1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

「“げろ吐き”は1回で出し尽くすのが鉄則だが」赤字予想5000億円から1.5兆円に…農林中金を襲った2つの“想定外”とは?

文春オンライン / 2024年7月18日 6時0分

「“げろ吐き”は1回で出し尽くすのが鉄則だが」赤字予想5000億円から1.5兆円に…農林中金を襲った2つの“想定外”とは?

会見で巨額損失の見通しについて発表した奥理事長 ©時事通信社

未曾有の経営危機に直面している農林中央金庫。2025年3月期における赤字額は、当初5000億円程度と考えられていたが、最終的にはそれを大幅に上回ることが予測されるという。このような苦境に陥ったのは何が原因か。

◆◆◆

「“げろ吐き”は1回で、すべて出し尽くすことが成功の鍵だ」

 金融機関が不良債権を処理する際の鉄則である。

 損失を集中的に処理(げろ吐き)することで、一時的に巨額の赤字を抱えることになる。だが、一気に膿を出し切って抜本的な立て直しを図ることで、後のⅤ字回復も可能となり得る――それを表した言葉である。

 総資産は約100兆円、市場運用資産残高は約56兆円。農業、林業、漁業などの協同組合を統べる中央金融機関として、系統金融機関のピラミッドの頂点に立つ農林中央金庫(奥和登理事長、東大農学部卒、1983年入庫)がいま、巨額の不良債権処理の問題に直面している。

リーマン・ショック以来の赤字に

「(JAなどの)会員の期待をはるかに下回ったことに、非常に責任を感じている」

 5月22日、奥氏は2024年3月期決算の記者会見でこう述べた。

 この日、農林中金は翌2025年3月期の連結純損益が5000億円超の赤字に転落する見込みだと発表した。多額の含み損を抱えている保有債券を売却して、損失を計上。財務基盤を強化するため、1兆2000億円規模の資本増強も行う方針だと明らかにした。

「実際に見込み通りの赤字になれば、リーマン・ショックの影響を受けて5721億円の赤字となった、2009年3月期以来の数字となります。当時、有価証券の運用で損失が拡大し、1兆9000億円の増資を実施しました」(経済部記者)

 2024年3月期決算は、純利益が前年比24.8%増の636億円だった。だが欧米など海外金利の上昇で、外貨調達コストが増大。さらに低金利の頃に購入した債券の価値が下がり、3月末時点で含み損が2兆1923億円にものぼった。

「債券は売らずに満期まで持ち続ければ損失は発生しません。しかし、そのまま持っていると、収益性が悪化する恐れがあります。そのため今年度中に一部を売却し、金利の高い米国債などに振り向ける予定です」(同前)

 5月24日、坂本哲志農林水産相は閣議後の記者会見で、「財務の健全性は確保されている。金融市場の動向等を踏まえつつ、農林中金の経営を十分注視する」と述べ、懸念を払拭しようと努めた。

最終赤字予想が1兆5000億円に拡大

 だが、赤字は5000億円にとどまらなかった。6月19日、奥氏が『日本経済新聞』のインタビューで次のように明かしたのだ。

〈農中、外債10兆円売却へ 損失確定 運用戦略を転換 赤字1.5兆円に 今期最終〉

 こう題した朝刊一面トップの記事で奥氏は、3月末時点で約2兆2000億円の債券含み損の状況を改善するために「運用を抜本的に変える必要があると判断した」「(外債関連の)金利リスクを小さくし、法人や個人の信用リスクを取る資産などに分散させる」と説明。「10兆円かそれを上回る規模の低利回り(外国)債券を売っていく」と明かした。大量の外債を売って、含み損を実際の損失として確定させることにより、2025年3月期の収支はさらに悪化する。

 この損失処理に伴い、5000億円超と見込んでいた最終赤字額は3倍の1兆5000億円規模に拡大する可能性がある。リーマン・ショック当時の赤字とは比べ物にならないほどの巨額赤字となる。

「一連の損失処理は、運用の世界で『リバランス』と呼ばれるポートフォリオの入れ替えに近い方法です。農林中金の場合、米欧の金利上昇に伴い価格が大きく低下した債券を売却し、利率の高い債券に乗り換えることになります」(市場関係者)

 農林中金が描いているシナリオはこうだ。

 まず、2025年3月までに損失を集中的に処理することで、一時的に巨額赤字となり、自己資本比率も低下する。そこでJAなど系統組織から資本増強を仰ぎ、危機を回避する。そして2026年3月期には一挙にV字回復し、黒字に転じる――。

農林中金を襲った2つの“想定外”

 そもそも、農林中金が予想を上回る苦境に陥ったのは、何が原因だったのか。

 農林中金は、JAや各都道府県の信連から託された潤沢な円資金を国内外の有価証券等にグローバル投資している。その運用規模は約56兆3000億円(2024年3月末)にものぼる。「円で日本国債を買って、それを担保にドルを調達し、米国債等に投資する」(農林中金関係者)というのが基本投資フローだ。

 その内訳はドル建てが52%で、円建ては24%に過ぎない。ユーロ建ては16%、その他9%と、全体の約8割が、海外運用で占められている。

「日本のマイナス金利環境の影響もあり、利回りの高い海外運用で利益確保を目指していた」(同前)

 そこに米国の矢継ぎ早な利上げによる投資有価証券の価格急落と、ドル高による調達コスト増が襲った。

 市場の混乱は農林中金の予想を超えた。奥氏は5月の会見で「想定を超えるような金利の引き上げだった」と、米金利の上昇に対して後手に回ったことを認めている。

 想定外だったのは米金利だけではない。

「農林中金が10兆円の外債売却を決めた背景には、フランス国債の急落も影響しているのではないかと言われています」(前出・市場関係者)

 6月9日の欧州議会選挙で、フランスの与党連合は極右政党「国民連合」に大差で敗れた。これを受けてマクロン大統領は下院を解散。7月下旬のパリ五輪開幕を前に、突如総選挙が実施されることになった。

 マクロン大統領の決定は、フランスの金融市場を動揺させ、銀行株が大幅に売られた。銀行が大量に保有する国債の価格下落が、銀行の財務を悪化させるとの見方が強まったためだ。影響は日本にも飛び火し、6月17日に日本株が大幅に下落した要因の一つになった。

 ユーロが安くなるという構図は、リーマン・ショック後の欧州債務危機を彷彿させる。

「米国債に続き欧州債まで価格が急落することになれば、農林中金の危機は本格化する。リスク要因はできる限り取り除いておく必要がある。そこでさらなる外債売却に動いたのでしょう」(同前)

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 〈崖っぷちの農林中金〉1兆5000億円巨額赤字でもトップ続投。次期理事長は一人に絞られた 」)。

 

全文 では、今回の巨額損失と奥理事長の続投によって、“ポスト奥”争いはどのような影響を受けるのか、次期理事長の有力候補について、詳細に解説しています。

(森岡 英樹/文藝春秋 電子版オリジナル)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください