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「みかん氷」30年、あのハマスタ名物に「逆さみかん氷」という裏技があった!?

文春オンライン / 2024年7月20日 11時0分

「みかん氷」30年、あのハマスタ名物に「逆さみかん氷」という裏技があった!?

ヘルメットみかん氷 ©川村 ガロン

※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2024」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】川村 ガロン 横浜DeNAベイスターズ

東京都在住の会社員。ベイスターズが日本一になった1998年当時は「右手に週べ、左手にsnoozer」の帰宅部高校生。その後、開幕投手とミッシェルとくるりの曲からハンドルネームをつけるなど、大いにこじらせたまま現在に至る。文春野球フレッシュオールスターは3年連続ベンチ入りを経て初の本戦出場。牧秀悟が命の恩人。

◆ ◆ ◆

 横浜スタジアムの逆さみかん氷をご存じだろうか。今頃のような暑い盛りに召し上がったことのある方は膝を打つかもしれない。そして、つい少し前のわたしと同じように「なにそれ知らない」と興味を持たれた方。その方にはたいへん申し訳ないが、お伝えしなければならない。

 2024年現在、横浜スタジアムで逆さみかん氷は食べることができない。しかしそれは、それほど悪い話ではないかもしれない。

なかなかに衝撃的だった「逆さみかん氷」

 みかん氷は横浜DeNAベイスターズの本拠地、横浜スタジアムの名物として知られている。かき氷の上に缶詰のみかんをのせた、名は体を表すにもほどがあるシンプルな食べ物だ。2013年にみかん氷を取材した新聞記事*によると、発売を始めたのはベイスターズになって2年目の1994年。当初は三塁側内野席の1か所だけで売られていたが、人気の高まりとともに徐々に販売する場所も増えたという。1店だけで一日1600杯、年間3万杯を売り上げるそうだ。1600杯。記事の前年の2012年は親会社がTBSからDeNAになった初年度。1試合の平均観客数が約16000人だから、観客の10%がみかん氷を食べていた計算になる。すごい。あんなに乱暴な食べ物を売る方も売る方だが、食べる方も食べる方だ。

 しかし、日差しの厳しいデーゲーム、氷をわっせわっせと掘削しながら食べていると、冷たさと甘さをプリミティブに感じ、爽快な気持ちになるのは確かだ。なんだか目の前のグラウンドで、勝つときも負けるときも豪快、目を疑うファインプレーと目を覆うミスが同じ選手から豪快に飛び出す、我がベイスターズに似ている気がした。

 そして逆さみかん氷だ。たまたまSNSで見かけた、みかんが氷の下に埋まっているその姿は、なかなかに衝撃的だった。注文するときにかき氷の下に先にみかんを入れてもらうらしい。SNSでは本家同様かそれ以上にワイルド極まりない氷の塊の写真とともに「みかんが落ちない」「みかんがずっと冷たく乾燥しない」などといったコメントが並んでいる。なにそれ知らない。みかんを落とさずノーミスで食べきったことがない身からすると、これは頼んでみるしかない。ある日のナイトゲーム、新メニューの案内を横目に意を決してカウンターの店員さんに話しかける。

「みかん氷は大事な名物だから…」

「あのう、みかん氷、の、みかん、を下にしてもらう、ことって、できますか?」

 逆さみかん氷が公式なものか自信がなかったので、おっかなびっくりである。店員さんが笑顔で返事をする。

「あ、みかんを下にするやつですね。できますよ!」

 おお。じゃ、それひとつください!

「氷ひとつー、みかん下でー」

 ホッとしたその直後、店内から別の店員さんの声がした。

「すみませんが今できないんですよ」

 カウンターを挟んで目を見合わせる2人。ごめんなさい、ご迷惑おかけしました。しどろもどろで謝ると、店員さんは教えてくれた。

「前はできたんですけど。みかん氷は大事な名物だから、アレンジ禁止になったみたいです」

 みかん氷は大事な名物。すこし残念だったけれど、なんだかちょっと感動してしまった。

 先程の新聞記事では、あまり知られていないみかん氷の作り方にも触れられている。なんでも、シロップは缶詰そのままではなく調合された特製品だという。さらに器に盛る順番はシロップ、氷、再びシロップ、みかんと決まっていると。甘すぎずさわやかに食べきれるように。みかんを乗せても沈まないように。最後まで味のついた氷を食べられるように。そんな思いでさまざまな工夫が込められているのだという。なにそれ知らない。あらためて注文して食べたみかん氷は、確かにシンプルながらそんな工夫が詰まっているようにも、いつもと同じようにも思えた。こんな味だったっけな。

ベイスターズが目指す姿を30年間ずっと示してくれているのである

 思えばみかん氷が発売された1994年はベイスターズになって2年目。それから30年、みかん氷の歴史はほぼベイスターズの歴史だった。選手や監督、ファンが去っても、親会社がDeNAになり、「コミュニティボールパーク」を掲げて横浜スタジアムを改修しても、ずっと変わらず横浜スタジアムにいた。だから、ともすると1998年の日本一以降のベイスターズの苦難の歴史や「変わらなさ」の象徴として半笑いで語られがちだったりもする。わたしもそうだ。みかん氷は、確かに「かき氷に缶詰のみかんをのせた」ものだ。しかし、決して「かき氷に缶詰のみかんをのせただけ」のものでもなかった。逆さみかん氷どころか、みかん氷のことも、わたしはなにも知らなかった。

 横浜スタジアムによると、販売開始した時からレシピや材料に変更はなく、当初から同じクオリティで提供し続けているという。最初から完成されているから、変える必要はない。豪快に見えて、中にいろいろな工夫が込められている。最初のみかんから最後の氷まで、みかん氷という試合をしっかり勝ちきることができる。逆さみかん氷に頼る必要はない。みかん氷は、変わらないベイスターズの象徴ではなく、ベイスターズが目指す姿を30年間ずっと示してくれているのである。熱いぜ、みかん氷。そう、継承と革新とは、みかん氷のことだったのだ。ほんとかよ。

 でも、度会隆輝プロデュースのチョコパフェを食べながら、度会の手に汗握る守備と手汗で溶けるソフトクリームを見ていると「ほら、ソフトクリームじゃなくて、みかんが沈まないように固めた氷みたいに……」と思ったりしてしまう。大きなお世話だ。とはいえ、チョコパフェにはチョコクッキーがのっていて、溶けたソフトクリームをすくって食べるにはちょうどいいバランスで、みかん氷の「さわやかに食べきれるように」という思想が継承されているような気がしなくもない。がんばれ度会。チョコパフェ美味しかった。みかん氷も似合う選手になってくれ。たくさん食べるからさ。逆さみかん氷はもう頼まない。

 でもやっぱり、ちょっとだけ、食べてみたい。

 *朝日新聞2013年5月17日朝刊東京都版 街かどグルメ「みかん氷」(横浜市)横浜スタジアムの不変の味

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム フレッシュオールスター2024」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/72202 でHITボタンを押してください。

(川村 ガロン)

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