「かあちゃん、今は昭和じゃないんだよ」と言われ…レジェンド・竹下佳江が日本女子バレーに感じた“世代間ギャップ”《今夜“負けられない”ブラジル戦へ》
文春オンライン / 2024年8月1日 11時0分
竹下佳江さん ©Atsushi Kondo
〈 「古賀紗理那もあの人には相談を…」女子バレーの「チームの行方さえ左右する」“最強の選手”とは?《竹下佳江が解説》 〉から続く
主将の古賀紗理那が「目標は絶対メダル」と意気込む女子バレーボール。1次リーグ初戦は世界ランク4位のポーランドに1-3で逆転負けを許したが、1日はブラジル戦、3日はケニア戦に臨み、決勝トーナメント進出を狙う。
現役時代はセッターとしてチームの司令塔を務め、2012年のロンドン五輪では銅メダルを獲得した竹下佳江さん。現在は日本代表の監督付戦略アドバイザーでもある竹下さんに、今大会の見どころや指導する中で感じた“日本女子バレーの変化”について聞いた。(全3回の3回目/ はじめから読む )
◆ ◆ ◆
「強豪国にも勝つ可能性はある」パリ五輪の見どころ
――女子バレーのテレビ中継は竹下さんが解説されるんですよね。
竹下佳江さん(以下、竹下) はい。全試合やらせていただきます。やりたかった仕事の一つだったので、お話をいただいたときは嬉しかったですね。
パリ五輪の見どころはたくさんありますが、日本はディフェンスを強化して挑むだけに、ラリーの面白さを堪能していただければ。ラリーを制するって、本当にゲームを制するぐらい価値があるし、チームにも勢いを持たせてくれる。相手をイライラさせておいて、アタック陣が射るようなスパイクを打ち込めば、強豪国にも勝つ可能性はあると思います。
マッチポイントで勝ち切るための練習をしてきた
――ネーションズリーグの時もそうですが、マッチポイントになった時、日本は勝ち切れるようになりましたよね。
竹下 それは、2023年秋に行われたパリ五輪予選兼ワールドカップで屈辱的な経験をしたからです。8チームで争われるプールBの日本は、上位2カ国に入れば五輪の出場権が獲得できた。最終戦までにトルコが1枠を確定させていたので、残る1枚は日本とブラジルの直接対決。フルセットまでもつれこんだけど、日本はギリギリのところで、ブラジルに跳ね返されてしまった。
その反省を踏まえ、代表合宿の時は18対18からスタートする試合形式の練習を懸命にやっていました。マッチポイントになった時に、勝ち切れるかどうかで全然景色が違うので、敢えて譲れない場面からスタートする形式を取り、課題を見つけ是正するという密度の濃い練習を重ねていました。
そういう練習で身に付いた引かない気持ちみたいなものが、みんなに醸成されたんだと思います。ただ五輪では、強豪国の多くが他の国際大会とは違う顔をしてコートに立ちます。それでも競った場面で日本は絶対に怯むことはないと思います。
世界ランク2位のブラジルに勝たなければならない
――パリ五輪でプールBの日本はブラジル、ポーランド、ケニアと同組になりました。上位2チームと、各組3位の成績上位2チームの計8チームが決勝ラウンドに進む方式です。
竹下 ブラジルは世界ランク2位、ポーランドは4位。世界ランク7位の日本は、このどちらかに勝たなければなりません。この試合にフォーカスし、戦略的な練習をしてきたと思います。
ロンドン五輪の時も、眞鍋さんは「準々決勝で中国に当たる」と言い、対中国戦を徹底的に練習しました。まだ、試合も始まらないのに、「なぜ準々決勝で中国?」と不思議だったけど、眞鍋さんの予言が本当になった。当時は難攻不落の中国でしたけど、徹底した対策を取っていたので、私たちは何の不安もなく勝ち切ることができたんです。
ただ私は、決勝戦まで楽しみにしています。
運営側に立ってみてしみじみと分かったこと
――竹下さんは日本代表の監督付戦略アドバイザーだけでなく、クラブチーム「ヴィクトリーナ姫路」のエグゼクティブアドバイザーにも就任しています。どんな仕事ですか。
竹下 いわゆる何でも屋(笑)。2016年に一企業に頼らないクラブチームとしてスタートしたので、全部自分たちでやらなければならない。企画書を携え営業にいったり、既存のスポンサーさんにはお礼の挨拶、またチーム行事に参加したり、イベントを行ったり、そして広報活動とか、とにかく雑務のすべてですね。
――えっ、竹下さんが営業!
竹下 私も大人になりましたよ(笑)。ただ実際、運営側に立ってみて、いかに自分が現役時代に多くの人に支えられプレーできたか、しみじみと分かりました。だから今は、現役の選手たちが思いっきり能力を発揮できるような環境を作ってやりたい。そのためにはいくらでも頭を下げられる。ただチーム発足から3年間は監督をやっていました。
――監督に就任された2016年、選手がいない状態から僅か3年間で、V2からリーグトップのVリーグにチームを昇格させました。早すぎませんか。
竹下 選手たちに助けられました。早くトップリーグに昇格させないと、スポンサーさんたちにも見放されてしまいますからとにかく必死。引退した選手たちにも声をかけて復帰してもらい、何とか戦える人数を揃えた。
復帰した選手たちは、チームの現状を理解してくれ、本当に頑張ってくれましたね。
息子から「かあちゃん、今は昭和じゃないんだよ」と…
――選手たちには厳しかったんですか。
竹下 当初は……。でも今の子たちにはプレッシャーをかけすぎるのも、あまり良くはないんじゃないかってことが分かったんです。だから、気持ちよくプレーしてもらえるような雰囲気作り、言葉がけに方針を変えました。私たちの頃とは時代や育った環境も違うので、彼女たちに適した接し方ってやっぱりあるんですよ。
うちの小学生の長男にも言われますもん、ちょっとでも精神論的なことを言うと「かあちゃん、今は昭和じゃないんだよ」って。
姫路で監督を務めた経験が代表選手の接し方にも活きています。眞鍋さんは「お前たちはよく竹下にそんなに気軽に話しかけられるな。竹下はめっちゃ怖いんだぞ」といじってきますが、選手たちはきょとんとしている。
今の選手は純粋な強い執念でコートに立っている
私たちの頃は、1964年東京五輪金メダルの“東洋の魔女の誇り”とか、女子バレーの伝統を絶やしてはならないという思いで日の丸を背負っていました。でも今の子たちは伝統を感じながらも、ただ純粋に「勝ちたい」「メダルを獲りたい」「最高の自分を表現したい」という強い執念でコートに立っている。
伝統をモチベーションにしようが、メダルをモチベーションにしようが、競技に取り組む意識の高さは同じなので、時代に呼応した方がいいですよね。
彼女たちがパリでどんなプレーを見せてくれるか、ドキドキわくわくしています。
(吉井 妙子)
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