「『お母さんのようにはなりたくない』も、たぶん本心」親孝行のつもりで温泉へ…三姉妹の母への“複雑な思い”
文春オンライン / 2024年7月13日 7時0分
![「『お母さんのようにはなりたくない』も、たぶん本心」親孝行のつもりで温泉へ…三姉妹の母への“複雑な思い”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72025_0-small.jpg)
江口のりこさん
「橋口監督の映画がすごく好きなので、今回、お声掛けいただいたのがうれしくて、もう、どんな内容でもやろうと、即やりますとお返事しました。まだ、台本も読む前でしたけど(笑)」
そう話すのは、映画に舞台に、引っ張りだこの人気を誇る俳優・江口のりこさん。今回、橋口亮輔監督による9年ぶりの長編映画『お母さんが一緒』で主演を務めている。
橋口さんは、1993年の映画『二十才の微熱』での鮮烈なデビュー以来、寡作ながらも世界的に評価の高い映画監督だ。江口さんは、ブレイク前の2008年、橋口さんの監督作『ぐるりのこと。』に端役で出演。それで強く印象に残っていたのだろう。多忙な江口さんへの出演依頼は“ダメもと”ではあったものの、「この役は絶対、江口さんだと思った」とのこと。
本作は、タイトルのとおり、“お母さんと一緒”に温泉旅館にやってきた三姉妹の物語。ペヤンヌマキによる同名の舞台を橋口さんが脚色し、CS「ホームドラマチャンネル」開局25周年記念のドラマシリーズとして制作・放送された作品を再編集したものだ。三姉妹の長女・弥生を江口さん、次女・愛美を内田慈(ちか)さん、三女・清美を古川琴音さん、そして清美がこっそり連れてきた彼氏・タカヒロを青山フォール勝ちさんが演じる。
親孝行のつもりで母を誘い、温泉へとやってきた三姉妹。ところが、宿に着くなり、「部屋カビ臭い」だの、「女湯が狭い」だのと、弥生は始終、文句ばかりを言い募る。それでもなんとか話し合って、夕食の席で母の誕生日サプライズを実行。しかし、今度は母の無神経な発言で弥生がブチギレ。楽しいはずの一夜は、とんでもない展開に。
「ワンシチュエーションでの会話劇。それだけに難しさはありつつも、面白くなるだろうと魅力を感じました」と、改めて台本を読んだ時の感想を語る江口さん。指名された役については、「まず一重だから選ばれたというのはあると思うんですけど、この役なら楽しんでやれるなと思いました。弥生は、とても一生懸命な人。周りからしたら大したことじゃない些細なことでぎゃあぎゃあ騒いでいてうるさいけど、本人にとっては一大事。ケーキを出すタイミングも、歌をうたうかうたわないかも。それが面白い。でも、実は深いところでコンプレックスも抱えていて――。お母さんを喜ばせたいと本気で思ってるけど、自分のコンプレックスはお母さんのせいだとも思ってるし、『お母さんのようにはなりたくない』っていうのも、たぶん本心。だけどやっぱり、お母さんが大好きなんですよね。私自身の性格とはだいぶ違いますけど、演じる分には、だからこそ新鮮で楽しかったです」と愛おしそうに語る。
役作りについて尋ねると、さらにうれしそうに続けた。
「今回はリハーサルがあったんですよ。監督と話し合ったり、こういうふうにしてみてと実際にやってみせてくれたりして、その中で徐々に役を見つけていった感じでした。いま、リハをする映像作品って本当に少ない。現場に行って覚えてきたセリフを言って間違わなかったらOK、はい次、っていう場合がほとんど。なので、こんなにじっくりと時間をかけて、監督と一緒に役を探せるなんて、すごく贅沢だしありがたかったですね」
現場でのリハ、出演者、スタッフとの入念な話し合いは、橋口組の特色。それに参加できたことが、俳優として大きな糧になったという。
ところで、本作には肝心の母親役は画面に登場しない。三姉妹の母への複雑な思いだけが三者三様に描かれていく。
「だから、ぜひ全国の“お母さん”に見てほしいですね。娘たち、こんなこと思ってますよ~って(笑)。決して重い作品ではないですけど、けっこう刺さると思います」
えぐちのりこ/1980年生まれ、兵庫県出身。2000年、劇団「東京乾電池」に入団。02年、『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』でスクリーンデビュー。以来、数多くの映画、ドラマで活躍。『事故物件 恐い間取り』(20)で第44回日本アカデミー賞助演女優賞受賞。8月には主演映画『愛に乱暴』の公開が控えている。
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映画『お母さんが一緒』
(7月12日公開)
https://www.okaasan-movie.com/
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年7月18日号)
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