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選挙特番の時間切れで、石丸伸二氏に質問できなかったこと 市長時代の名誉棄損裁判で敗訴、賠償金も命じられ…

文春オンライン / 2024年7月16日 6時0分

選挙特番の時間切れで、石丸伸二氏に質問できなかったこと 市長時代の名誉棄損裁判で敗訴、賠償金も命じられ…

6月17日、記者会見する石丸伸二氏 ©時事通信

 SNSでよく見かけるものに「○○に政治を持ち込むな」とか、政治に関して語ると「思想が強い」と揶揄する言葉がある。使い方の是非はともかく“政治”を忌避したい人が多いことに気づく。それでいうと、もしかして連動しているのでは? と思ったのが東京都知事選での石丸伸二氏である。

 まず最近の石丸氏について振り返ろう。7日に投開票がおこなわれた東京都知事選の選挙特番で、石丸氏による社会学者の古市憲寿氏や元乃木坂46の山崎怜奈氏に対する態度が注目された。質問に答えない、強権的な振る舞いを生放送で披露したのだ。

 11日のテレビ朝日系の番組では山崎氏の質問を「前提が正しくない」とかわしたことについて「女こどもに容赦するのは優しさじゃない」「(頭を)ポンポンとやってあげる感じがよかった? それも失礼ですよね」という価値観を披露する。公人を目指した(公人でもあった)人物への批判は大きかったが、しかし選挙期間中に候補者へのインタビューや討論会をガンガンやっておけばもっと早く人物像が広く共有されたのでは?とも思う。

選挙当日、ラジオの特番で石丸氏を“体験”した

 実は私も石丸氏を選挙当日に“体験”していた。TBSラジオの選挙特番に出演していたのだが、番組中盤で石丸氏とリモートでつながった。MCを務める荻上チキ氏が「今回の都知事選挙、手応えを感じたと先ほど発信もされていましたが、特にどんな点、手応えを感じた選挙だったのでしょうか?」と質問すると、石丸氏は「うん? どのくだりの話をされてらっしゃいます?」。荻上氏が具体的に説明して改めて問うと「なんか違うニュアンスで聞かれてます?」。

 こんな感じが続いたのだ。続いてライターの武田砂鉄氏が石丸氏の著作のある言葉について質問すると「失礼ですが、本当に熟読されました?」。私は武田氏の隣にいたが本には付箋がびっしりと貼られていた。本番前にも武田氏からその箇所について聞かされていて戦慄していたほどだ。

戦慄した石丸氏の著書の中身

 石丸氏は著作に何と書いていたか。自分のメンタルが強い理由について相手の問題はどうなっても知りませんと割り切れるところ、と書いていたのだ。いろんな立場や意見を受け止めて考えていくのが政治家だとしたらそれでは意見を届けることが難しくなるのでは? という武田氏の質問だった。これに対して「本当に熟読されました?」ときたのである。熟読のプロの武田氏にそれを言うなんて大谷翔平に「本当に野球選手なんですか?」と言って小馬鹿にするようなものだ。次は私が質問しようと考えたが中継の時間が5分と決められていたのでタイムアップ。

 ちなみに私が石丸氏に質問しようとしたのはこれだ。

『石丸伸二氏言動で控訴棄却 市に賠償の一審支持、広島』(共同通信7月3日)

 石丸氏は、安芸高田市長時代、山根温子市議から「“どう喝を受けた”とのうその主張で名誉を傷つけた」などとして訴えられていた。一審では山根市議の主張が認められて市が33万円の賠償を命じられていたが、3日の控訴審判決でもこの判決が支持されたことになる。

石丸伸二とは一体何なのか、根拠の無い実体のままここまできたのか?

 もともと石丸氏は市議会と「戦う」様子をYouTubeで「可視化」して注目を浴びた。市議から「どう喝を受けた」という主張もそうだ。恥を知れ、と叫んでネットで喝采を浴びてきた。しかし裁判ではその主張があらためて否定されたのである。となると石丸伸二とは一体何なのか、根拠の無い実体のままここまできたのか? ......背筋がゾクッとする。石丸氏は他にも裁判で負けている。それらの件を生放送で直接聞きたかった。

 興味深いのは、選挙特番当日の石丸氏の言動を、石丸氏側から見ると次のようになることだ。

『「マスコミ返り討ち」「大手3社が炎上」「公開○刑」…都知事選後も石丸伸二さんの過激な切り抜き動画がバズりまくる』 (中日スポーツ7月8日)

 石丸氏の知名度を高めてきた過激な「切り抜き動画」が、都知事選後もYouTubeやTikTokで多数の再生回数を稼いでいた。動画には「マスコミ返り討ち」「不適切発言で大手3社が炎上」「煽る日テレ公開○刑」「印象操作」「もはや放送事故!?」など過激なテロップやタイトルが入っていた。

地上波メディアには厳しい反面、〇〇は褒めていた

 私が当日石丸陣営の現場にいた人に聞くと、地上波メディアには最初から厳しい反面、ニコニコ動画やアベマなどネット媒体は褒めていたという。なるほどと思う。ラジオでも最初からけんか腰で会話が成り立たなかった理由もわかった。“地上波メディア”と戦っているように見える姿は支援者にウケるのだろう。 

 長年にわたって全国各地の選挙現場を取材するフリーライターの畠山理仁氏は、石丸氏の選挙戦を「『切り取り民主主義』の台頭」と述べている。畠山氏はその演説について、

《「『政治屋の一掃』といったフレーズが分かりやすい」ため、一部を切り取った動画を作りやすいと指摘。そうした動画は再生回数が稼げるため、さらに多くの配信者が演説に集まる。これまで政治に接点のなかった有権者には、石丸氏が「政治的な初恋の相手」となり、無党派層のファンが拡大したとみる。》(東京新聞7月9日)

 市長時代から、市議や記者らと対立する動画などがネット上で人気を集めていた石丸氏。その点について都知事選後におこなったトークライブで畠山氏に聞くと、

「石丸さんの囲み取材などでは記者の方がなかなか質問しないんですよ。何か質問して今まで動画で晒されてきた記者のことを知ってますからね」

若い世代は現状批判に「へきえきしている」

「石丸氏とメディア」にはいろんな論点があるだろうが、私はこれこそ最大の問題だと思う。記者を始めとするメディアが萎縮して政治家や候補者をスイスイと泳がせてきたのが今回の都知事選の「報道」であったのかもしれない。選挙期間中はほぼ沈黙し、そして選挙が終わると同時にテレビは石丸氏を重宝しだした。これは石丸陣営の狙い通りかもしれない。選挙後には石丸陣営の選挙参謀・藤川晋之助氏のインタビューがあった(朝日新聞7月13日)。

・街頭演説を200回超やったが、特徴的なのは、細かい政策を全く言わないことだった。自己紹介を言い続けた。

・政策で勝負しても全然意味がない。

 私も石丸氏の街頭演説を何回か見たが、確かに何か言っているようで言っていないのが印象的だった。「続きはWEBで」と言っていた。藤川氏曰く、若い世代は街頭で他候補みたいな政策論や現状批判を聞いても「へきえきしている」という。

 ここは考えさせられる。よく「音楽に政治を持ち込むな」のように「○○に政治を持ち込むな」とことさら政治を忌避する動きがあるが、石丸氏は言ってみれば「政治に政治を持ち込むな」を実践したのだろうか。

 さらに言えば、少し前から批判や論評を「悪口」と受け止めて嫌がる風潮が各ジャンルで指摘されている。政治の話をすると「思想が強い」と冷笑する向きもある。そうした人の中では石丸氏は一見、無味無臭に見えたのかもしれない。しかし政治的なものや細かい政策論を嫌がった人たちがたどり着いたのは、わかりやすい罵倒動画を売りにした極めて政治的な人物なのである。政策より政局で上を狙う昭和のおじさん政治家の亜種に「政治的な初恋」をしたのだろうか。そのわかりやすさに。

 民主主義は議論や手続きに時間がかかってめんどくさいからこそ、他の制度より比較的信用できると言われる。その意味をいまあらためて考えている。

(プチ鹿島)

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