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世界最前線で働くエンジニアも驚いた! “安川流アクティブリコール”勉強法の効き目がすごい訳

文春オンライン / 2024年7月12日 6時0分

世界最前線で働くエンジニアも驚いた! “安川流アクティブリコール”勉強法の効き目がすごい訳

安川康介氏 撮影・杉山拓也(文藝春秋)

 新著『 科学的根拠に基づく最高の勉強法 』が8万部を突破する米フロリダ州在住の総合内科医・安川康介さんと、『 世界一流エンジニアの思考法 』が9万部に迫る米マイクロソフト現役エンジニアの牛尾剛さんの初対談が実現。アメリカの最前線で働く二人が効率のいい「学び方」について語り合った。

◆◆◆◆

勉強のやり方によって仕事はブーストできる

牛尾 今日は安川さんのファンの僕がお願いをして対談イベントが実現し、大変うれしく思います。僕はシアトルから繋いでいますが、ちょうど一時帰国されている安川さんは都内の主催書店からの配信です。まず、簡単な自己紹介から始めましょうか。

安川 今回はお声がけいただきありがとうございます。僕はいま南フロリダ大学医学部助教の立場で、がん患者さんを中心に診療する内科医ならびに感染症の専門医として働いています。医者になるまで、そして医者になってからも相当勉強に時間を費やしてきたので(笑)、どうやったら効率よく学べるのか?についても考え調べてきました。数多くの研究と自分の経験をもとに『科学的根拠に基づく最高の勉強法』という本を執筆しました。

牛尾 新著、本当に最高でした! 人生で最も大切な問題が解決する驚きの一冊で、読んですぐ本の感動をnoteに書いたほどです(笑)。

 僕はいまシアトル在住で、マイクロソフトのクラウドサービスの開発をしているのですが、一流の人たちばかりのドリームチームでなぜ三流の自分がやれているかというと、「勉強の工夫」をしてきたからです。ADHDの僕は短期記憶が最悪で、よく物忘れするし、集中力が低いし、子どもの頃からなにをやっても要領が悪かったんですね。

 そんな自分でも、勉強のやり方によって仕事をブーストできて、人並みのことができるようになった。だから勉強のメソッドは大好物で、以前から安川さんのYouTubeはすごいなと思って拝見していたのですが、こうして本の形でも読めてすごく嬉しいです。

安川 ありがとうございます。僕も、牛尾さんの本を大変面白く拝読させていただきました。まず一番に感じたのが、牛尾さんと私は、すごく似ているなということ。牛尾さんはご自身を三流だと思われていて、一流の思考法やマインドセットを学ぶことが大事だったと書かれています。僕も自分は凡庸な脳みそを持っているにも関わらず、なんとかここまでやってこれたのは、勉強法がよかったおかげだと考えています。

「人間の脳の力にそんなに違いがあるわけがない」

牛尾 安川さんは圧倒的に「できる人」という印象なのですが、そうなんですね?

安川 誰でも実践できる勉強法や思考法をみんなに知ってほしいという思いが我々には共通してますよね(笑)。牛尾さんの本でとても共感したのは、「人間の脳の力にそんなに違いがあるわけがない」という指摘。もちろん僕の周りで飛び抜けて優秀な人もいるんですけど、人の記憶のメカニズムや生物学的なつくりはみな一緒ですからね。

 いまの時代、脳の機能の「個人差の問題」がよく強調されますが、僕は遺伝的要素以上に、「脳の使い方」「勉強の仕方」「マインドセット」こそ各人のパフォーマンスに影響を与えると見ています。

牛尾 本当にそう思います。僕は日本にいるときエンジニアとしてさっぱり使い物にならなくて、「牛尾さんコンサルとかプロダクトマネージャーなら才能あるからそっちをやればいいのに」とよく言われていました。マイクロソフトに入れたのはエバンジェリスト枠での採用です。

 でも子どもの頃からの夢が諦めきれなくて、ずっとプログラムの勉強を続けるなかで今のチームへの異動がかなったわけですが、アメリカに来て思ったのが、安川さんがおっしゃるように、意外に「脳の差」ってそこまでないなということ。もちろんスーパーできる人は沢山いますし、隣の席のポールなんてもう意味不明なくらい優秀ですが、話すと別に追いつけないほど頭の回転が速いわけではない。彼らの思考法とかやり方を真似ればかなりの程度まで近づけるという実感があります。

 改めてお聞きすると、安川さんが勉強法の本を書くに至った人生のきっかけは何だったんですか?

安川 学生の頃から、「勉強以外のこともしたい」という気持ちがすごく強かったんですよ。高校ではラグビーをやっていたし、お笑いにも取り組んでいたし、恋愛だってしたい(笑)。やりたいことがいろいろあったから、「いかに少ない時間で効果的に勉強するか」に強い興味があったんです。

 勉強は、自分自身や人生を変える一番手っ取り早い手段です。すごく重要なことなのに、その方法自体はあまり深く議論されていない。学術的な研究もなされてある程度ノウハウも蓄積されているのに、科学的なエビデンスがあまり認知されていないことに問題意識をもったのが執筆のきっかけです。

《安川流》最高の「アクティブリコール」法!

牛尾 どんなことに取り組むにせよ、勉強の効率って人生で一番重要なことですよね。新しいことを始めるときに必ず学んで記憶をするわけで、これはどんな人にとっても必要なこと。そこで学んだスキルの積み重ねがマネーになるわけで、ある意味、勉強は一番レバレッジの効く、お金を稼ぐための技能ともいえます。

 とくに安川流「アクティブリコール」は効き目がすごい! アクティブリコール(想起練習)という方法自体は以前から知っていたのですが、安川さんのメソッドは解像度とエビデンスが桁違いで、このやり方をもっと前に知っておきたかったと心から思いました。

安川 執筆にあたっては、40冊以上勉強法の本を読んで、100以上の論文を読んでリサーチしました。もちろんアクティブリコールについては各所で書かれています。でもわりと伝わりにくかったり、具体的な実践方法が書かれていなかったりしたので、「わかりやすさと実践しやすさ」を意識して本を書きました。

 具体的には、英単語でも教科書でもなんでもいい――まず覚えたい情報を読んだら、そのあと白い紙に覚えたい情報をできるだけ書き出すだけ。

 このとき「元の情報を見ないで」がんばって記憶から引き出して書くのがポイントで、とくに難しい内容のときは声に出しながら書くと効果倍増! さまざまな研究で、「なにもヒントのない状態で」読んだ情報を思い出す学生のほうが記憶の定着がよいことや、白紙に覚えたことをできるだけ書き出すほうが最終的に多くのことを記憶していることが証明されています。とてもシンプルですが、僕が実践してきた、科学的にも根拠のあるアクティブリコール法です。

牛尾 僕はADHDだから人より短期記憶が弱いんですが、実際この方法は白紙を使うとすごく覚えやすかったですね。

安川 よく、どうやってこの方法を編み出したのかと取材で聞かれるんですが、医学部に入って覚えないといけない知識が膨大な量になる中で始めていたんです。たとえば解剖学では筋肉の名前や神経の走行など膨大な項目をすべて覚えなくてはなりません。解剖学の試験は、慶応の医学部では約半数が落ちる試験です。春休みの直後にその試験があり、本来ならばその休みをしっかり使って勉強した方が良いのですが、僕は折角の休みにどうしてもインドに行きたかった(笑)。

 そこで、解剖学の教科書の大事なページだけ最小限のコピーを持って、短い隙間時間に白い紙に書き出しながら旅をしたんです。そしたら帰国直後に受けた試験で余裕をもって合格することができたというわけです。

アメリカの医学生がみんな使うアプリ「Anki」

牛尾 本当にすごいなぁ。あとちょっとお聞きしたかったのが、僕は本が好きで沢山読むんですが、1週間経つと内容をけっこう忘れてしまっているのが悩みで……。

安川 それが普通だと思います。一度読んだだけだと、忘れてしまうことは多い。本を読むときに僕がやることがある対策は、「Anki」というアプリに、本を読みながら覚えたい情報を質問形式でどんどん書き込むことです。このアプリ、アメリカの医学生ならほとんどの人が使っているスグレモノで、膨大な知識の習得に役立ちます。ようは読書に関してもアクティブリコールと分散学習を自分の生活に一番取り込みやすいかたちでアレンジしてやるといいと思います。

牛尾 なるほど。あと反復学習に関しても質問があるんですけど、忘却曲線にそって何日かおきに勉強をうながすお勉強アプリがいくつか出ていますが、僕がやると“復習地獄”になって困るんです。

 例えばある日すごく頑張って勉強してアプリに覚えたい内容を入れるとします。すると翌日や数日後に復習がやってきて、そしたら前回勉強したのと同じくらいの時間がかかってしまって。先に進んで勉強したいのに、このジレンマはどうしたらいいんでしょうか?

勉強は“2歩進んで1歩下がる”イメージで

安川 たぶん学ぶ内容や難度、その方面に関して自分がもともと持っている知識量によって、いつどのくらい反復したらいいのかは相当変わってきます。難しいものであれば、最初のうちは、1日後、3日後、1週間後という枠にとらわれず、結構頻繁に復習したほうがいいと思います。

 勉強をしているとどんどん先に進みたくなるものですが、牛尾さんがご著書の中で「どんな人も理解には時間がかかる」と書かれているように、反復して理解に時間をかけるのは非常に大事なプロセス。“2歩進んで1歩下がる”イメージで勉強はやるのがいいと思っています。

牛尾 なるほど、それは非常によい考え方を聞きました!

安川 逆に僕からお聞きしたいのは、牛尾さんはソフトウェア開発者としてどのように勉強をされているのですか? プログラミングの世界って多岐にわたっているので求められる知識の範囲が本当に膨大で、システマチックに学ぶのが難しいイメージもありますが。

ソフトウェアの分野も基礎の学びがすごく大事

牛尾 確かに覚えることは膨大なのですが、ソフトウェアの分野はシンプルにいうと、大学で教えているようなことから学ぶのが一番の王道だし近道です。プログラミング言語は、JAVA、C#とか、AI開発でよく使われるPython等いろいろありますが、一つをきちんとマスターできれば他でも応用が利きます。

 余談ですが、アメリカのソフトウェア開発の現場では、コンピューターサイエンス学科を出ているか、もしくは同等の力がある人しかエンジニア職に採用されません。日本では文系でもSE職につけて、大学で学んだことなんて現場では役に立たないよという風潮ですが、もうスタート地点のレベルが雲泥の差です。

 基礎の学びはすごく大事で、コンピューターサイエンスの学習でまず最初にやるとよいのは、「アルゴリズム」と「データ構造」の学習です。どんな仕組みとどんなパターンがあってプログラムは組まれているのか、問題が生じたらどう解決するのかの主なパターンを理解しておきます。あとリードコードというサービスがあって、マイクロソフトなりアマゾンなりテック企業を受けるときに、みんなこのサービスを使って練習していますね。コーディングインタビューの練習もできたりするのでオススメです。

 あとは実務をやっていく中、知らないことが出てきたらその都度きちんと勉強することの繰り返しです。僕は何かを学んだら、それを思い出しながらブログに書く癖をつけていますが、書いて整理していると、理解が不十分だった点がクリアに見えてくるし、すぐアウトプットするのはすごく学習効率がいいです。

勉強法ひとつで仕事も人生の面白さも倍増する

安川 なるほど。アクティブリコールをブログでやっているようなものですね。

 アウトプットは記憶の定着によいですし、そこにフィードバックも加わるとさらに効果的なので、ChatGPTを活用してフィードバックを返してもらいながらやる勉強法も個人的には良いと思っています。

 最後に、さんざん効果的な勉強法の話をしてきたあとになんですが(笑)、効率よくパフォーマンスを上げる勉強法ばかりでなく、「純粋に楽しむための勉強」にもっと目を向けたほうがよいとも思っています。僕は医者として、がんでお亡くなりになる方を日常的に見ているんですが、仕事は人生のひとつの軸ではあるけれど、決してそれが全てじゃない。だからキャリアにとくにプラスにならなくても、自分が心から関心のあることを学び続けて、人生が豊かになることこそ大切だと思っています。

牛尾 僕も同様の考えで、仕事だって勉強だって、一番大切なのは「それで幸せを感じるかどうか」に尽きると思う。イヤイヤやる勉強は意味がなくて、エンジョイできる勉強法ひとつでレバレッジがきいて仕事や人生の面白さが倍増したら最高だなと常に思っています。今日は刺激的なお話をありがとうございました!

安川 こちらこそありがとうございました!

(ブックファースト新宿店にて)

安川康介(やすかわ・こうすけ)
1982年、兵庫県生まれ。2007年慶應義塾大学医学部卒。日本赤十字社医療センターにて初期研修後、渡米。米国ミネソタ大学医学部内科研修、テキサス州ベイラー医科大学感染症研修修了。米国内科専門医・米国感染症専門医。南フロリダ大学医学部助教。YouTube登録者数15万人、著書に『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)がある。

牛尾剛(うしお・つよし)
1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、大手SIerでITエンジニアをはじめ、2009年に独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、2019年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。著作に『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』などがある。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。

(安川 康介,牛尾 剛/ライフスタイル出版)

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