「男同士ならサウナに入って、酒でも飲めば…」男子と勝手が違って困惑…女子バレー日本代表監督が“選手のために変えたこと”
文春オンライン / 2024年7月28日 11時0分
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眞鍋政義監督 ©文藝春秋
女子バレー日本代表チームは、6月14日に国際大会「ネーションズリーグ」でパリ五輪出場を決め、強豪国に打ち勝って準優勝にまで上り詰めた。躍進するその姿に、パリでのメダル獲得への期待も高まっている。
ここでは、そんな日本代表チームを引っ張る眞鍋政義監督の 『眞鍋の兵法 日本女子バレーは復活する』 (文藝春秋)より一部を抜粋して、強さの理由を探る。女子バレーをマネジメントするにあたって“数字”を重要視する理由とは――。(全4回の1回目/ 続きを読む )
◆◆◆
男子とはまったく反応が違った女子選手
私が数字を重視するようになったのは、勝つため以外に、もうひとつ理由がある。それは女子選手をマネジメントするためである。
男子バレーで育ってきた私が、最初に女子選手と接するようになったのは2005年、Vリーグの久光製薬スプリングスの監督に就任したときだ。私は自他ともに認めるポジティブ思考の人間。男女の違いがあるといっても、ネットの高さが違うだけで(男子は243cm、女子は224cm)、ルールは同じ。コートの大きさも変わらない。女子チームを率いることに不安は抱いていなかった。
「元日本代表で、セリエAでもプレーした眞鍋さんが新監督としてやって来る」。きっと選手たちは楽しみにしてくれているはずだ。私は張り切って最初のミーティングに臨んだ。
挨拶もそこそこに、世界の最新の戦術や、これから久光製薬をどんなチームにしていきたいかなど、10分ほど熱っぽく語った。みんな感銘を受け、尊敬の眼差しで私のほうを見ている……と思いきや、ほとんどの選手がきょとんとした顔をしている。
「どう思う?」「分かるか?」と問いかけても、誰も答えない。男子選手とはまったく反応が違う。男子の場合、私が最初に在籍した新日鐵では、けんか腰の議論がしょっちゅうあった。旭化成でもパナソニックでも、選手たちは自分の意見をぶつけてきた。ところが、女子はまったく勝手が違う。
Vリーグでプレーする女子選手は、中学、高校をバレー名門校で過ごし、厳しいカリスマ監督たちの指導を受けてきた者がほとんどだ。監督の指示は絶対。口答えは許されない。そのため、自分の意見を表に出すよりも、監督の顔色をうかがう癖がついてしまっている。よく言えば素直なのだが、積極性に欠ける面もある。
では、新しくやって来た監督の言うことにすぐ従うかというと、けっしてそんなことはない。「どんな監督なんだろう」と様子を見る。そして、監督が自分の方針を押しつけようものなら、「女子バレーを分かってない」と反発する。
男同士ならけんかをしても、そのあといっしょにサウナに入って、酒でも飲めばわだかまりはなくなる。ところが、女子の場合、いったん反感を持たれると、選手が対監督でまとまってしまうことがある。
「これはえらいところに来てしまった」
男子だろうが女子だろうが同じバレーボール。そう思っていたのは大間違いだった。さっそく女子チームの監督をしていた知人に相談したところ、「上から一方的に話すのではなく、一人ひとりと個別に対話したほうがいい」というアドバイスをもらった。そこで各選手と個別に面談をすることにしたのだが、またもや問題が起きた。
練習を始めてから3日目。ある選手と面談したら、こんなことを言われた。「眞鍋さんは今日私に10分指導してくれましたけど、同じポジションのあの選手とは昨日20分くらい練習してましたよね」。前日の練習では強打のレシーブが苦手な選手に、私が自らスパイクを打って特訓したのである。それが「監督はあの選手だけ特別扱いしている」と見られたのだ。
チームスポーツとはいえ、選手の間にはライバル意識がある。とくに同じポジションを争う選手同士ならなおさらだ。ライバルへの嫉妬心をプラスのエネルギーに変えられれば、チーム力のアップにつながる。しかし、一歩間違えると負の感情が伝染し、チームが崩壊してしまう。
私はえこひいきをしたつもりはない。でも、選手がそう受けとめてしまえば同じことだ。もちろん男子にも嫉妬心はあるが、ある選手を特訓したからといって、それをえこひいきと取られることはない。ところが女子チームの場合、微妙な感情が働くのである。「これはえらいところに来てしまった」と思った。
本人は公平に接しているつもりでも…
その後はとにかく全選手を公平に扱うことを心がけた。練習のときだけでなく、ミーティングや声かけにも気を配った。しかし、男社会で育ってきた私には、女性の心理というものがよくわからない。
たとえば、女性が髪形を変えたら、さりげなく褒めるのが大事だとアドバイスされたが、そもそも私は髪型が変わったことに気づかないのである。ばっさり切ったりすればさすがに分かるが、ちょっと色を変えたとか、微妙に前髪をいじったぐらいの変化だとさっぱりだ。長年セッターをやってきたから人間観察には自信があったのだが、女性のこととなるとからっきしダメである(苦笑)。
そこでマネージャーの宮﨑さとみに頼んで、選手が髪形を変えたら教えてもらうことにした。それで「お、なかなか似合うやん」と言えば、「監督は私のことを気にかけてくれているんだ」と思って、選手の気分も上がる。女子の場合、そういう些細な気遣いの積み重ねが、チームの雰囲気をよくするために大事なのである。
女子チームの監督には公平性が求められる。それは分かった。しかし、私が公平に接しているつもりでも、選手が不公平を感じているということもある。とくに試合での選手起用については不満が生じやすい。
誰もが納得できる客観的な基準を示せないものか……と悩んでいたとき、ふと思いついたのが、“数字”だった。
数字の公開で変わった、選手たちの練習への取り組み
女子バレーでは、だいたい練習の最後にゲームをすることが多い。そのデータもパソコンに入力し、翌朝、監督がチェックしてから次の練習に臨む。その数字を見ているとき、パッとひらめいた。このデータを毎日大きな紙に書き出して、体育館の壁に貼り出す。そして、「数字のいい選手をレギュラーとして使う」と宣言するのだ。
それまではデータを見るのは基本的に監督やコーチ陣のみだった。それを選手全員に公開すれば、個々のパフォーマンス、調子の良し悪しが一目瞭然となり、起用の基準も明確に示すことができるというわけだ。
実際にやってみると、最初のうちは不評だった。自分の数字がよくないと、居心地が悪いと言うのだ。しかし、そうなればしめたもの。「だったら、数字がよくなるようにがんばればいいやないか」と叱咤激励できる。
数字を公開するようになってからしばらくすると、選手たちの練習への取り組みが変わってきた。一本一本のスパイク、サーブ、レシーブを大切にするようになり、練習の質が高まったのだ。
数字がもたらした副産物
副産物がもうひとつあった。選手たちが数字の見方、意味に興味を持つようになったのだ。たとえば、いままでスパイク決定率だけを気にしていた選手が、効果率にも興味を持つようになった。決定率がよくても効果率が悪いということは、ミスも多いということ。その原因はどこにあるのか? 改善するためにはどうしたらいいのか? 選手自身が問題意識を持ち、コーチに相談するようになった。コーチは映像を見せながら改善点を指摘し、練習方法を工夫する。その積み重ねで個々のパフォーマンスが上がり、バレーへの理解も深まる。
つまり、公平性を担保するために採り入れた“数字”が、チーム力の底上げにもつながったのである。数字を壁に貼り出す方式は、現在の日本代表でも続けている。
とはいえ、数字は万能ではない。試合の流れを変えるレシーブ、チームを勢いづけるブロック、ムードを盛り上げる掛け声など、数字には表れないが、勝敗に大きな影響を与える要素もある。監督は絶えずそういう点にも目を配らなければいけない。
また、ときには数字を出さないほうがいいケースもある。ロンドンオリンピックの前、レシーブ強化のため、毎日レシーブの数字を発表していたときのことだ。ある朝、壁に貼り出す前に確認したら、正セッターの竹下佳江より控えの中道瞳の数字のほうがよかった。二人ともレシーブがうまい選手。普段なら切磋琢磨を促せばいい。しかし、いまはオリンピック前の大切な時期。竹下と中道がむやみに張り合ったら、チームがまとまらなくなる。この数字を発表するのはまずい……。
「公平性が大事と言いながら、不公平じゃないか」と思われるかもしれない。ただ、数字を発表するのは、もともとチームの競争意識を適切にコントロールするためだ。“数字”にはいい面もあれば、悪い面もある。もう時効だろうから告白するが、後にも先にも意図的に数字を発表しなかったのは、そのときだけだ。
〈 東京オリンピック予選敗退に「次の監督は苦労するだろうな」と思っていたが…女子バレー日本代表監督・眞鍋政義が名乗りを挙げた“覚悟の理由” 〉へ続く
(眞鍋 政義/ノンフィクション出版)
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