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「古賀はショックを受けた様子だった」コンビネーションがうまくいかない…女子バレー古賀紗理那選手(28)に監督が突き付けた“意外な言葉”とは

文春オンライン / 2024年7月28日 11時0分

「古賀はショックを受けた様子だった」コンビネーションがうまくいかない…女子バレー古賀紗理那選手(28)に監督が突き付けた“意外な言葉”とは

眞鍋政義監督 ©文藝春秋

〈 「女子バレーには女性マネが絶対必要」パリでのメダル獲得に期待が高まる…日本代表チームのために揃えた“こだわりのスタッフ体制” 〉から続く

 女子バレー日本代表チームは、6月14日に国際大会「ネーションズリーグ」でパリ五輪出場を決め、強豪国に打ち勝って準優勝にまで上り詰めた。躍進するその姿に、パリでのメダル獲得への期待も高まっている。

 ここでは、そんな日本代表チームを引っ張る眞鍋政義監督の 『眞鍋の兵法 日本女子バレーは復活する』 (文藝春秋)より一部を抜粋して、強さの理由を探る。

 パリを最後に引退することを発表した古賀紗理那選手。ずば抜けた力を持つスパイカーである彼女が、2023年のネーションズリーグでコンビを組むセッターとうまく噛み合わないという問題が勃発した。その時、眞鍋監督が古賀選手に伝えた意外な言葉とは……。(全4回の4回目/ 最初から読む )

◆◆◆

トスとスパイクの微妙なズレ

 チーム内では、セッターとアタッカーのコンビネーションが合わないという問題が起きていた。高速コンビバレーは日本の生命線。これまで私は攻撃のテンポアップをひたすら追求してきた。選手たちもそれに応えようとがんばってくれた。

 1年目は大きな問題はなかったのだが、2年目に入ってトスとスパイクのタイミングに微妙なズレが生じてきた。そこに疲労やコミュニケーションの齟齬が重なり、チームの状態が悪化していた。それが表面化したのがドイツ戦である。

 ネーションズリーグの序盤、世界のトップは全力を出さない。しかし、その次のグループは違う。とくに今年はオリンピック予選が控えている。各国とも主力を揃え、全力で戦っている。今回の対戦相手で言うと、ドミニカ共和国、ドイツ、オランダといった国がそうだ。ベストメンバーが揃ったときの彼女たちは手強い。去年のネーションズリーグとは比べ物にならない。

 日本はここまで4勝2敗。予選ラウンド突破を考えると、ドイツには勝ちたい。しかし、チーム状態は明らかに向こうが上だった。

 ドイツの監督はフィタル・ヘイネン。2018年、男子のポーランドを世界選手権優勝に導いた名将だ。男子バレー仕込みのブロックに圧倒され、サーブで崩され、おまけにこちらはコンビが合わない。場合によっては0-3で負けてもおかしくない試合だった。それをやっとのことでフルセットに持ち込んだが、最後は力負けした。

 ドイツに負けて4勝3敗。しかも次はアメリカ戦。予選突破に黄色信号が灯り、チームの雰囲気も暗い。

 ここで私は“カンフル剤”を打つことにした。

 それまでは選手が自分たちで問題を解決できるかどうか見守っていた。監督がすべてを指示していると、選手は成長できない。口を出したくなるのをじっと堪え、選手の自発的な行動を促す。それも指導者の務めだ。ただ、選手たちだけでは解決できないときには、ショック療法を施すことも必要だ。

 私は試合後、古賀を呼び、ふたりで話をした。

「どうや? なにが問題だと思う?」と訊くと、古賀は「関のトスがタイミングよく出てこないから、合わないんです」と言う。「ああ、そうかあ」と、彼女の話にしばらく耳を傾けた。古賀は日本の中ではずば抜けた力を持つ選手だ。バレーに対してきわめてストイックで、人一倍努力をする。そのぶん、周囲の選手に求めるレベルも高い。彼女の存在がチームを引き上げている一方、若い選手が緊張する原因にもなっている。

スパイカーとセッターの「負のスパイラル」

 合宿中、竹下佳江を交えて関、松井、柴田らセッター陣と話してみたところ、「レフト(古賀)にトスを上げるのが怖い」と感じていることが分かった。セッターも人間。機械のように正確にトスを上げ続けることはできない。精神的にストレスがかかれば、なおさらトスがぶれたり、テンポがまちまちになる。

 他のチームなら、背の高いスパイカーに向かって、ポーンとハイボールを上げればすむ場面で、日本のセッターは速いトスをピンポイントで送らなければならない。練習ではできても、試合になると「合わなかったらどうしよう」という不安が頭をよぎり、わずかにテンポが遅くなる。

 そうすると、練習通りのタイミングで跳んでいるスパイカーにとっては「打ちたい場所にボールが来ない」ということになる。それが繰り返されると、スパイカーは「本当にトスが来るのかな?」と疑念を抱きはじめ、助走の勢いがなくなり、跳ぶタイミングがずれ、思い切ってアタックに入れなくなる。

 そこでスパイカーはセッターに、「一定のトスを上げてほしい」と要求する。言われたセッターは「スパイカーに合わせなければ」と思うあまり、緊張してますますトスがずれる。完全に負のスパイラルである。

 しかも、セッターがレフトに気を遣うあまり、今度はライトのトスに神経が回らなくなる。今大会、林がいまひとつ調子に乗れていないのは、それも理由のひとつだ。

 コンビを合わせるには、技術だけでなく、コミュニケーションや信頼感が欠かせない。要するに人間関係の問題なので、私が古賀とセッターを呼んで話し合いの場を設けても、おそらく解決しない。かえって話がこじれる可能性すらある。

 コミュニケーションは、誰に、いつ、どう話すかが重要。私が「ここだ」と思ったのが、ドイツに負けたあとだった。

スパイカー側の「打ってあげる」という意識

 ひとしきり古賀の考えを聞いたあと、私はセッター陣の気持ちを伝えた。

「でもな、紗理那、おまえセッターの気持ちが分かってないよ。みんなおまえにすごく気を遣ってるんや。だから、他のところに神経が回らない。それでますますコンビがうまくいかないんやないか? それについてはどう思う?」

 古賀は「えっ……まったく気づいてなかったです」と言葉に詰まっていた。

「おまえは日本のエースでキャプテンやろう。セッターを育てるのも、おまえの役目じゃないのか? 自分が『打ってあげる』という気持ちになってみたらどうや。いまのようにセッターが気を遣ってる状態じゃ、チームは勝てっこないよ」

 古賀はショックを受けた様子だった。

 タイミングよく、スパイカーが打ちやすいボールを上げるのがセッターの仕事だ。スパイカーのほうから「もっとこういうトスを上げてほしい」と要求することも大事。私も監督として、セッターには「もっと速く!」と要求し続けてきた。しかし、最後はスパイカー側に「打ってあげる」という意識も必要。そうしなければ信頼関係は成り立たない。

「紗理那、最後はおまえ次第だと思うよ」と言うと、彼女は「分かりました」と言って部屋に戻っていった。

 古賀だけでなく、もうひとりのエース、井上とセッターのコンビもあまりしっくりいっていない。だが、その時点ではまだ井上とは話さなかった。というのも、和田が活躍し、石川も復調してきたからだ。そうなると、井上の出番は減ることになる。彼女も状況を感じとり、自分なりにいろいろ考えるはずだ。そこでしばらく待ってみることにした。

 代表チームは強い個性を持った選手の集まりだ。人間関係がぎくしゃくし、進むべき方向を見失いがちになることもある。そういうときには、こうしてカンフル剤を打つ。逆にモルヒネを打って、痛みを和らげることもある。それによってチームにどんな変化が起きるかを観察し、また次の手を考える。そうやって集団のバランスを取っていくのも監督の役割なのだ。

(眞鍋 政義/ノンフィクション出版)

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