体育座りができない、公園に連れて行っても遊べない…石井光太が危惧する《“当たり前のこと”ができない子どもたち》
文春オンライン / 2024年7月19日 11時0分
![体育座りができない、公園に連れて行っても遊べない…石井光太が危惧する《“当たり前のこと”ができない子どもたち》](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72106_0-small.jpg)
子どもの問題を調査し続けるジャーナリストの石井光太氏 ©文藝春秋
デジタル時代の中で、子どもの身にどんなに不都合な事態が起きているのだろう。長年子どもの格差や社会課題を取材してきた石井光太氏が、全国200人以上の先生にインタビューをし、子どもたちの成育環境から来る<悲鳴>を浮き彫りにした『 ルポ スマホ育児が子どもを壊す 』(新潮社)を上梓した。いま、子どもたちの内面で何が起きているのか。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
アプリがなければ寝られない子どもたち
――新刊の『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』を読みました。そもそも今なぜ、子どもの「成育環境」や「内面」をとらえ直す必要があるのでしょうか。
石井光太(以下、石井) 現在、ベビーカーに乗っている赤ん坊がスマホを見ている風景は日常になりました。日本では、2歳児のタブレットを含めたインターネット利用率は58.8%に達しています。
ここ数年、コロナ禍もあり、それに拍車がかかりました。ある保育園ではお昼寝の時間にスマホ用の「寝かしつけアプリ」を利用しています。一部の家庭では毎日それを使用して寝かしつけをしているので、そういう子どもはアプリの声で子守歌をうたってもらったり、羊の数を数えてもらったりしないと眠れないのだとか。
もちろん、こういう家庭はごく一部でしょうが、本書で描いたような別の事例も含めれば、わずか数年で子育ての方法や環境に大きな変化が生じているのは明らかです。
私が取材をした京都大学の明和政子教授はこう話していました。
「デジタルの時代に生きる子どもたちの成育環境は、“ホモサピエンスのそれ”ではなくなっています」
ホモサピエンスの成育環境で育たない子どもは一体どうなるのか。その恐怖と不安が、本書の取材をはじめたきっかけです。
――スマホやアプリが子どもを変えているということなのでしょうか。
石井 スマホやアプリだけが原因だとは思っていません。
本書でも書きましたが、未就学児の子どもたちの問題の一つに、体育座りやしゃがむことができない子が増えていることがあります。体幹が鍛えられていないため、そのまま後ろや横に倒れてしまうのです。
原因として、取材した先生が挙げていたのが「ハイハイをしない子が増えた」ということです。赤ちゃんはいろんな障害物のあるところを自由にハイハイしながら育つことで、全身の筋肉やバランス感覚を育てる。それが正しい二足歩行や、その後の身体活動の基盤となる。
しかし、部屋が狭かったり、親が忙しくて十分な見守りができなかったりすれば、自由にハイハイさせずに、「赤ちゃん用歩行器」に乗せて、そこから一足飛びに歩行へと進ませます。これが筋力や体幹を未熟にし、その後の身体活動に影響を与えているというのです。
――家庭環境の変化によって成育環境が変わっているということですね。
石井 親が多忙ゆえに、子どもに向き合うための十分な時間がないということも大きいでしょう。
別の例でいえば、3歳、4歳になっても、固形物をちゃんと食べられない子が出てきているそうです。食べ方がわからなので、のどに詰まらせてしまう。
そのため、保育園によっては、3歳児なのにペースト状の離乳食みたいなものを食べさせているところすらあります。誤嚥事故を防ぐためです。
なぜ、こんなことが起こるのか。先生が指摘するのが親の多忙さです。通常、ミルクから離乳食、そして固形物を食べれらるようにするためには、親が何カ月もつきっきりで向き合い、日に2~3回「あーん」「はい、もぐもぐ」「ゴックン」などと言って食べ方を教えてあげなければなりません。でも、親が疲れきっていたり、スマホやドラマを見ながら食事をするのが習慣になっていたりすれば、それを十分にしないので固形物を食べる方法が身につかない。それで、柔らかなものでも、のどにつまらせてしまそうです。
本書のタイトルに「スマホ育児」とついていますが、これはあくまで象徴的なことをタイトルに入れただけで、いろんな子どもたちの環境の変化から生じる問題を描いたノンフィクションと考えていただければと思います。
公園に連れて行っても遊べない子どもたち…
――今の子どもたちが外で自由に遊ぶ機会が減ったため、保育士が公園へ連れて行って「遊んでいいよ」と言っても、遊べない子が出てきているというエピソードがショッキングでした。
石井 自由な遊びは、子どもの体力を鍛えるだけでなく、非認知能力のベースを育むものです。そこで想定外のことをたくさん経験し、大勢の人たちとかかわることで、自尊感情、勇気、優しさ、意志、対人能力などを鍛えていく。
これをしっかり理解して自由な遊びをさせている家庭と、そうでない家庭とが、今ははっきりしています。後者だと遊びを通じて獲得する能力がなかなか育ちません。
親の中には、子どもの遊びを保育士に任せようとする人もいますが、そう簡単にいきません。今の若い保育士はデジタルネイティブです。本にも書きましたが、保育士自身がゲームとスマホで育って、外遊びをしたことがない人が珍しくない。「裸足で土を踏めない保育士」「泥を触れない保育士」「他の人とご飯が食べられない保育士」などが出てきている。
そうなると、保育園に任せれば万事OKという神話は崩れますよね。
〈 ネットのプロフィール欄を見ただけで告白→出会ったその日に性交渉…“スマホとSNS”が変えてしまった「今の高校生たちの恋愛事情」 〉へ続く
(石井 光太/Webオリジナル(外部転載))
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