「転売ヤーはファンと正反対で、堂々と接してくる」バンド「クリープハイプ」の尾崎世界観が語る、転売行為への複雑な思い
文春オンライン / 2024年7月17日 11時10分
![「転売ヤーはファンと正反対で、堂々と接してくる」バンド「クリープハイプ」の尾崎世界観が語る、転売行為への複雑な思い](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72036_0-small.jpg)
『転の声』(尾崎世界観 著)文藝春秋
ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観さんが小説3冊目となる『転の声』を上梓した。本拠地の音楽業界を舞台に、横行する転売行為を題材にした。
「メジャーデビュー直後にあった全国ツアーのチケット発売日、発売時刻の朝10時にドキドキしていました。無事に完売して、買えなかった人に申し訳ないと思うのと同時に、求めてくれる人が多くいることにホッとするというか、後ろ暗い喜びがあったのをよく覚えています。売れることに対する喜びと、売れてるものへの嫉妬のような感情、その隙間に転売が入り込んでくるんだと思います」
主人公の以内右手(いないみぎて)はロックバンド「GiCCHO(ギッチョ)」のフロントマンだが、思うように人気が出ない現状に焦り、カリスマ“転売ヤー”に自分たちのライブチケットの転売を頼んでしまう。
「この題材は自分が知っていることをフルに使っても書き切れるかどうか。そう思って、どうしても自分に近い設定にせざるを得ませんでした。これまで転売ヤーが買い占めたせいで本当に欲しがっている人に届かない、と憤る声をずっと見てきました。あまりにもそれが繰り返されて、麻痺してきているような状況があると思います。ライブ会場でグッズを売る際も、転売対策で受注販売にすればいいと言われたりするけど、自分も誰かのファンとして、グッズは会場で買ってこそという感覚があるので悩みます。
ファンの方はこちらが心配になるくらいに気持ちを委ねてくれます。転売ヤーはそれと正反対で、堂々と接してくる。その人間性にも興味がありました」
以内は執拗にエゴサーチを繰り返す。SNSのリアルな描写、熱量は圧巻だ。
「エゴサーチは自分を見ることなんです。ファンの声はもちろん、たまたまテレビで自分を見かけた人が呟く『気持ちわりーな』などの悪意ある声も含めて、SNSの無機質な声が自分なんだというのは、デビュー当時からずっと感じてきたことです。お客さんと繋がれる時代だからこその負の部分も描きたかった」
物語における音楽の描かれ方の更新も目指した。
「バンドメンバーが一丸となってひとつの目標に向かい、挫折もしながら登り詰めていく。そういう分かりやすい物語に不満があります。現実というのは、勝ち負けもなく淡々とずっと続いていく、もっとモヤモヤしたものなんです。もちろん音楽はいいものだけど、ネガティブな部分だってある。ふだん、バンドや音楽に一所懸命向き合っているからこそ、極端なバンドの姿が書けたのだと思います。
初めて日本武道館でライブをやった時に、このまま目標を達成してしまったら、もうこの先続けようと思えるかなと不安だったんです。でも、いざステージに上がると、普通だ、これまで自分が生きてきた世界とつながっていると感じられて、全然まだやれると思えたのが嬉しかった。でも、だからこそ大変でもあるんです。フィクションでロマンチックに描かれる音楽の奇蹟みたいなものを感じられたら、もっと楽にやれるのかもしれない。自分の日常の先にあるステージに上がって、お客さんに興奮、熱狂や感動を届けるのはとても難しい。その世界を、小説でちゃんと見せたかったんです。
そういった意味では、お客さんにより正直に向き合った結果、こんな小説になったのだと思います。好きでいてくれるファンがいる有難さと怖さ、最後のページを書いた時にその気持ちに決着がつけられた気がして、嬉しかったです」
おざきせかいかん/1984年、東京都生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル・ギター。12年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。16年、初の小説『祐介』を刊行。他の著書に『母影』など。本作は、第171回芥川賞候補に選出された。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年7月18日号)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「3人の出会いは運命ではなく宿命」THE ALFEEが長く続いた理由は“ぬるま湯”、デビュー50年の軌跡
週刊女性PRIME / 2024年7月14日 21時0分
-
エゴサーチがやめられない、永遠に離れられない姉妹…読みやすかった芥川賞候補作に漂う「実感」
読売新聞 / 2024年7月13日 7時4分
-
SUPER BEAVER メジャーデビュー後にどん底…解散危機救ったマネジャーの提案に感謝
スポニチアネックス / 2024年7月12日 22時4分
-
野村周平、エゴサで傷つくのは「ダサい」持論を展開
モデルプレス / 2024年7月5日 12時6分
-
King & Prince高橋海人、志尊淳と親友役でCM出演「自分を解放できた」高校時代に出会った楽曲とは
モデルプレス / 2024年7月4日 8時0分
ランキング
-
1ドラマ「西園寺さん」ヒットの予感しかない3理由 「逃げ恥」「家政夫ナギサさん」に続く良作となるか
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 20時0分
-
2月々のスマホ代を「高いと感じる」…「2000円もすることに驚いた」「安いプランなのに高い」格安プランに乗り換える?
まいどなニュース / 2024年7月16日 19時45分
-
3「これは奇跡...」破格の1人前"550円"寿司ランチ。もうこれ毎日通いたい美味しさ...。《編集部レポ》
東京バーゲンマニア / 2024年7月16日 7時2分
-
4丁寧な言葉遣いで一見おとなしい人ほど陰湿攻撃がエグい…「目に見えない攻撃」を繰り出す人「6パターン」
プレジデントオンライン / 2024年7月16日 15時15分
-
5「ダイエットの成否」を分ける"睡眠時間の壁" 寝不足では「運動」や「栄養管理」も意味がない
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 18時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)