〈大幅なコストカットを実現〉地方自治体が国を変えた…? 三重県で行われた革新的な“政策評価の内実”とは
文春オンライン / 2024年8月13日 6時10分
政策体系のイメージ
県職員に“カルチャーショック”を与えたと評されている、元三重県知事北川正恭氏の行政改革。大幅な予算カットに成功した、先進的な取り組みはいかにして始まったのか。
ここでは、 『日本の政策はなぜ機能しないのか』 (光文社新書)の一部を抜粋。日本における政策評価の萌芽について紹介する。(全2回の1回目/ 続きを読む )
◆◆◆
日本における政策評価の実践
日本の政策評価は自治体から始まったと言われており、中でも三重県は先進的な自治体として知られています。1995年4月に三重県知事に就任した北川正恭氏は、当時大きなテーマの一つであった地方分権改革の流れに乗りつつ、行政改革の推進を掲げます。当時の三重県の行革運動は「さわやか運動」と呼ばれました。「さわやか」とは、「サービス」、「わかりやすさ」、「やる気」、「改革」、の頭文字をそれぞれとったものです。
この運動の内実は多岐にわたりますが、目玉の一つが「事務事業評価」と呼ばれるものです。これを説明するには、まず「事務事業」について理解する必要があります。「政策体系」と呼ばれる以下の図表をもとに解説しましょう。
まず全体の方針や目的を定める「政策」が一番上にあります。続いて、その下には「施策」と呼ばれる、方針や目的を実現するための具体的な方策があります。それらを達成するさらに具体的な行政手段が事務事業と呼ばれるものです。
具体例を出した方が分かりやすいでしょう。たとえば、「健康に資するまちづくり」という「政策」があったとします。この政策に関連付けられる「施策」としては、「住民の健康増進」が挙げられます。あるいは、都市環境もまた健康と無関係ではありません。そこで、「自然豊かな都市整備」といったものが考えられます。これに対する「事務事業」は、「健康増進」ならば、「健康診断の実施」「生活相談会の開催」といったものになるでしょう。また、「自然豊かな都市整備」に対しては、「緑地公園の開発」、「街路樹の整備・維持」といった事務事業が考えられます。これを表したのが以下の図です。
このように「政策体系」とは、上に位置する抽象的な「政策」に対して、その目的に達するための具体的な取り組みが紐づけられた構造となっています。したがって、「事務事業評価」とは、上図における一番下の具体策を評価するものとなります。
事務事業評価の仕組み
では事務事業評価は、どのような仕組みで行われるのでしょうか。これもまた実例を見た方が分かりやすいと思いますので、図に沿って説明します。
こちらの画像は、平成26年度(2014年度)に岩手県盛岡市で実施された「健康教育事業」に関する事務事業評価シートです。自治体ごとによって微妙な違いはありますが、事務事業評価の多くは、このようなシートに基づいて実施されており、内容的にも大きな違いはありません。
事務事業評価は、評価シートの画像にあるように、当該事業において、どの程度の資源が投入されたのか、実績としてどのようなアクティビティ、アウトカムがあったのかといったことを踏まえ、改善の余地があるか否か、場合によっては廃止の必要があるか、といったことを評価するものです。評価シートで言うと、健康づくりのために適切な支援や情報提供を行う事業について、現状の実施内容や、その課題についてといった論点が記されています。
事務事業評価の3つの特徴
では、事務事業評価は、どのような特徴を備えた営為なのでしょうか。多くの特徴を有する事務事業評価ですが、ここでは代表的なものを三つ取り上げましょう。
第一に、事務事業評価は基本的に事後評価で行われます。たとえば、先に述べたPPBS(編集部注:限られた予算で最も効率よく目的を達成するための財政管理システム)は事前にシミュレーションを徹底的に行います。あるいは、高速道路やダムといった大規模公共事業で行われているアセスメントも事前評価にあたります。これに対して事務事業評価は、既に行われた事業を検討するので、事後評価に該当します。
第二に、事務事業評価は基本的に内部評価で行われます(反対は「外部評価」)。事務事業評価シートも、原則として行政職員が作成します。自分で自分の担当している事務事業を評価しますから、内部評価は客観性を欠いたものになりがちだと言われています。私の勤務している大学でも、年度ごとに人事評価が行われますが、基本的に自己評価のため、客観的な評定ができているとは言い難い面があります。もちろん、客観的な指標はキチンと用意されていますし、提出した評価結果が妥当か否かについて、第三者による検討も加えられますが、内部評価が限界を有していることには変わりはありません。
第三に、事務事業評価は基本的に全数評価で行われます。全数評価とは、全ての事務事業を同一の手法で評価するアプローチを指します(反対は「重点評価」)。このアプローチは、多数のデータの網羅が可能なうえ、同じ様式=事務事業評価シートに沿って評価を行うため、情報を入手する側としても分かりやすいといったメリットがあります。しかし、全ての事務事業を対象に行うため、チェックは広く浅くならざるを得ません。また、画一的なフォーマットで多くの事業を評価するので、事業ごとの特性を踏まえた評価にならないことがあります。加えて、プログラム評価ほどに専門性を必要としないとは言え、数が多いので評価にかかる活動量は膨大なものです。このため、現場が抱く負担感も大きくなりがちといった点も問題として挙げられます。
このような特徴を備えた事務事業評価は、三重県において導入され、大規模な予算カットに成功したと話題を呼びました。当時、三重県知事で改革を主導した北川氏は、事務事業評価の仕組みを導入したねらいについて、アウトカム指標を設定することによって、成果を意識した行政運営を根付かせることにあったと振り返っています。
「業績管理/業績測定」型の取り組みが主流に
これらの情報を整理すると、事務事業評価は「二つの流れ」で言うところの「業績管理/業績測定」型の取り組みと見なせそうです。ただし、事務事業評価の中には、事業のセオリーやプロセスの検証を行っているものもあります。先ほど掲載した事務事業評価シートにも、必要性についての検討や、施策との整合性といった、業績測定では取り扱わないものも扱われていることが分かります。よって、事務事業評価は、業績測定的なアプローチを中心に据えつつも、プログラム評価を簡易的に実施する取り組みだと言うこともできます。やや複雑ですが、要するに事務事業評価を単なる業績測定だ、と言い切るのには慎重になった方がよさそうです。
厳密に言うと微妙なところもありますが、ひとまず、自治体における評価は、「業績管理/業績測定」型に比重をおいた取り組みが主流となったということを、ここでは確認しておきましょう。こうした流れは、国の政策評価の実践にも影響を及ぼし、日本の政策評価の文化は、国・自治体双方ともに「業績管理/業績測定」型が優位となったわけです。
〈 枝野幸男や蓮舫の舌鋒鋭い追及…民主党政権が肝いりで行った「事業仕分け」とはいったい何だったのか 〉へ続く
(杉谷 和哉/Webオリジナル(外部転載))
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