イーロン・マスクとジェフ・ベゾスはどうして宇宙を目指すのか? 150年の時をさかのぼって語られる“別の物語”
文春オンライン / 2024年7月22日 7時0分
![イーロン・マスクとジェフ・ベゾスはどうして宇宙を目指すのか? 150年の時をさかのぼって語られる“別の物語”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72172_0-small.jpg)
『宇宙開発の思想史 ロシア宇宙主義からイーロン・マスクまで』(フレッド・シャーメン 著/ないとうふみこ 訳)作品社
ジェフ・ベゾスとイーロン・マスク。世界一の大富豪の座を争う2人が、宇宙開発の分野でもライバルとして鎬を削る。もしそんな小説を30年前に書いたら、設定が古すぎる、現実味がないと一蹴されただろう。
そもそも、空気も重力もなく、放射線に満ちた宇宙は、地球上のどこよりも苛酷な環境だ。なのに彼らは(われわれは)どうして宇宙を目指すのか?
科学や経済では説明のつかないこの問いの答えを探して、本書は150年の時を遡り、「人類は宇宙に進出すべきである」という主張の歴史を(批判的に)たどる。死者の復活と人間の不死を唱えたロシア宇宙主義から、NASA、そしてベゾスとマスクまで、年代順に7つのパラダイムが設定されている。
大きな特徴は、科学とフィクションの間に明快な境界線を引かず、現実の宇宙開発もSFも同じように扱うこと。結果的に、科学史とSF史が交わる部分に光が当たり、どちらの研究書にもあまり出てこない(いくつかは邦訳さえない)作品が詳細に語られる。米国人牧師ヘイルが1869年に出した史上初の有人宇宙ステーション小説「レンガの月」(未訳)や、ロケット科学者の草分けツィオルコフスキーが1896年に書き始めた宇宙探査SF長編『地球をとびだす』。あるいは、近代ロケットの父フォン・ブラウンが1948年にドイツ語で書いたこれまた未訳の『プロジェクト・マーズ』(火星の統治者が“イーロン”なる役職名で呼ばれているという偶然の一致には笑ってしまう)。
本文250ページ少々の分量なので、もとより網羅的な内容ではなく、トピックには大きな偏りがある。クラークに触れた章で(よりによって)テレビの超常現象番組『アーサー・C・クラークのミステリー・ワールド』をクローズアップしたり、ル=グウィンがブログに発表したエッセイ「『テクノロジー』にまつわる苦言」をくりかえし引用したり、いささか変化球に頼りすぎな面もあるが、全体的には(とりわけフォン・ブラウンの章やNASAの章)それこそ小説のような面白さに満ちている。
本書の主張は明快だ。スペースコロニー、惑星開発、フロンティアなどの言葉が示すとおり、宇宙開発の背後には植民地主義が見え隠れする。著者は、そうした資本主義的/拡張主義的/ドナルド・トランプ的な思想に疑問符をつきつけ、マルクス主義的/理想主義的な“別の物語”に共感する。
前者の代表がフォン・ブラウンやジェラード・オニールなら、後者の代表として紹介されるのはJ・D・バナールの論考『宇宙・肉体・悪魔』(1929年)。その影響のもとでSF作家のブルース・スターリングがかつて描いた、豊かで雑然とした宇宙に希望を見出して、本書は幕を閉じる。ある意味それは、この多様性の時代にふさわしい宇宙開発思想かもしれない。
Fred Scharmen/モーガン州立大学建築・計画学部准教授。専門は建築と都市デザイン。メリーランド州ボルティモアが拠点のアート・デザインのコンサルタント会社「ザ・ワーキング・グループ・オン・アダプティブ・システムズ」の共同設立者。
おおもりのぞみ/書評家、翻訳家。著書に『21世紀SF1000』、『新編 SF翻訳講座』、訳書に劉慈欣『三体』(共訳)など。
(大森 望/週刊文春 2024年7月25日号)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
宇宙開発をリードするスペースX どこがスゴい!? 宇宙服もご紹介!
sorae.jp / 2024年7月14日 11時33分
-
スペースX「ファルコン9」、7年ぶり軌道投入失敗 再点火できず
ロイター / 2024年7月14日 9時16分
-
『ソフィーの世界』から30年――著者初のエッセイ『未来のソフィーたちへ 「生きること」の哲学』7月10日発売・好評予約受付中
PR TIMES / 2024年7月3日 13時40分
-
日本が「宇宙予算へと政府資金を投入すべき」理由。10年間で1兆円でも足りない
日刊SPA! / 2024年7月2日 8時51分
-
人類が遠い惑星に住むための独創的なアイデア どうすれば人間が居住可能な世界にできるのか
東洋経済オンライン / 2024年6月24日 15時0分
ランキング
-
1「健診でお馴染み」でも、絶対に"放置NG"の数値 自覚症状がなくても「命に直結する」と心得て
東洋経済オンライン / 2024年7月21日 17時0分
-
2扇風機の羽根に貼ってあるシール、はがしてはいけないって本当?【家電のプロが解説】
オールアバウト / 2024年7月21日 20時15分
-
3新型コロナワクチンの定期接種、10月から開始…全額自己負担の任意接種費は1万5000円程度
読売新聞 / 2024年7月21日 19時21分
-
4平日は毎日「レッドブル」を飲んでいます。「1日の飲料代」として高すぎますか? また、体への悪影響はないでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年7月20日 3時20分
-
5みなとみらいに爆誕「巨大フードコート」のスゴさ 「ワールドポーターズ」で世界の味を楽しめる
東洋経済オンライン / 2024年7月21日 12時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)