「オリンピック期間? もちろんバカンスだよ!」半数以上は“無関心”…日本とこんなに違う、パリ市民の五輪に対する意外な温度感
文春オンライン / 2024年7月25日 11時0分
![「オリンピック期間? もちろんバカンスだよ!」半数以上は“無関心”…日本とこんなに違う、パリ市民の五輪に対する意外な温度感](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72146_0-small.jpg)
©Paylessimagesイメージマート
4年に一度のスポーツの祭典、オリンピック・パラリンピック。2021年の東京に続きホストとなったフランスの首都パリでは、開催に向けた準備のラストスパート真っ只中だ。「環境に優しい五輪」をモットーに、エッフェル塔やグラン・パレなど世界に誇る文化遺産を会場として活用、その舞台設定の美しさからも注目を集めている。
しかし現地の感覚は、「歓迎ムード一色」とは言い難い。エマニュエル・マクロン大統領やパリのアンヌ・イダルゴ市長のPR行動には盛大な反発が起こり、 今年5月にフランス全土の1000人を対象にしたアンケートでは、回答者の半数近くが開催に「無関心」と答えている。 その背景は、コロナ禍で賛否両論が巻き起こった東京オリンピックとはまた違ったものだ。
五輪を控えた花の都パリの温度感を、現地在住ライターが綴る。
譲れない“バカンス”と重なった開催
パリオリンピックが開催される7月下旬から8月中旬は、フランスでは「夏のバカンス」のシーズンだ。国中が夏休みモードでペースを落とし、ビジネスや行政も例外なく停滞する。「これを楽しみに1年間働く」「無かったら間違いなく病気になる」と言われるくらい、この国の人々にとって重要なひとときである。
多くの人は数ヶ月分の貯金をはたき、海や山などの自然の中に数週間旅立って、自由な余暇の時間を楽しむ。冠婚葬祭ですら、この時期を外して計画されるのが通例だ。
特に首都パリの住人にとっては、狭く慌ただしく混み合った街での日常を離れてリフレッシュする貴重な機会。その最盛期に地元で五輪が開催されても、自分のバカンスの方を大切に考えるのは、一般的な感覚と言える。むしろその期間に自宅を民泊アプリで貸し出して、今年のバカンス予算の足しにしよう! と目論む人も多く、頻繁にニュースになっている。
もちろん飲食業などでは、1000万人以上の来場者が見込まれるイベントを“絶好の稼ぎ時”と奮って営業する店が多い。しかしそれも全員ではない。
「オリンピック期間? もちろんバカンスだよ! そんな大変な時に仕事するわけないでしょう」
今年利用したタクシーやハイヤーの運転手たちは、ニヤリと笑ってそう言う人々ばかりだった。
主催者側もその国民性を熟知しており、この夏に五輪以外の用事でパリにいるのは控えてね、と言わんばかりの対策が散見される。たとえば開会式直前の7月18日から26日までは、 中心地のセーヌ 河岸周辺で歩行者向けにも交通規制が課され、地域住人や通勤者にも通行許可証が求められる。コロナ禍のロックダウンを思わせる厳しさには、地元民もやれやれと肩をすくめている。
パリ市内や近接する地にオフィスを構える企業は、開催期間中にリモートワークを推奨。 フランス交通省の特設ページでは、雇用主・従業員側に向けた「リモートワーク成功のコツ」「リモートワークが生産性に与える好影響」などの情報が並ぶ。
大企業の中には、期間中にオフィスを閉鎖し、有給休暇の消化を半強制するところも。しかしこの時期は例年バカンスで、もともと社会活動が停滞するので、この点でのオリパラの影響はあまり出ないだろうとの見込みだ。 中心地ではむしろ地元パリジャンの「一時退出」が過ぎ、従来型の観光客が制限の多い五輪期間を避ける現象も重なって、閑古鳥状態を嘆く飲食店の声も聞かれている。
「パリはフランスではない」、地方の平熱な視線
オリンピックへの関心の低さは、フランスという国の中でのパリの地位にも関係している。首都パリは五輪がなくとも世界有数の観光都市で、 夏季だけで740万人の外国人が訪れるが 、フランス国内の他の地域からは向けられるのは、必ずしも好意だけではない。
フランスの人々は郷土色の強い地元への愛着が強く、多民族・多文化が魅力の一つである首都に対して「パリはフランスではない Paris n'est pas la France.」という表現を使ったりもする。
前述のバカンスで、フランスの北部からリゾート地に南下する途上にパリがあっても、「せっかくだから寄って行こう」とはならず、むしろ避けて通られる。人の多さや環境汚染、治安問題が引き合いに出され、「パリには行きたくない」「なぜパリに住んでいるの?」と言われることは、外国人の筆者でも多々あるのだ。そこでパリを好んで住む理由を伝えても「あなたが良ければいいんじゃない」と流され、次いで「ウチの地元の方がこんなにいい」とお国自慢を繰り出される。
その国民性を前提に地方の関心を喚起するためか、今回のオリンピック・パラリンピックは、パリ以外の都市でも競技が組まれている。地中海岸のフランス第二の都市マルセイユではセイリング他いくつかの競技会場を設け、サッカーはボルドーやリヨンなど、人気のサッカークラブを持つ6都市でも試合がある。開催中はフランス全土62県・180ヶ所で、飲食スポットやライブストリーミングを提供する特設スペース「クラブ2024」が展開される。
地方とパリの関係を示すのに面白い例は、大手スーパーマーケットチェーン「カルフール」による五輪関連グッズの宣伝だ。「今回ばかりは全フランスでパリを応援!」と、パリの存在感を絶妙に表すキャッチコピーを用い、パリ圏以外の各地方を舞台にポスターを作成。それをパリのメトロに掲載し、乗客にシニカルな笑いを呼んだ。
誰もが認める巨大スポーツイベントの「政治性」
パリオリンピック・パラリンピックに対する独特の温度感の背景には、フランスの人々の政治意識の高さもあるように筆者は思う。世界最大のスポーツの祭典を誰がどのように行うのか、それが自分たちの生活にどんな影響を及ぼすか。スポーツを好まない人も、フランスではそこに関心を寄せる。そしてこのビッグイベントに潜む政治性にも、しかと目を光らせている。
今回の五輪は「環境への配慮」が前面に出され、既存のモニュメントや公園、競技場を活用した会場がポイントになっている。その一つであるセーヌ川では、水質の良さを示すため、パリのイダルゴ市長とマクロン大統領が実際に泳いでみせるPR作戦が計画された。
オリパラを政治利用するならばこちらもと、 イダルゴ市政・マクロン国政に不満を持つ人々は、水泳が予定された6月23日に向けてセーヌ川上流で排泄し一時的な水質汚染を狙う「オペレーション・カッカ(うんち)」を計画。 そのイベント自体が6月の電撃下院解散・総選挙騒ぎでうやむやになったのも、この件の政治性を表している。イダルゴ市長は五輪開幕9日前の7月17日にセーヌ遊泳の約束を果たしたが、マクロン大統領は開催が前日に迫った今もまだ「様子見」だ。
報道では、社会的に立場の弱い人々が五輪のための政治判断で不便を被る事案が取り沙汰された。たとえば昨年末に新聞を賑わせたのは、大学の学生寮の徴用について。 開催中に会場保安スタッフの宿泊施設として活用するため、パリ圏の学生寮の3000室をスポーツ省が徴収、通常8月31日まで許可されている学生の滞在を6月30日に短縮すると決定したのだ。
退去する学生には100ユーロと五輪チケット2枚の給付が交換条件とされたが、学生組合は反発して提訴。パリ行政裁判所は一旦徴用の差し止め判決を下したものの、事案は憲法院の預かりとなり、学生の転居支援をより強化する形で結局、徴用が決まっている。
五輪開催のための政治判断は路上生活者にも及び、パリから地方の支援施設に半強制的に送る対策は「社会的清掃」だとして、支援団体を中心に批判の声が上がった。
このような出来事が報道される中、フランスではコメンテーターの意見でも巷の反応でも、「スポーツに政治を持ち込むな」という声は上がらない(主催者側は言うこともある)。
政治が生活に直結し、その意思決定が何をどう変えるかを日々意識している市民たちは、世界規模のビッグイベントには政治がつきものであることもよく知っている。そこで市民生活に悪影響が出るなら、批判されるべきは時の政治権力と分かっているからだ。
平和的なスポーツの祭典でも、そのタフな政治意識は曇らない。五輪開催が近づいてもイマイチ上がりきらないこの街の温度感には、住人たちの政治に対する冷徹な眼差しも影響しているのだろう。
まとめ
パリ五輪をめぐる独特の温度感を書き連ねてきたが、そうは言っても結局、フランスの人々はお祭り好きだ。自国の政治を誰よりも厳しくあげつらう皮肉屋の反面、国別対抗戦の勝利では老いも若きも国歌ラ・マルセイエーズを誇らしげに歌って目を潤ませる愛国心を併せ持つ。
回答者の46%が「関心がない」と答えた前述のアンケートの別項目では、52%の人が「五輪はテレビか会場で必ず観る」とも答えた。そんな愛すべきへそ曲りたちがスポーツの祭典をどう盛り上げ、楽しむのか。テレビ中継ではその様子を是非、競技とともにチェックしてほしい。
(高崎 順子)
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