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公園に連れて行っても“無表情で立ちすくむ”だけ…今の子どもたちが「ボール遊び」も「缶蹴り」もできなくなった恐るべき理由

文春オンライン / 2024年7月21日 17時10分

公園に連れて行っても“無表情で立ちすくむ”だけ…今の子どもたちが「ボール遊び」も「缶蹴り」もできなくなった恐るべき理由

なぜ子どもたちボール遊びができなくなったのか? 写真はイメージ ©getty

「そもそも人とどう付き合っていいかわかっていない。だから先生が既存の友達の輪に入れても仲良くできないんだ」(50代・保育園の園長)…令和を生きる子どもたちが「ボール遊び」も「缶蹴り」もできなくなってしまった理由とは? ジャーナリストの石井光太氏の新刊『 ルポ スマホ育児が子どもを壊す 』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

公園で立ちすくむ園児

 東京都の保育園で働く40代の女性の先生の体験談を紹介しよう。

 この先生は、短大を卒業後、4年ほど保育士として働いていたが、結婚を機に専業主婦をしていた。子育てが一段落した頃、元同僚で、今は園長になった先生から園で働かないかと声がかかり、20年ぶりに保育士として復職したのだ。

 その保育園は、駅前の商店街のビルの中にあった。園庭がないため、外遊びをするには「お散歩カート(柵付きの台車)」に子どもたちを乗せ、近所の公園まで連れて行かなければならない。

 そうやって公園に到着し、子どもたちをお散歩カートから降ろした時、先生の目の前には20年前とはまったく違う光景が広がった。子どもたちが無表情で立ちすくみ、動こうとしないのだ。

 保育士になったばかりの時の経験では、先生が遊び場へ連れて行くと、子どもたちは大声を上げて駆けだし、思い思いに好きな遊びをしたものだった。何人かは追いかけっこをし、何人かは砂場でおままごとをし、何人かは虫探しをする。外遊びの時間が過ぎて、先生が「帰りますよ」と声をかけても、みんな聞こえないふりをして遊びつづける。

 しかし、久しぶりに見た子どもたちは違った。何人かがとぼとぼと遊具の方へ向かっただけで、半数以上の子たちは何をしていいかわからないといったようにじっとしているだけなのだ。

 先生は動揺して言った。

「何でも好きなことしていいのよ。ボール持ってきたからこれで遊ぶ?」

 子どもたちは反応を示さない。中には「疲れるから嫌」と言う子もいた。先生が手を取って滑り台へ連れて行っても、彼らは興味なさそうに淡々とこなすだけだった。この日の夕方、保育園のミーティングで、先生は公園での出来事を話した。すると、園長から次のように言われた。

「今の子どもは、あなたが知っている時代の子どもとはまったく違うと考えてください。彼らは外で自由に遊んだ経験がないので、遊び方がわからないのです。大人がルールを教えて、これをこのようにしなさい、と言えばやれるのですが、自分で遊びを考えて、みんなとルールを共有してやるといったことができない。だから、公園に連れて行くだけでは、どうしていいかわからずに戸惑ってしまうのです」

 昔は“遊ぶのは子どもの仕事”と言われていた。子どもは遊び道具がなくても、公園に落ちているビニール袋や、木の枝を見つけて、そこから自分たちで遊びを考え出したものだ。「缶蹴り」などはそうやって生まれた遊びだろう。それが一体どうしたのか。

 先生は戸惑いながら尋ねた。

「公園で私の方からタスケ(三歩ドッジボール)などいくつかの遊びを提案しました。でも、乗ってくる子はどれも2、3人で、みんなで何かをやろうということになりませんでした。あれはなぜなんですか」

 園長は答えた。

「昔はタスケを知らない子でも、知っている子にルールを教わってやっていましたよね。でも、今の子はコミュニケーションを取るのが苦手で、やり方を教えてくれと言ったり、ルールを他の子に説明したりすることができません。だから、先生が個別にやり方を教えた上で先導しなければ、なかなか動こうとしないのです」

 友達の輪を作れない。そう言われ、先生は20年ほどの間に保育の仕方がまったく変わったことを認めざるをえなかった。

遊ぶのが恐ろしい

 今回インタビューをした保育園、幼稚園の先生たちの大半が、「遊び方を知らない子どもが増えた」と口をそろえた。

 本来、遊びの形なんてあってないようなものだろう。全国的に広まっている定番の遊戯はあるにせよ、子どもたちにしてみれば、公園でも道路でも思い思いに好きなことをやって、楽しいと感じれば、それはすべて遊びだ。その点において子どもは遊びのプロなのだ。

 しかし、その遊びができない子が増加しているという。先生方はどういうところからそれを感じているのか。2人のベテラン先生の言葉を紹介しよう。

 まずは、保育園の園長(関東、50代男性)の言葉である。

「人と遊ぶことが苦手な子が増えたね。昔の子には、どんなことでもみんなでやるのが楽しいという共通感覚があった。だから、子どもたちは自然と友達の輪を作り、自分たちで遊び方を決めて、ヘトヘトになるまでやった。けど、今は一人遊びをすることが増えた。友達の輪を作らないで、けん玉や積み木のように単独でできることを黙々とやる。こういう子たちは、人と遊んだ経験が少ないので、周りの子たちと一緒に何かをすることに興味を持てないんだと思う。そもそも人とどう付き合っていいかわかっていない。だから先生が既存の友達の輪に入れても仲良くできないんだ」

 次は、別の園長(関東、40代女性)の言葉だ。

「知らない遊びをするのを怖がる子が多くなりました。家でやったことのある遊びなら普通にする。でも、友達が新しい玩具を持ってきたり、新しい遊びをやろうと持ちかけたりしても、黙ってじっとしている。なんでやらないのかと尋ねると、そういう子は『(遊び方を)知らないから』と答えます。新しいことに興味を持って、やり方を教えてもらおうという意欲がないのです。

 私の推測ですが、そういう子たちは自分で楽しいことを見つけ出して、ドキドキしながらやった経験が乏しいんじゃないでしょうか。新しいものを発見する喜びとか、それをする時のワクワク感を知っている子は、どんどん新しいことをやろうとしますが、その経験がない子は見向きもしないのです」

 他にも大勢の先生方が、遊ぶことに消極的な子が増えていると指摘していた。遊びに対する考え方や価値観が変化しつつあるのかもしれない。

〈 こどもの日なのに「こいのぼり禁止のマンション」も出現…子どもたちから自由な遊び場を奪う《大人ファースト社会》の弊害 〉へ続く

(石井 光太/Webオリジナル(外部転載))

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