「女性として傷つく部分があったら…」奈緒が映画「先生の白い嘘」で誰よりも早く“謝罪”した背景〈多くの性的シーンが〉
文春オンライン / 2024年7月21日 11時0分
![「女性として傷つく部分があったら…」奈緒が映画「先生の白い嘘」で誰よりも早く“謝罪”した背景〈多くの性的シーンが〉](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72138_0-small.jpg)
奈緒(事務所HPより)
「製作陣としては予期せぬ“炎上”でした。このことがどこまで影響したのか、初週・2週目と国内の興行ランキングでトップ10に入らなかった。今後の映画界にとって、大きな課題として残りました」(映画会社関係者)
7月5日に公開された映画「先生の白い嘘」。
原作は「月刊モーニング・ツー」に連載された鳥飼茜氏の同名漫画で、主演に奈緒、そして風間俊介や三吉彩花、猪狩蒼弥(HiHi Jets)といった人気俳優たちをキャスティングした注目の作品だった。
「間に人を入れたくなかった」
ところが公開前日にウェブメディア「ENCOUNT」で、本作の監督・三木康一郎氏のインタビューが公開され、SNSを中心に監督の発言が瞬く間に拡散され問題視されたのだ。
〈奈緒さん側からは『インティマシー・コーディネーター(性描写などの身体的な接触シーンで演者の心をケアするスタッフ)を入れて欲しい』と言われました。すごく考えた末に、入れない方法論を考えました。間に人を入れたくなかったんです。ただ、理解しあってやりたかったので、奈緒さんには、女性として傷つく部分があったら、すぐに言って欲しいとお願いしましたし、描写にも細かく提案させてもらいました。性描写をえぐいものにしたくなかったし、もう少し深い部分が大事だと思っていました〉(2024年7月4日「ENCOUNT」)
「本人がインティマシー・コーディネーターを希望したのに、起用しなかったという事実。そしてそのことに問題があると思わず、インタビューで答えてしまった三木監督と作品への批判が巻き起こりました。いまの時代、炎上したのは当然だと思います。取材・執筆担当者はベテランで、元々スポーツ紙の映画担当記者でした」(前出・映画会社関係者)
「歪んだ人間関係」と「性犯罪」、そして「男女の性」
インティマシー・コーディネーター(IC)は、ヌードや性描写などがある場合に俳優と制作サイドの意思疎通をはかり、現場の安全を守ることを目的とした存在だ。ICがいることで、俳優が現場の空気に流されずに希望する条件を言いやすくなったり、逆に監督側のリクエストを丁寧に伝えることに一役買ったり、安心して性的なシーンの撮影を進めるために必要とされている。
アメリカに本部を置く団体が養成プログラムを修了した人に資格を認定しているが、日本国内で活動している有資格者は、まだ片手にも満たないという。
そして、この作品についても少し説明が必要だろう。
奈緒が演じる主人公の高校教師は、三吉彩花演じる親友の交際相手(風間俊介)からレイプを受ける。それが性的な初体験でもあった主人公は、傷つきながらも、被害を訴えることも断ち切ることもできず、何年にもわたって関係を続けている。男からの脅しがあり、親友への裏切り行為でもあり、主人公が望んだ関係性でないことは明らかだ。
そして心療内科に通いつつ高校での勤務を続けるが、ひとりの男子生徒(猪狩蒼弥)の存在が、あるきっかけから主人公の中で大きくなっていく……という「歪んだ人間関係」と「性犯罪」、そして「男女の性」について描かれた作品だ。
性加害を含めた、多くの性的なシーンが
性加害を含めた、多くの性的なシーンがあるために、映画倫理機構(映倫)の審査によって「R15+」(15歳未満は鑑賞制限)の区分を受けている。
公開初日、映画のウェブサイトには製作委員会名義で、ある文章が掲載された。
奈緒が誰よりも先に謝罪
「ICを入れない」選択に至った経緯や現場での判断についての説明が綴られ、〈様々なご意見、ご批判をいただいたことを受け、これまでの私共の認識が誤っていた事を、ここにご報告申し上げると共に、製作陣一同、配慮が十分ではなかった事に対し、深く反省をいたしております。本作を楽しみにお待ち頂いているお客様、原作の鳥飼茜先生、出演者・スタッフの皆様に不快な思いをさせてしまったことを、心よりお詫び申し上げます〉という謝罪で締めくくられている。
「公開初日の舞台挨拶ではまずプロデューサーが登壇し、ウェブサイトと同様の説明と謝罪を行いました。続いて監督をはじめ主要キャストたちが並びましたが、日頃の邦画の舞台挨拶とはまったく違う雰囲気でした。三木監督の謝罪に続いて、奈緒が気丈に、『私は大丈夫です。それだけはお伝えしようと思っていました』と話していました。
風間俊介は、『この映画を観に行こうかと迷っている方もいらっしゃると思う。そしてそれは今じゃないかもしれないと思っている方がいらっしゃるとしたら、その言葉に従っていただきたいと個人的には思っております』という異例の挨拶をしました」(芸能デスク)
そしてこの舞台挨拶で明らかになったのが、奈緒から原作者への直接の謝罪だった。前日の“炎上”にいてもたってもいられなくなった奈緒は、個人的に連絡をとり面会。製作陣の誰よりも先に謝罪をしたのだという。
「取材していたマスコミは一様にびっくりしていました。映画・芸能の世界で、主演俳優が騒動について一番に謝罪をするなんて、滅多にないことです。でも、実は奈緒さんというのはそういう人。真面目で思慮深く、行動力もある。共演者もスタッフも、彼女の悪口を言う人には会ったことがない」(同前)
福岡出身の奈緒。赤ん坊の頃に父を亡くし母子家庭で育った。早く働きたいと高校生のときにスカウトされたプロダクションに所属して芸能活動を始めたが、芽が出るまで時間のかかった苦労人でもある。
奈緒は「ひとことで言えば『真っ当な人』」
「ひとことで言えば『真っ当な人』です。役者には、どこか変わっているところをウリにしている人が多いのに、彼女は会えば時節の話題から入り、笑顔を絶やさず、ドラマのロケ先で野菜の値段を見て『ここのお店安い、絶対買って帰ろう!』って嬉しそうに言う。そして何より、演技はピカイチです。今回のこの映画だって、これほど難しい役をこなせるのは彼女しかいなかったでしょう」(TV局プロデューサー)
発端となった「ENCOUNT」のインタビューにおいても、三木監督は〈10年くらい前に脚本を書き始めた頃、10人くらいに主演をお願いしましたが、ことごとく断られました〉と話しているように、今回のキャスティングは受ける側にも覚悟が必要だったはずだ。
アイドルのファンたちが観にくることを想定していたなら…
一方で、ICを希望したのは奈緒だけだったのかという問題も残る。この映画が主に撮影されたのは、2022年の春だという。この年の「ユーキャン新語・流行語大賞」には、「インティマシー・コーディネーター」がノミネートされている。
「性暴力を受ける側の役の奈緒がICの起用を要望したのは当然のことですが、相手役の風間俊介が演じたのは、女性の尊厳を無視してレイプを続けるという非常に難しい役どころで、男性サイドからも要望があってもよかったのではないか。
当時は風間もジャニーズ事務所で、もうひとりの重要な役どころである猪狩もジュニアのグループ『HiHi Jets』の一員。アイドルのファンたちが観にくることを想定していたなら、より細やかな配慮が必要だったのではという声もある」(前出・芸能デスク)
撮影の翌年、旧ジャニーズ事務所が故ジャニー喜多川氏の性加害問題の再燃により“消滅”し、その結果昨年いっぱいで風間は独立。今回の件は、芸能界の“過渡期”に起きていたともいえる。
「今年の春、新潮社の『波』に連載を持つ俳優・高嶋政伸さんのコラムが注目されました。昨年撮影されたNHKドラマ『大奥』で自らの娘に幼い頃から性的暴行を繰り返す徳川家慶役を受けるにあたって、『必ず「インティマシーコーディネーター」さんを付けてください』とお願いした、というものです。
〈制作サイドも最初からそのつもりでいらしたというので、それならばと、この難しい役に臨むことにしたのです〉
そう書かれた文章からは、人柄と、俳優としての度量が伝わってきました」(同前)
ドラマや映画をつくる際の予算の問題、ICの人手不足の問題もあるのはもちろんなのだが、加害役の男性側からの要望があれば、現場はもっとスムーズになるだろう。
思わぬ「評価」から始まってしまった本作の公開。俳優たちの演技の評価が後回しになってしまったのは残念だが、今後の映画業界への指針にもなるはずだ。
(山本 雲丹)
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