけどさ、便所に行く途中にズボンが落ちてるんですよ、なんか一個(笑)。そんでそれを辿って行くと、その先にパンツが落ちてるんですよ。で、最終的に辿って行くと、トイレのドアが開けっ放しで、下半身素っ裸の沢田がウンコしてたんだ(笑)〉(『クイック・ジャパン』)
この話はいかにも小学生らしいエピソードだと思う。私も小学生時代に同級生にトイレ、とくに大便をしにいく場面を目撃されるのが嫌で仕方なかった。この年頃の男の子は自分も日常的にするはずなのに、他人がしにいこうとすると、なぜかはしゃぐ子が多い。それが集団にもなれば、さらにエスカレートする。
それに輪をかけて、キャラクターが濃くて、突出していると、学年では誰もが知っている有名人に祭り上げられる。
〈とりあえず興味あるから、まあ色々トライして、話してみたりするんだけども、やっぱ会話とか通じなかったりとかするんですよ。おまけにこいつは、体がでかいんですよ。それで癇癪持ちっていうか、凶暴性があって……牛乳瓶とか持ち出してさ、追っかけて来たりとかするんですよ。で、みんな『怖いな』って〉(同前)
キャラの立った同級生を、皆がおもしろがって、イジっていただろうことは、容易に想像がつく。しかし、雑誌ではこれらの証言は、あくまで目撃したことであり、小山田がやったことではないとも書かれている。
何かに閉じ込めていたずらをするのが流行っていた
小学5年の時、クラスも違う沢田君と小山田が、土曜日に行われる「太鼓クラブ」というあまり人気のないクラブの同じグループになった。小山田が数あるクラブ活動の中から太鼓クラブを選んだ理由は、「踊るのがヤ」で、「踊らなくていいようにするには、太鼓叩くしかなかった」と回想している。
こうして小山田は、沢田君と、土曜日の数時間、同じグループで太鼓を叩くことになった。
〈段ボール箱とかがあって、そん中に沢田を入れて、全部グルグルにガムテープで縛って、空気穴みたいなの開けて(笑)、『おい、沢田、大丈夫か?』とか言うと、『ダイジョブ…』とか言ってんの(笑)。そこに黒板消しとかで、『毒ガス攻撃だ!』ってパタパタってやって、しばらく放っといたりして、時間経ってくると、何にも反応しなくなったりとかして(中略)本人は楽しんではいないと思うんだけど、でも、そんなに嫌がってなかったんだけど。ゴロゴロ転がしたりしたら、『ヤメロヨー』とか言ったけど〉(同前)
同級生を何かに閉じ込めていたずらをするのが、小山田たちの間で流行っていたらしい。中学時代、村田君にも似たようなことをしていた描写が、『クイック・ジャパン』の後半に登場する。
〈段ボールの中に閉じ込めることの進化形で、掃除ロッカーの中に入れて、ふたを下にして倒すと出られないんですよ。そいつなんかはすぐ泣くからさ、『アア~!』とか言ってガンガンガンガンとかいってやるの(笑)。そうするとうるさいからさ、みんなでロッカーをガンガン蹴飛ばすんですよ。それはでも、小学校の時の実験精神が生かされてて。密室ものとして。あと黒板消しはやっぱ必需品として〉(同前)
これらは事実なのか。そう聞くと小山田は、こう反省の弁を述べた。
「はい、自分がやった記憶があります。中学生の時に、ロッカーに同級生を閉じ込めて蹴飛ばしたこと。そして小学生の頃に、知的障がいを持った同級生に対して、段ボールの中に入れて、黒板消しの粉を振りかけてしまったことがあったのは事実です。相手の2人には、本当に申し訳ないと思っています」
ただ、障がいを抱えていた沢田君については、こう付け加えた。
「沢田君とは、高校に入ってから自分の席が隣だったりしたことがあって、比較的、よく話す関係になったんです。こういうふうに言ってしまうと、一方的な考えと思われるかもしれませんが、自分もそんなにクラスで話す人がいなかったりして、彼とは比較的話す関係性で、自分としては友人になれたとずーっと思っていたんです」
沢田君は「友人だった」が、今思うと…
太鼓クラブでも一緒の時間を過ごしていた沢田君とは、その後、友人になれたというのだ。じつは二誌に先立ち、『月刊カドカワ』(1991年9月号)のインタビューの中にも、この沢田君と見られる人物が、「K」として登場する。ここでは「いじめた相手」としてではなく、学生時代の友人との思い出のひとつとして語られる。
和光小学校2年生の時に転校してきたK。高校に入って、特に仲がよくなったとして、こんなエピソードを披露している。
〈クラスにいるときは、Kとしか話さなかった。Kって特技がひとつだけあって、学校の全員の名簿を暗記してるの。バスの中で一緒になったとき、「あいつの住所は?」ってきくとペラペラペラって出てくるの。見たこともない下級生や上級生の電話番号とか兄弟もわかってる。で、高校になるとみんな色気づいて下敷きの中にアイドルの写真とか入れてくるじゃん。Kも突然入れてきた。何かなと思って見たら、石川さゆりだった。「好きなの」って言ったら、「うん」〉(『月刊カドカワ』)
また『クイック・ジャパン』では、沢田君の母と本人も少しだけ登場して、ライターの村上の質問に答えている。そこで母は「小山田君とは、仲良くやってたと思ってました」と言い、本人は村上の小山田と仲が良かったかという問いに「ウン」と語っている。
記事の最後、小山田はこんなエピソードも語っていた。
〈卒業式の日に、一応沢田にはサヨナラの挨拶はしたんですけどね、個人的に(笑)。そんな別に沢田にサヨナラの挨拶をする奴なんていないんだけどさ。僕は一応付き合いが長かったから、『おまえ、どうすんの?』とか言ったらなんか『ボランティアをやりたい』とか言ってて(笑)。『おまえ、ボランティアされる側だろ』とか言って(笑)。でも『なりたい』とか言って。『へー』とかって言ってたんだけど。高校生の時に、いい話なんですけど〉(『クイック・ジャパン』)
インタビューの終盤、私は小山田の目を見据えて、少し語気を強めてこう質問した。
――沢田君が今、目の前にいたとして、小山田さんは彼が「友人」だと、本人の前で言えますか?
小山田は即答した。
「はい。できます」
そして、こう続けた。
「自分が雑誌でおもしろおかしく語ってしまったことは、本当に申し訳ないと思います。間接的にですが二次被害も与えてしまっているわけですから。今さら友人と言っていいのかなという思いもある。今、自分が親になって、自分の子どもがそういうふうに語られていることを想像したら……。ご家族や、同じような経験をしてこられた方が、雑誌で語られることで、どんな思いをされるのか。当時はそんなことも想像できなかったのです。本当に恥ずべきことだと思っています」
〈 「家族の誰ひとり、事実がわからなかった」息子まで攻撃の対象に…“いじめ告白”記事炎上の日々、小山田圭吾の家族が体験した試練 〉へ続く
(中原 一歩/ノンフィクション出版)
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