「もうあそこには住めない…」大谷翔平の12億円新居を報じてもLAタイムズが非難されないワケ《米国在住ジャーナリストが見たフジテレビと日本テレビとの相違点》
文春オンライン / 2024年7月17日 12時15分
![「もうあそこには住めない…」大谷翔平の12億円新居を報じてもLAタイムズが非難されないワケ《米国在住ジャーナリストが見たフジテレビと日本テレビとの相違点》](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72090_0-small.jpg)
©時事通信
「もうあそこには住めない」大谷翔平選手が購入したばかりの785万ドル(約12億円)の豪邸について、こう言及したと米メディアで報じられている。いったい何が起きたのか?
なるほど、ラ・キャナーダ・フリントリッジね!
ロサンゼルス・タイムズ紙が、大谷翔平選手が同地に豪邸を購入したことを報じた時、そう思った。妙に納得してしまったのは、セレブが多数居住する世界的に有名な高級住宅地ビバリーヒルズなどではなく、あまり知られていないラ・キャナーダ・フリントリッジだったからだ。
LAタイムズは問題なくフジテレビと日テレは問題視されたワケ
大谷選手が豪邸を購入したラ・キャナーダ・フリントリッジなら、ツーリストたちはさすがに訪れないのではないか。プライバシーを大事にする大谷選手はなかなか賢い選択をしたと思ったのだ。
ところが、である。大谷選手ファンは同地まで足を運んでしまったようだ。フジテレビの「イット!」によると、豪邸には多くの観光客や地元の人々が訪れる状況が起きているという。この背景には、日本テレビやフジテレビが、豪邸の前まで行って住所が特定できそうな撮影をしたり、近隣住民にもインタビューしたりするなどして、プライバシーを配慮しない行き過ぎた報道をしたことがあるようだ。
こう書くと、こんな声も聞こえてきそうだ。アメリカのセレブの豪邸写真はよく掲載されているじゃない? 確かに、米国のメディアの中にはセレブの豪邸写真を掲載するところはある。そもそも、今回、大谷選手の豪邸を最初に掲載したのはロサンゼルス・タイムズだった。しかし、それは空撮写真。実際、セレブの豪邸写真をみると、たいていは空撮されたもので、住所までが特定できそうな至近から撮影したものはあまり見られない。
例えば、2010年、飲酒運転による交通事故と愛人たちとの不倫問題で“渦中の人”だったゴルファーのタイガー・ウッズが離婚後、フロリダ州に5400万ドルの豪邸を購入した際も、空撮写真はよく掲載されていたが、住所が特定できそうなストリートから撮影した写真や映像は目にしなかったように思う。
米国メディアは日本のテレビ局の行き過ぎた取材に疑問を感じているようだ。米国で人気のスポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」は、フジテレビと日本テレビが、近隣住民へのインタビューを含む詳細な報道をしたことについて「彼らの報道はオオタニの私生活にあまりにも踏み込み過ぎたため、ドジャースは彼らのメディア資格を取り消した」と報じ、その背景として「過去数年間、米国では有名人の自宅が強盗に遭い、多くの人々にパニックを引き起こしてきた。
セレブの家族が誘拐され身代金を要求されたケースも
家族が誘拐され、巨額の身代金を要求されたケースもあった。このこととオオタニの知名度の高さから、ドジャースは予防措置を講じた」と説明、「オオタニは日本のメディアに対してますます警戒心を強めている」と述べている。
また、スペインのメディア「マルカ」が行き過ぎた報道についてフジテレビと日本テレビに質問したところ、両社とも「インタビューに関する質問にはお答えできません」という否定的な対応だったことも報じている。
大谷選手の警戒心は、遂に、家を売却しようとの決断までさせている可能性があるとも報じられている。保守系の米紙「ニューヨーク・ポスト」は「大谷翔平、プライバシーの懸念から800万ドルの豪邸を売却せざるを得なくなる」とのタイトルで、
「オオタニは、フジテレビと日本テレビがオオタニの家の住所を明らかにし、記者を家の前に派遣して写真やビデオを撮ったり、近所の人々にインタビューしたりしたという一線を越えた取材に激怒した。
記者は敷地内の、木々の向こうにあるバスケットボールコートの隠し撮り画像も得た。報道機関はその後、報道の仕方について批判を受けたが、フジテレビの港浩一社長だけが謝罪。オオタニ陣営は不動産会社の情報システムを信用せず、新たな買い手を探している。不動産会社は、オオタニの怒りと不満を感じ取り、パニックに陥った」
などと報じている。
オンラインスポーツニュースサイト「エッセンシャリー・スポーツ」は、
「野球界のスーパースター大谷翔平選手は、物議を醸すプライバシー侵害に何度も直面してきた。前は、チームの元通訳が関与した賭博スキャンダルだったが、今度は自宅のプライバシーが大きな侵害を受けている。彼の新居を最初に明らかにしたのはロサンゼルス・タイムズだったが、日本のメディアの報道はやりすぎで、特にテレビは放送されるべきではないものを見せていた。
5月から和解を図ろうとしているオオタニは、日本のメディアによるプライバシーの侵害に怒っているようだ」
とし、「球団関係者によると、オオタニは『もうあそこには住めない』と言い、不動産会社に責任を持って買い手を探すよう要請した」と報じている。
批判が集まった住所が特定できるような報道の仕方
また、全ての始まりはフジテレビと日本テレビが一線を越えて、大谷選手の新居の取材を始めたことにあるとの見方を示し、「彼らが放送した番組はオオタニに危険を及ぼす可能性があった。彼らは家の前と後ろも撮影して住所を明らかにした」と住所が特定できるような報道をしたことを問題視している。
さらに、「フジテレビは特にひどかった。5月23日の『Live News It!』では、男性記者が敷地内のバスケットコートを、生い茂った木々の隙間から盗撮していた」というヤフーの記事を引用しつつ、「もっと酷いのは、マスコミ各社が近隣住民にインタビューを行ったことだ。皮肉なことに、住民はオオタニが近所に住むことを知らなかった」と批判している。
同サイトが危惧しているのは、犯罪が多発しているロサンゼルスでの大谷選手や真美子夫人の安全だ。実際、大谷選手のチームメイトである三塁手マックス・マンシー氏のプライバシーが侵害されたことがあるという。帰宅途中のマンシー氏の携帯電話のセキュリティー・アラームが突然鳴り出し、防犯カメラに複数の不法侵入者が家に入ってくる様子が映し出されたことがあったというのだ。
この時、マンシー氏は家族と一緒だったが、選手は遠征試合の時、妻や子供を家に残して行くことが多いことから、大谷選手は遠征中、家に一人残される真美子夫人の安全を考えて、住所が暴露された家を売却する可能性が高いのではないかと以下のように見ている。
「大谷翔平は新しく購入した家を売却する可能性が高い。この騒動が始まって以来、妻の田中真美子は彼の試合に一度も来ていない。それが状況の深刻さを説明していないとしたら、他にどう説明がつくだろうか?」
アメリカの高級住宅街で取材を行うと記者も危険視される
米掲示板型SNSサイトRedditでは、日本のテレビ局の行き過ぎた報道がスレッドとして立てられ、「住民にインタビューするとは無謀だ」「これらは大手ネットワークであり、くだらないパパラッチではない」と大手テレビ局が行き過ぎた取材をしたことを問題視するコメントや、ドジャースによるプレスパス剥奪については「実際、オオタニをストーキングし、(住まいを明らかにすることで)他の人たちをストーカーにしてしまうのはひどい行為だ。ドジャースは日本のテレビ局に何の借りもない。プレスパスは企業間の信頼が条件となっている特権で、ドジャースは彼らを信頼していないということだ」と日本テレビやフジテレビをストーカー視して、プレスパス剥奪を当然とするコメントがあがっている。(現地時間6月15日、米メディア「 ドジャース・ネーション 」がフジテレビと日本テレビの「メディア資格を取り消した」と報じたが、両者ともにこの事実を否定)
“X”でも、大谷選手が家を売却する可能性があるとの報道について「酷いことだ」「ああ、プライバシーの懸念から、大谷翔平は800万ドルの美しい邸宅を売却せざるを得なくなっている。安全で安心な新居が見つかることを願う」などのコメントがあがっている。
アメリカで取材してきた経験上懸念されるのは、日本テレビやフジテレビが行ったパパラッチ的な取材は、記者も危険視される恐れがあるということだ。アメリカの住民は、安全上、付近で不審者を見かけるとすぐに警察に通報する傾向がある。特に、富裕層が居住する地域ではこの傾向が強い。
ビバリーヒルズのあるセレブ宅周辺の聞き込みをしたことがあるというある記者は、不審に感じた誰かが通報したのか、急に、近くをポリスカーがパトロールし始めたと話していた。また、サンタモニカのあるセレブ宅前で車の中で張り込みをしていた記者は住民に「そこで何をしているのか?」と詰問され、警察に通報するためか車のナンバープレートの写真まで撮られたという。
平和ボケした日本人の想像以上に犯罪と隣り合わせのロサンゼルス
平和ボケしている日本とは違う。犯罪大国アメリカでは、いつでも、どこでも、どんな高級住宅地であっても犯罪が起こりうる。そのため、住民は周囲の安全に過剰なほど敏感だ。フジテレビは近隣住民にインタビューしたというが、中には、彼らのことを不審に感じ、快く思わなかった者もいたのではないか?
ロサンゼルスではセレブを狙った犯罪も多数起きてきた。2008年から2009年にかけて、マリブにあるパリス・ヒルトンの豪邸には「ブリング・リング」と呼ばれる10代の若者窃盗団が何度も押し入り、200万ドル相当の宝石を強盗した。2014年には、サンドラ・ブロックをストーキングしていた男がサンドラの豪邸に侵入、在宅していたサンドラに通報されて逮捕される事件も起きた。昨年12月には、キアヌ・リーブスのロサンゼルスの豪邸にスキーマスクを被った強盗が侵入し、銃1丁を盗む事件も起きている。
強盗のターゲットにされやすいセレブの住む豪邸。大谷選手の購入した豪邸を住所が特定できるよう至近から撮影して放送することは、起こりうる強盗事件に加担してしまうことになるのかもしれない。
(飯塚 真紀子)
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