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原辰徳監督はなぜコンタクトレンズを付けずに采配したのか…裸眼で東京ドームに行って検証してみた

文春オンライン / 2024年7月20日 11時0分

原辰徳監督はなぜコンタクトレンズを付けずに采配したのか…裸眼で東京ドームに行って検証してみた

巨人・原辰徳前監督 ©時事通信社

※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2024」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】南別府 学 読売巨人軍

東京生まれ・松坂世代のサラリーマン。小学生時代は巨人が負けて号泣したこともあるほどの巨人ファン。近年は残業中もラジオで試合をチェックし、秘蔵の巨人ノートをつけている。文春野球フレッシュオールスターは4度目の本戦出場。今回こそは優勝を狙う。

◆ ◆ ◆

 1990年8月、広島のキャッチャー達川光男が試合中にコンタクトレンズを落とし、両チームの選手たちが総出でそれを大捜索した「達川コンタクトレンズ事件」。皆が腰をかがめてコンタクトレンズを探す姿はあまりにも滑稽で、記憶に残る珍プレーとしてプロ野球史に刻まれている。

 あれから30年余りが経過した昨年8月。コンタクトレンズにまつわる珍事件が再びプロ野球史に刻まれたことはあまり知られていない。

コンタクトレンズを付けずに試合に臨んだ原監督

 2023年8月12日。巨人対DeNA戦で事件は起こった。

 この試合までの巨人は、首位阪神と12ゲーム差。3位DeNAとも3ゲーム差を付けられる苦しい状況だった。直近の4試合では4連敗し、2年連続のBクラスが目の前に迫っていた。

 これ以上負けることが許されない大事な試合。そんな状況で巨人・原監督(当時)はなぜか普段付けているというコンタクトレンズを装着せずに試合に臨んだ。

「今日は少しぼんやり風景を見てみようと」

 そう語った原監督の“裸眼采配”は成功した。ヤケクソにも思える捨て身の作戦が功を奏し、勝利を収めたのである。連敗を4でストップさせて手応えをつかんだ原監督は「明日もコンタクトを入れずにいってみようかな」と上機嫌だった。

“2023年の原巨人”最大の謎を追う

 言うまでもないが、現代は情報化社会である。

 現代人が1日に触れる情報量は、平安時代の一生分とも言われるほどだ。

 情報がありすぎて判断を見誤る……私にもそんな経験はあり、当時の原があえてコンタクトレンズを付けず、視覚から入る情報を減らして采配に臨んだ意図は何となくわかるような気がした。

 しかし、だからといって指揮官の視界がぼやけていて果たしてチームは機能するのだろうか。単純にそんな疑問が頭をかすめた。

 大事な試合にあえて裸眼采配を敢行した本当の理由はなんだったのか。

 コンタクトレンズ愛用者である私は、裸眼で球場に行くことを決意した。

 私自身が“裸眼観戦”し、裸眼采配の謎を解明しようとしたのである。

裸眼観戦して起こった身体の変化

 東京ドームで行われた巨人戦で、私は裸眼観戦を決行した。

 席に着き、グラウンドをぼんやりと眺めてみるが、視力0.1の私にはほとんど何も見えなかった。

「今ってどっちが攻めてます?」

 思わず野球素人のような質問を口にしてしまうほどだった。チケット代を無駄にしたような気持ちになり呆然としていたが、次第に私の身体に変化が起こっていった。脳が視覚の低下を補おうとしたのか、聴覚が大幅にアップ。いつもより周囲の声がはっきり聞こえてくるような気がした。

 後ろの席では学生らしき女性2人組が「小林君見つけた!」「尚輝!!」「3度の飯より大城卓三!」

 と互いに囁き合う声が聞こえてきた。

 隣に座る若いサラリーマン風の男性は「この選手、登場曲がBTSだから大好き!」「プレモルの売り子、超かわいい!」などとはしゃいでいた。

 有益な情報こそ何一つ得られなかったものの、視覚以外の五感が研ぎ澄まされ、普段では聞き漏らすような言葉までもがはっきりと聞こえてきた。

 五感の高まりとともに鋭さを増したのが直感力であった。五感の刺激により集中力が異常なまでに発揮され、ひらめきが冴え渡った。事実私は、隣に座る若者が次にどこの銘柄のビールを注文するのかを百発百中で言い当てた。

原監督がコンタクトレンズを付けなかった本当の理由

 原がコンタクトレンズを付けずに采配したことが報じられると「大事な時になにをやっているんだ?」「ふざけてるのか」と批判や嘲笑の声が一部で上がっていた。ファンの目にはその行動はあまりにも突飛なことに感じられたことだろう。

 しかし私自身が裸眼観戦した結果、原がどんな意図でコンタクトレンズを付けなかったのかがわかった気がした。

 己の直感力を高め、勝負勘を発揮するためだったのだ。巨人軍最多勝利監督の名もすたる2年連続Bクラスの危機。そんなピンチに原が藁にもすがる思いで頼ったものが己の勝負勘だった。

 人に笑われようが、批判されようが、今できることを全部やってみる……とにかく勝つために、原は自分の信じた行動を取ったにすぎなかったのだ。

阿部監督に継承された原の裸眼魂

 2024年。阿部新監督は「新風」をチームスローガンに、原野球を払拭するような野球を繰り広げている。キャッチャーにこだわり、打撃よりも守備を重視。バントを多用していた。阿部野球からは原の面影はほとんど感じられなかった。

 しかし、批判を恐れず己のやりたい野球を貫こうとする阿部の姿勢からは、原から受けた影響を感じずにはいられなかった。笑われようが批判されようが……己のスタイルを貫いた原の“裸眼魂”はしっかりと阿部へ継承されているのだろう。

 常に無難で安全な道を選択し、周りと摩擦を起こさないようにする生き方はたしかに楽だ。しかしそれで満足度の高い人生を歩むことはできるだろうか。誰が何と言おうと自分の信念を貫く……原や阿部の戦いに影響されて、私もそんな生き方をしていこうと誓ったのであった。たとえそれが達川の落としたコンタクトレンズを見つけるくらい難しいことだったとしても。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム フレッシュオールスター2024」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/72199 でHITボタンを押してください。

(南別府 学)

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