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「ありえない美味さ」のおかひじきの天ぷらが130円…のフレンチ出身の店主が板橋区役所前に開いた“異色の立ち食いそば屋”

文春オンライン / 2024年7月16日 11時0分

「ありえない美味さ」のおかひじきの天ぷらが130円…のフレンチ出身の店主が板橋区役所前に開いた“異色の立ち食いそば屋”

都営三田線、板橋区役所前駅

 都営三田線、板橋区役所前駅からすぐの場所に個人経営の「立ち喰いそば・うどん えんば」が今年4月22日にオープンした。近隣には「蕎麦食堂 いけち」や「そば谷」がある激戦区である。SNSには立ち食いそば好きのオーナーが開業した店との情報もあり、是非とも訪問しなければと考えていた。そして7月に入りようやく訪問することができた。

「立ち喰いそば・うどん えんば」はわかりやすい立地だ。板橋区役所前駅から中山道沿いを少し池袋寄りに歩いたすぐの右手にある。そばの幟(のぼり)とオレンジ色に墨文字の「そば うどん」の看板が目に入る。店内は明るくきれいだ。左に長いL字カウンターと右に短めのカウンターが並ぶ。一番奥に進み口頭で注文して、出来上がりを待つシステムだ。

壁には見慣れないトッピングの数々

 壁には「エリンギの天ぷら」や「ひら茸のトッピング」、「豚バラ肉のトッピング」、「モロヘイヤの天ぷら」、「おかひじきの天ぷら」、「ホントにカライ!!!辛いとうがらしの天ぷら」、「大葉(しそ)の天ぷら」などのポップが並ぶ。

 暑い季節のスペシャルトッピングとして「豚バラ肉」以外に「レタス」、「大根おろし」、「辛味大根」などが並んでいる。「レタス」というのは珍しい。

 もちろん、グランドメニューの「紅しょうがの天ぷら」、「春菊天」、「かき揚げ」、「イカ天」、「ナス天」、「さつまいも天」、「ちくわ天」、「げそ天」などもショーケースにずらっと並んでいる。

まずは「げそ天そば」を注文

 まずは「げそ天そば」を注文した。「しばらくお待ちくださいねえ~」と合いの手のような返事が返って来る。店は店主の倉持さんとそのパートナーの千鶴店長の2人で切り盛りしている。開店して4ヵ月目に入り、少しずつお客さんも増えているようだ。注文している間にお店を始めた経緯などを聞いてみたのだが、それがなかなか素敵な話だった。

店主は〇〇の総料理長だった

 倉持店主はフレンチ出身で和食の総料理長だったそうだ。寿司屋や割烹で働いていたこともあるとか。直近では和食の大箱の店の料理長をしていて多忙な日々を送っていた。そして定年を間近に迎え、第二の人生の場として自分の店を持ちたいと考えていた。ではなぜ立ち食いそば屋を選んだのだろうか。

立ち食いそば屋を選んだ理由が深い

 倉持店主は静かに話し始めた。「何万もする高級な和食や寿司などの料理を今まで随分やってきて、今度はもっと身近な日常の食べ物、日々忙しく働いている人に手頃な価格で喜んでもらえるような食べものを肩肘張らず提供したい。それなら立ち食いそばがいいのでは」と考えたというわけである。自分たちの食の経験を立ち食いそばに応用すれば、今までにない新しい味が作れるかもしれないとワクワクしたそうである。

なぜ板橋区役所前駅を選んだのか

 当初は住んでいた荒川区を中心に店舗物件を探していた。しかし、ガスカロリーや電気容量が十分な物件がなく、板橋区役所前に偶然に良い物件があって見に来たところ、近くには区役所はもちろん、板橋運転免許証更新事務所、板橋警察署、板橋消防署など多くの働く人たちが集結している街であることが分かり、即決したという。

「えんば」はとんぼのこと

 店名の「えんば」とはとんぼのことだそうで「恵無波」と書く。店の入口やポップにも羽黒とんぼの「えんば君」の可愛いイラストが描かれている。千鶴店長は趣味でイラストやマンガを描いていて、倉持店主が店名の候補を挙げたところ、どこにでもある様な名前だったので全て却下して、「えんば」とそのイラストを提案しそれが採用された。立ち食いうどん屋でも人気の「おにやんま」という店があるし、かつて豊洲には「とんぼ」という立ち食いそば屋があった。「えんば」もそんな範疇の名前ということになる。

「げそ天そば」には魚粉がかかり登場

 そんな話をしていると「げそ天そば」が完成した。まず、つゆをひとくち。返しは穏やかで丸い。出汁は前面に主張するタイプではなく、じわじわと訴えてくるようなタイプである。もうひとくち。つゆは赤味がきれいだ。「げそ天」は大きめで食べ応えがある。前日に醤油、生姜、酒、大蒜などに漬けて一晩置いてから揚げているという。

3種類の醤油でつくられた返しに使われている「卑弥呼のやまとしょうゆ」とは?

 店主は食材や出汁にこだわる。返しは3種類の醤油をブレンドして作っているのだが、その1つが江戸時代後期創業の熊本県山鹿市の卑弥呼のやまとしょうゆ。甘味の強い醤油だが、つゆにすると綺麗な「むらさきいろ」になるという。確かに「えんば」のつゆは赤味があって華やかである。みりんは愛知県碧南市の九重味淋株式会社製の「本みりん九重」を使用している。本場三河地方の味である。

出汁は柔らかく、ふくよかな味わい

 返しと出汁のバランスは朝、昼、夕とすべて変えているそうだ。冷しとかけでは別の返しを作っている。とにかく細かいところまでこだわっている。

 パンチがある暗黒系のつゆとは違い、食べた後にまた食べたいという余韻を残すような味に仕上げたいと倉持店主はいう。魚粉を溶いて食べていく。バランスのよい一杯である。

冷し春菊天そばも追加注文

 あっという間に食べてしまった。どうしても冷しが食べたくなり「冷し春菊天そば」を追加注文した。返しも変えている冷たいつゆに興味が湧く。また2分程度で完成した。

 冷しのつゆをひとくち。今度は温かいつゆより返しがはっきり感じられ濃いめの味だ。やや甘味もある。酸味というよりは深みがある。つゆをみると少し濁りがある。倉持店主に聞くと、冷しのつゆにはある秘密の調味材を加えているそうで、スッキリした味を目指したとか。味噌でも米酢でもないという。これは気になる。

 春菊天は厚みが5センチはある立体的揚げ具合、箸でほろほろと崩して食べていく。そばは冷しのつゆにとても良く合っている。そばの量も多く満足度の高い一杯であった。

店主が一番大切にしていることは、〇〇〇〇の存在

 帰り際、倉持店主は開店して4カ月目になるまだ若い店への思いを語ってくれた。とにかく目の前のお客さんが一番大切だと再認識しているという。もっと会話できる楽しい店にしたい。従来の立ち食いそば屋は、お客さんと会話をすることがほとんどない。自分は寿司屋で働いていたこともあり、積極的に話しかけてコミュニケーションをとるようにしているとのこと。女性客も増えてきて本当にうれしいという。

 倉持店主からお客様へのメッセージをもらった。「えんばでは旬の美味しいものを安く提供して喜んでもらえれば幸いです。それがえんばのコンセプトです。お客さんに育てられていることを常々実感しています。板橋区役所前にお越しの際は是非お越しください」

 そして現在は盛夏に向けて、冷たいカレー味のつゆの冷しそばを開発中だとか。もう少しで完成するそうだ。楽しみである。

「えんば」の味はしみじみと後に残る味だった

「えんば」は立ち食いそば好きのオーナーではなく、食のプロが第二の人生に選んだ素敵な立ち食いそば屋だった。その味はガツンと来るような濃い味ではない。しみじみと味わう、そしてお客さんとキャッチボールしながら育てていくような味の店だった。昼営業が終われば、また出汁をとり夜に備える。倉持店主と千鶴店長の味の探求はまだ始まったばかりである。退店後の口の中は爽やかである。また食べに来よう。

 最後におまけの写真を1つ紹介しよう。倉持店主のご厚意で「おかひじきの天ぷら」をいただいたのだが、これがありえない美味さ。いもの様なホクホクとした味がするのだ。これには驚いた。つゆに浸すとまたねっとりする感じになる。これは新発見の味であった。

INFORMATIONアイコン

立ち喰いそば・うどん えんば

住所:東京都板橋区板橋2-61-16コスモ和光102
営業時間:
月火水金 : 5:30~9:30、 11:00~14:30、 16:30~18:30
水 : 5:30~9:30、 11:00~14:30
土:7:00~14:00
定休日:日祝

(坂崎 仁紀)

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