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東京オリンピック予選敗退に「次の監督は苦労するだろうな」と思っていたが…女子バレー日本代表監督・眞鍋政義が名乗りを挙げた“覚悟の理由”

文春オンライン / 2024年7月28日 11時0分

東京オリンピック予選敗退に「次の監督は苦労するだろうな」と思っていたが…女子バレー日本代表監督・眞鍋政義が名乗りを挙げた“覚悟の理由”

眞鍋政義監督 ©文藝春秋

〈 「男同士ならサウナに入って、酒でも飲めば…」男子と勝手が違って困惑…女子バレー日本代表監督が“選手のために変えたこと” 〉から続く

 女子バレー日本代表チームは、6月14日に国際大会「ネーションズリーグ」でパリ五輪出場を決め、強豪国に打ち勝って準優勝にまで上り詰めた。躍進するその姿に、パリでのメダル獲得への期待も高まっている。

 ここでは、そんな日本代表チームを引っ張る眞鍋政義監督の 『眞鍋の兵法 日本女子バレーは復活する』 (文藝春秋)より一部を抜粋して、強さの理由を探る。

 一度はロンドン五輪で銅メダル獲得までチームを導いた眞鍋監督。東京オリンピックでの予選敗退という厳しい結果を前に、どうして再び代表監督に名乗りを挙げたのか――。(全4回の2回目/ 続きを読む )

◆◆◆

東京オリンピックがコロナで延期に

 未曾有のパンデミックに、バレー界はもちろん、スポーツ界全体が大きな影響を受けることになった。何より大きかったのが、東京2020オリンピックの延期である。

 決行か、延期か、中止か。政界や経済界の動きに巻き込まれ、スポーツ界は翻弄された。思ったような練習や準備ができず、選手たちも苦しんだと思う。東京を目標にしていた選手の中には、延期を受けて引退を選んだ者もいる。

 代表監督の中田久美にも大きな重圧がのしかかったはずだ。オリンピックで日の丸を背負うプレッシャーは経験してみないと分からないものだ。そこにコロナ禍をめぐるさまざまな問題が加わったのだから、その苦労は察するにあまりある。

 結局、オリンピックは1年遅れで開催されることになったが、各競技とも感染対策のため、無観客で行われることになった。私はテレビの解説を務めることになったのだが、観客のいない有明アリーナは、異様な雰囲気に包まれていた。本来は日本チームへの大声援が選手を後押しするはずだったのが、聞こえるのは監督と選手の声のみ。

初戦で起こったアクシデント

 初戦の相手はケニア。チーム力を考えればまったく問題ない相手である。ストレート勝ちして勢いに乗りたいところだ。実際、2セットは順調に連取したのだが、第3セットに思わぬ落とし穴が待っていた。エースの古賀紗理那がブロックに跳んだあと、着地時に相手選手と交錯し、右足首を捻挫してしまったのだ。起き上がることができず、そのまま途中退場。試合は代わりに出た石井優希の活躍もあり、3-0でものにした。しかし、初戦でのエースの負傷はあまりにも痛い。

 2戦目はセルビア、3戦目はブラジルと、相次いで世界のトップチームと対戦した。どちらかから金星をあげれば、決勝トーナメントへの進出が見えてくる。しかし、日本は両試合とも0-3で完敗してしまう。最終的にセルビアは銅、ブラジルは銀メダルを獲ることになるわけだが、世界のトップとの差が如実に表れてしまった。

4戦目の韓国戦、14-12でマッチポイントを迎えたが…

 予選ラウンドの4戦目は韓国戦。ここが正念場だった。負傷退場から6日で古賀がスタメンに復帰した。万全の状態ではなかったようだが、古賀がいるのといないのとではチームに与える安心感が違う。ただ、監督の中田久美はそれ以外のスタメンを大幅に入れ替えた。セッターは籾井あきに替えて田代佳奈美、オポジットは黒後愛に替えて林琴奈、ミドルブロッカーは島村春世に替えて山田二千華。

 ところが、それが裏目に出て、日本は試合序盤からミスを重ねた。韓国はエースのキム・ヨンギョンにボールを集め、先行する。日本はメンバーを交代しつつ流れを取り戻し、試合はフルセットにもつれ込んだ。

 こういうときに頼りになるのが荒木絵里香だ。ロンドンのときに主将を務めていた荒木は、その後出産もあり一時引退した。しかし、リオの前に代表に戻り、東京では自身4度目のオリンピックを、再び主将として迎えていた。

 荒木の気迫に導かれるように、古賀や石川真佑らアタッカー陣も奮闘。日本は14-12でマッチポイントを迎えた。あと1点という場面。セッターの籾井あきは連続して石川にトスを上げた。しかし、石川が決めきれず、デュースに持ち込まれた。その勢いで韓国が14-16と逆転。日本は3連敗となり、いよいよ崖っぷちに追い込まれた。

自国開催での予選ラウンド敗退に

 予選ラウンド最終戦の相手はドミニカ共和国。お互いに決勝トーナメント進出をかけた一戦となった。勝てない相手ではない。しかし、プレッシャーで硬くなっているのか、この試合も日本はミスを連発。第1セットは10-25で落とした。ドミニカ共和国は勢いに乗って2セットを連取。あとがなくなった第3セットは日本が取り返したが、結局1-3で敗戦。日本は1勝4敗のプールA5位。全体の10位で自国開催のオリンピックを終えた。

 57年前、前回の東京オリンピックでは東洋の魔女が金メダルに輝いた。栄光の歴史があるだけに、日本の女子バレーにはいつも大きな期待と同時に、厳しい目が注がれる。これまで4大会連続で決勝トーナメントに進んできたこともあり、自国開催での予選ラウンド敗退は、関係者にとっても、ファンにとってもまさかの結果だった。

 無観客の静かなアリーナで、ドミニカ共和国の選手たちは喜びを爆発させ、日本の選手たちはうなだれている。オリンピックの試合とは思えない、奇妙な光景だった。

 解説で何を話したのかは覚えていない。ただ。「女子バレー、これから大変だなあ……」と思ったのはよく覚えている。開催が延期されたことで、次のパリまでは3年しかない。「これで次のオリンピックに出られるんだろうか……」と考えながら、ひとまずホテルに戻ることにした。

「おまえがもう一回監督をやるべきだ」

 もう深夜になっていたが、立て続けに電話がかかってきた。バレーボール関係者やマスコミの方々だった。みなさん試合を見て、私と同じ感想を持ったのだろう。切迫した声で「パリまで3年しかない」「眞鍋、おまえがもう一回監督をやるべきだ」と言うのだ。もちろん危機感はわかる。でも、私はもう監督を辞めた人間だ。現場に戻ることはまったく考えていなかった。

「とんでもない。ぼくには無理ですよ」と話したが、その翌日も、また次の日も、いろんな方から電話がかかってきた。みなさん一様に、「もう一度監督をやれ」と言う。それでもひたすら固辞し続けた。ところが最後、ある方からこう言われたのだ。「眞鍋、もし次のオリンピックに出場できなかったら、日本の女子バレーはマイナースポーツになってしまうよ」

 その一言は私の胸に突き刺さった。ロンドンでメダルを獲ってからすでに9年、その間、私の監督時代も含めて、日本女子はこれといった結果を出せていない。その危機感があればこそ、私はプロチームを立ち上げ、日本バレーの底上げのために尽力してきた。

 ただ、トップチームが弱ければ、世間の注目度は下がっていく。東京オリンピックで観客のいないアリーナを見たときの寒々しさを思い出した。母国開催で決勝トーナメントに進めず、次はオリンピックに出ることすらできない。万が一そんな事態になれば、ファンからも見限られてしまうかもしれない。バレーを心から愛し、バレーに育ててもらった人間として、バレーボールがマイナースポーツになる姿は見たくない。

 ヴィクトリーナ姫路で取り組んできたことも、女子バレー自体の人気がなくなったら、水泡に帰してしまう。

火中の栗を拾う覚悟

 とはいえ、東京オリンピックの最中、解説者として冷静にいまの代表を見て、「次の監督は苦労するだろうな」と思っていたのも事実だ。世界の選手が大型化する中、日本代表の平均身長はロンドン、リオのときよりむしろ低くなっている。そのハンデを克服するのは並大抵のことではない。荒木が引退することで、ロンドンで銅メダルを経験した選手もいなくなる。私が監督になったとして、どれだけのことができるだろうか?

 私は普段からポジティブシンキングで、あまり悩まないほうだ。でも、東京オリンピック後の1~2ヶ月は本当に悩んだ。

 東京オリンピックの惨敗を見れば、他の監督候補たちは二の足を踏むだろう。一方の私はロンドンでメダルを獲らせてもらい、みなさんから賞賛され、バレーボールというスポーツからたくさんのものを受け取ってきた。自分の実績を上げることにはもう興味はない。代表が危機に瀕しているなら、火中の栗を拾う覚悟で立ち上がらなければならない。

 当時、私はすでに58歳。パリオリンピック予選のときには還暦を迎える。おそらくこれが最後の挑戦になるだろう。バレーボールへの思い、日の丸への思いを胸に、私は代表監督の選考に再び名乗りをあげることにした。

〈 「女子バレーには女性マネが絶対必要」パリでのメダル獲得に期待が高まる…日本代表チームのために揃えた“こだわりのスタッフ体制” 〉へ続く

(眞鍋 政義/ノンフィクション出版)

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