眞鍋監督が「ヤバいぞ、今の選手は本当にヤバいぞ」と…女子バレー“異例”の「リベロ2人出場」に至った理由とは〈竹下佳江が解説〉
文春オンライン / 2024年8月1日 11時0分
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五輪予選でブルガリアに勝利し喜ぶ女子バレー日本代表 ©時事通信社
主将の古賀紗理那が「目標は絶対メダル」と意気込む女子バレーボール。1次リーグ初戦は世界ランク4位のポーランドに1-3で逆転負けを許したが、1日はブラジル戦、3日はケニア戦に臨み、決勝トーナメント進出を狙う。
眞鍋政義監督が指揮する日本チームの“戦略”、さらに、注目すべき選手とは? 現役時代はセッターとしてチームの司令塔を務め、現在は日本代表の監督付戦略アドバイザーを務める竹下佳江さんに、話を聞いた。(全3回の1回目/ つづきを読む )
◆ ◆ ◆
女子バレーが2年間でここまで強くなった理由
――女子バレーが強い。今年5~6月に行われた国際大会・ネーションズリーグで銀メダルを獲得しました。眞鍋政義監督が率いる日本代表が実質的に発足したのが2022年5月。東京五輪では1次リーグ敗退だっただけに、ほんの2年間でこれだけ成長したことにびっくりです。強くなった理由は何ですか。
竹下佳江さん(以下、竹下) 一言では言い切れないほどたくさんあります。選手個々の意識の高さ、妥協のない技術の追求、戦略に裏打ちされた無駄のない練習、そしてやっぱり眞鍋さんの監督としての力量ですよね。
眞鍋さんは自分の足りない部分や苦手な部分を知っていて、そこにその道のプロとも言うべき適任者を、スタッフとしてどんどん採用しました。
眞鍋監督は「褒めたり、時にはディスったり」
――確かにスタッフには、バレー技術関連のコーチだけじゃなく、情報戦略兼ハイパフォーマンスアナリストや情報戦略兼アナリスト、戦略コーディネーター、あるいは情報戦略アドバイザーなど「どこのコンサルタント会社?」と錯覚するような人材が揃っています。
竹下 とにかく最先端の情報をいち早く取り入れようとしますね。時代は刻一刻と進むので、戦術や戦略、あるいは分析・解析に関するIT技術は取りこぼさないようにしていると思います。あの年齢(60歳)になっても、学び続ける姿勢には頭が下がりますね。
また、眞鍋さんは選手たちだけでなく、スタッフが自由に自分の能力を発揮できるような環境を作るのが上手い。まあ、コミュニケーションモンスターというか、選手やスタッフの状況を勘案しながら褒めたり、時にはディスったり……。ホント、人の使い方が上手いなというか、いわゆるモチベーターですよね。
「ヤバいぞ、今の選手は本当にヤバいぞ」
――えっ、眞鍋さんがディスったりするんですか。
竹下 笑いを取ったり、場を和ませる時にやりますね。例えば、眞鍋ジャパンがスタートしたばかりの頃、ロンドン五輪で銅メダルを獲った私たちが「アントラージュ」として招集されたんです。アントラージュとは「取り巻き」を意味するフランス語ですが、私たちに現代表をサポートするようにと。
全員が集合した場で、眞鍋さんは私たちに向かってこう言ったんです。「今の選手は、お前たちよりみんなポテンシャルが高いわ。ヤバいぞ、今の選手は本当にヤバいぞ」って。
別に私たちと比較しなくたってと思ったけど、今の選手たちはその言葉でロンドンメンバーに対する緊張が解けたと思うし、私たちも、今の代表選手はそんなに凄いんだ、という期待感で否が応でもサポートしたくなりますよね。
確かにその時、選手個々のプレーを見て、今はチームになっていないけど、これが戦う組織としてがっちり固まったら、凄い絵になるだろうな、という予感はありました。
古賀に次ぐエースに成長した石川、井上
――竹下さんはアントラージュとしてだけでなく、監督付戦略アドバイザーとして代表チームに関わってきました。一番成長した選手は誰ですか。
竹下 私は小学生2人の息子たちの子育てがあるので常勤ではなく、時間があるときに合宿に参加する形ですが、ただ情報の共有化はしっかり取らせてもらっています。
そんな中、一番伸びた選手を上げるなら、古賀(紗理那)選手は別格として、石川(真佑)選手ですかね。以前は、同じポジションに井上(愛里沙)選手がいるので、どっちがスタメンかなという時期もあったのですが、今や古賀選手に次いで石川選手、井上選手もエースに成長しましたよね。
以前は、サイドとしては174cmと身長がそれほど高くなかったから、相手の高いブロックを嫌がっている様子がありましたけど、昨シーズン、イタリア・セリアAで闘ってきたせいか、高いブロックにも迷いがなく打ち切れるようになりましたね。ブロックアウトやコース打ちの技術もさらに磨きがかかったし、古賀選手とともに石川選手、井上選手と3枚いることは、日本としても心強いと思います。
初めてリベロ2人が選ばれた
――パリ五輪には小島満菜美選手、福留慧美選手のリベロが2人出場します。リベロ制が導入された1998年の国際ルール以来、五輪でリベロ2人が選ばれたのは初めて。これも眞鍋マジックでしょうか。
竹下 眞鍋さんは時々、突拍子もないことをやりますが、ただそれは勘ではなく、ロジカルな思考で考え抜いた戦略なんですよ。パリ五輪でメダルを獲るための究極の選択だったんだと思います。
今の日本はディフェンスが生命線と言ってもいい。だから、攻撃枚数を減らしてでも、ディフェンスを固めようと考えたんでしょうね。サーブレシーブのスペシャリストの小島選手、ディグ(アタックレシーブ)が得意の福留選手。どちらも外せない。というのも、バレーは空中ゲーム。床にボールを落としたら負けなので、どんな状況でも拾い切る2人がいると負けないし、チームにも安定が生まれるんですよ。
ただ、こういう変則的な布陣を可能にしたのは、宮部藍梨選手の存在が大きい。宮部選手はもともとサイドアタッカーだったけど、米国の大学留学中に高いブロック技術も身に付けた。代表ではブロック登録ですが、サイドアタッカーもこなせるので、その分、攻撃枚数を減らして、ディフェンスを固めるという戦略が可能になったんです。
加えて、古賀選手が絶対的に安定していることはやっぱりチームの大きなアドバンテージです。石川選手、井上選手、東京五輪でも活躍した林(琴奈)選手らサイドアタッカー陣が実力を上乗せしてきたこともあり、リベロを2人にするという決断をしたんだと思います。
〈 「古賀紗理那もあの人には相談を…」女子バレーの「チームの行方さえ左右する」“最強の選手”とは?《竹下佳江が解説》 〉へ続く
(吉井 妙子)
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