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「結婚した夫婦から生まれる子どもが少数派になっている国も…」日本の少子化を考える、意外なヒントは“婚外子”にあった

文春オンライン / 2024年7月31日 17時0分

「結婚した夫婦から生まれる子どもが少数派になっている国も…」日本の少子化を考える、意外なヒントは“婚外子”にあった

表0-1 結婚・出産をめぐる指標の国際比較

 加速する日本の少子化。このまま続けば、2000年生まれの女性のうち31.6%が生涯子どもを持たないと推計されています(国立社会保障・人口問題研究所調べ)。

 社会学者の阪井裕一郎さんは、日本の少子化について考える際に、欧米の「婚外子の割合」がひとつのヒントになると語ります。ここでは、阪井さんの 『結婚の社会学』 (筑摩書房)から一部を抜粋。婚外子の多い国で起こっていることとは――。(全4回の1回目/ 続きを読む )

◆◆◆

婚姻率が低下しても、出生率が安定している先進国も

 日本で少子化の原因として挙げられるのは、「晩婚化」や「未婚化」です。

 たしかに日本の経年データを見れば、平均初婚年齢が上昇し、晩婚化傾向が見られ、出生率も低下しています。

 結婚しない人が増えたので子どもが減っている――。

 おそらく、このような説明を聞いて疑問を覚える人はほとんどいないでしょう。疑いの余地のない「常識」です。

 しかし「結婚しない人が増えれば子どもが減る」と言い切ることはできません。というのも、先進国のなかには、婚姻率が低下しているにもかかわらず、出生率が人口置換水準(人口が増減しない均衡した状態となる合計特殊出生率のこと)に近い数値まで回復し安定している国が多くあるからです。

 表の0-1を見てください。日本、フランス、イギリス、スウェーデン、ドイツの比較データです。

 これを見ると、まず女性の平均初婚年齢は、日本に限らず。出生率が相対的に高い他の国でも比較的高いことがわかります。第1子出生時の母親の平均年齢をみても、日本と他国にそれほど違いはありません。「晩婚化」や「晩産化」が必ずしも少子化の原因と言えないことがわかります。

 興味深いのは、日本以外の国では、平均初婚年齢よりも第1子出生の平均年齢のほうが低いことです。なぜこのようなことになっているのか。

 婚外子の割合が、ひとつポイントになります。

 このような状況を理解するには、結婚をしないで同居するカップル、すなわち事実婚や同棲の増加に注目する必要があります。

根強い「嫡出規範」

 今から10年以上前になりますが、筆者が友人の結婚式に参加したときの話です。

 新郎新婦はいわゆる「できちゃった婚」でした。新郎の父親がスピーチの際に、「この二人は正しい順番を守らずに結婚に至ってしまったわけですが……」と前置きしたうえで挨拶を述べたことを覚えています。まわりの人は特にだれも気に留めなかったように思いますが、“正しい順番”という言葉が妙に記憶に残りました。

「恋愛→結婚→妊娠→出産」というのが、“正しい順番”である――。おそらく現在でも日本で暮らす多くの人はこのように思っているでしょう。

 もちろん、この“正しい順番”は少なからず揺らいでいます。近年では結婚より妊娠が先となる「妊娠先行型結婚」の割合が増えていて、特に10代から20代前半までの結婚では過半数を占めています。

 とはいっても、このような結婚は今でも否定的に見られがちですし、注目しておかなければならないのは、出産の時点ではほぼすべてのカップルが結婚しているということです。

「子どもは結婚している夫婦から生まれなければならない」(嫡出子でなければならない)という社会規範のことを「嫡出規範」と呼びますが、今なおこの規範が根強く存在しているといえます。

 ちなみに、法律では嫡出子/非嫡出子という区別がありますが、嫡出という言葉には「正統」という含意があるため、現在では嫡出子/非嫡出子ではなく、婚内子/婚外子がよりニュートラルな用語として採用される傾向があります。

婚外子の国際比較

 あらためて0-1の「婚外子の割合」を見てください。これは、全出生数のうち「結婚していない親から生まれる子ども」の占める割合のことです。

 1990年代以降、欧米の多くの国で家族をめぐって生じた大きな変化のひとつが、婚外同棲カップルの増加でした。

 結婚を前提とした同棲だけではなく、結婚の代替としての同棲が一般化しており、欧米諸国では婚姻制度以外の共同生活を保障するさまざまな制度が確立されてきたのです。同時に、出産・子育てが婚姻制度からどんどん分離していきました。

 OECD Family Database によれば、2018年時点の婚外出生割合は、日本が2%程度であるのに対し、EU平均、OECD平均ともに40%を超える数値となっています。1990年代後半から、欧米の多くの国で同棲が「結婚の代替」として受容され、法律婚カップルと同等の生活保障を与えられることになったのです。

 われわれの常識では、子どもは結婚した夫婦から生まれるものです。しかし、国際比較の視点で見てみると、結婚した夫婦から生まれる子どもがむしろ少数派になっている国さえあるのです。

 付け加えていえば、先進国を比較すると、このような国のほうが相対的に出生率が高い傾向もみられます。

 もちろん、「婚外子を増やせば出生率が上がる」などと言っているのではありません。

 私もさまざまな場で婚外子の話をする機会も多いのですが、たびたび「愛人の子どもを増やすのはちょっと……」という否定的な反応が返ってきます。

 現代社会において婚外子を「愛人の子ども」と同一視するというのは海外でも日本でも事実誤認なのですが、それだけ日本にはネガティブなイメージが強いことに驚かされます。

婚外子の増加が意味するもの

 では、諸外国における婚外子の増加が意味するのは何か。

 それは、パートナー関係や出産をめぐる法制度を見直し、個々人に選択肢を与えることによって、家族形成が促進される可能性が高いということです。

 欧州の多くの国で、結婚とは異なる共同生活の選択肢が用意されています。

 結婚以外の社会的に保障されたパートナーシップ制度として日本でも有名なのがフランスのPACS(パックス)でしょう。PACSはもともと同性愛カップルの生活を保護する目的で1999年に制定されたものですが、ふたを開けてみれば、男女のカップルも法律婚ではなくPACSを積極的に選択するようになりました。

 PACSの特徴のひとつに、性的関係に限定されていないという点があります。つまり、同性であれ異性であれ、友達とパートナーになることも可能なのです。

 こうなると、そもそも「なぜ友だちと家族になっちゃダメなのだろうか?」という疑問も生まれてきますね。しばしば夫婦関係も月日がたてば、「友だちのような関係が理想」と言われたりします。

 実際ある日本の調査では、理想の夫婦第一位は「親友型夫婦」という結果も出ています。「それなら最初から友だち同士でもいいのでは?」という疑問があってもおかしくはないでしょう。

 近年は、LGBTという概念の普及にとどまらず、アセクシュアルやアロマンティックといった、LGBTの枠組みにおさまらないさまざまなセクシュアル・マイノリティの存在が社会的に認知されてきています。

 恋愛や性的関係を持たないと結婚できず、家族を作れないという現在の社会では、こうした当事者たちは法的・社会的に認められた関係を築くことができません。「なぜ結婚には恋愛や性的関係が不可欠だとされているのだろうか? なくてもよいのでは?」という疑問が生まれても不思議ではないでしょう。

 セクシュアル・マイノリティに限った話ではありません。

 近年では、「選択的シングル」という概念も注目されています。主体的にシングルとして子育てを実施する女性も増えています。

 例えばオランダには、Bewust Ongehucode Moeder(主体的に非婚を選択した母親)というシングルマザーのコミュニティがあり、「子どもは欲しいけれどもパートナーはいらない」という女性たちがお互いに情報交換したり、助け合ったりする仕組みがあります。このコミュニティのサポートを得て、子育てしている母親が多くいるというのです(西村道子『世界の結婚と家族のカタチ VOL.2:多様な家族のカタチを受け止める寛容な国――オランダ』)。

「なるほど!」と思った人もいるのではないかと思います。しかし、こうした疑問がこれまで一度も生じたことがなかったとすれば、ステレオタイプの作用だと言えるでしょう。

 ますます人々の多様なニーズやジェンダー、セクシュアリティが顕在化している今日の社会では、パートナーシップや共同生活、協力関係のあり方を常識的な枠組みから離れて考えていくことが必要になっているのです。

〈 「オナゴにしてほしい」娘の結婚が決まると、親は村の宿老に依頼しに行った…昔の日本では当たり前だった“よばい”の実態 〉へ続く

(阪井 裕一郎)

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