《大河ドラマ「光る君へ」で源明子役を熱演》「今日もうまくいかなかったの繰り返しで…」瀧内公美(34)がブレイク前夜に感じていた“社会へのいら立ちと反発”
文春オンライン / 2024年7月27日 11時0分
昨年AmazonのCMでお茶の間の注目を集め、今年は大河ドラマ『光る君へ』で源明子を熱演中の 瀧内公美(34) 。2012年のデビュー以来、わずか2年で映画主演を果たすなど順風満帆な役者人生に見えるのだが……。役者として歩み始めた日々の記憶を辿る。(全3回の1回目/ 第2回 、 第3回 を読む)
◆◆◆
「なにか違うな」の教員実習から映画のエキストラへ
――大学生のころは教員を目指していたんですよね。
瀧内 そうなんです。ただ、初めに大きかったのは東京に出たいという思いでした。地元の富山から都市部の大学に出たくて。でも父から、東京の大学に行くなら資格の取れるところでないと駄目だと言われたんです。ひとりっ子だったし、わりと厳しい家だったんですね。それでいろいろ考えて、もともと子どもが好きだったので、教育学部を志望しました。
――どんな学生時代でしたか?
瀧内 門限もあって、しつけに厳しい家から解放されたからか、ひとり暮らしを満喫していました(笑)。実家は富山の田舎のほうで、夜遅くなると信号が点滅しはじめるような場所だったんです。だから24時間営業のコンビニを見ただけで、「東京は夜でも明るいんだ」って感動して。コストコでバイトしていたんですけど、業務用サイズの商品や大きなぬいぐるみなどを棚に返却する仕事ばかりやっていました。バイトは本当に楽しかったです。
――大学では実際に教員免許を取ったんですよね。でも教員にはならず、俳優の道を選びました。どんな心境の変化があったんですか?
瀧内 大学4年生のとき、地元の小学校へ1ヵ月間くらい教育実習に行ったんです。その実習が思ったようなものではなくて。たとえば先生がたに休憩中はお茶出しをして、そのうえ好きなお茶の種類を覚えなければいけない。なぜみんな同じものではいけないんだろう、ややこしいんだなって、初めて社会の厳しさに触れたんです。
もちろんいい経験もさせていただきました。でもなにか違うなと思いながら、自転車で毎日通っていたら、たまたま小学校の前で映画の撮影をしていて。大人数が集まって、わいわい楽しそうだったんです。しかも私の好きな漫画の実写化作品だった。すぐに交通整理をしていた方に「エキストラは募集してますか?」と聞いて、ネットから応募しました。
お芝居の仕事はしているけど…
――すぐに行動に移す、アクティブな方なんですね。
瀧内 まずやってみる、失敗したら仕方ない、というタイプです(笑)。そのときのエキストラ体験があまりに楽しかったんですよ。もしかしたら教育実習の反動だったのかもしれません。なんて自由で、生き生きとした世界なんだろうって。その帰りに書店で『デ☆ビュー』というオーディション雑誌を買い、パッと開いたページに出ていた事務所に応募したのがキャリアのはじまりです。
――それまでに演技の経験はあったんですか?
瀧内 いえ、富山にいた高校生のころ、グラビア撮影の経験をしたことはありましたけど、演技をはじめたのはそのとき、21歳からです。
――映画への興味は?
瀧内 映画館に行って、映画を観るのは好きでした。作品を観ながら、俳優の仕事はカッコいいなと心のどこかで思っていた気はします。でもエキストラに応募したのは直観でした。
――演技をはじめて、すぐに自分に向いている仕事だと感じましたか?
瀧内 最初はエキストラばかりで、セリフもないですから、演技に向いているかなんてわかりません。演技のワークショップに行っても、講師の方によっておっしゃることが全然違うんです。君のよさはここだと言われたかと思えば、別の方には違う指摘をされて、むしろ自分がわからなくなる。課題も日によって異なるので、エチュードをやったり、紙にびっしり書かれたセリフを覚えたりと、ただがむしゃらでした。
――2012年にデビューしたあと、2014年の映画『グレイトフルデッド』で早くも初主演を果たします。これ以上ない、順調なキャリアのスタートですよね。
瀧内 その実感はまったくなかったです。オーディションの機会をいただけるとか、現場に立たせてもらえるとか、そういった意味では恵まれていたと思います。でもそのころはまだ古いやり方が許されていた時代ですから、現場で大きな罵声を浴びせられることもあって、なぜこんなに怒られるんだろうって試行錯誤の毎日でした。
アルバイトで生計を立てながら、事務所からいただく仕事をして、また休みの日にアルバイト。そんな生活だったので、精神的に不安定だったというのもあります。お芝居の仕事はしているけど、自分の進みたい方向ではない。複雑な状況でしたね。
「今日もうまくいかなかった」のくり返し
――周囲と衝突することもあった、と過去のインタビューにはあります。
瀧内 いま思えばですけど、社会へのいら立ちだったんでしょうね。映画作りは集団作業ですけど、集団にうまく馴染めないところがあって、大人たちに反発していた。無知な自分へのいら立ちもあったんだと思います。反発するくせに技術は未熟だから、求めに応えられない歯がゆさがあって。
自分のやっている仕事には価値がないとずっと思いつづけていました。プロって、お金をもらうわけですよね。でも大人数に囲まれているから、現場の反応でわかるんです。これではお金をもらえないなって。「今日はうまくいかなかった」「今日もうまくいかなかった」のくり返しで、このまま続けていっても駄目だなと思っていました。
――それで富山に帰ろうかと悩んだりして。
瀧内 呼吸がしづらくなる感覚があったんですよね。だから一時期は実家に帰りたいと思ったこともありました。
「自分はもっとできる、もっといける」と
――そのころいちばんつらかったのはどんなことですか?
瀧内 仕事がないことがつらかったです。オーディションに行っても、そのたびに落ちていたので。私は自分の肉体を通じて、実感として理解していくことが多いんですね。想像力では補えない部分があって。でも現場がないということは、その発見もない。その感覚を持てなかったのがきつかったです。
――それでも演技の仕事をあきらめなかった、その理由はなんですか?
瀧内 お芝居をしたいという気持ちと、なんの確証もない自信(笑)。自分はもっとできる、もっといけると思っていました。若気の至りかもしれませんけど。
――そのころにはすっかり芝居の虜になっていたんですね。
瀧内 現場を重ねるうちに、自分はお芝居が好きなんだなって実感するようになっていきました。不思議な感覚なんですけど、自宅に帰ったときに解放感があるんです。いまも現場から帰ると、自分が生き生きとする感覚があります。それはうまくできたときに限りません。うまくいかなくて、悔しくて寝られないようなときにも、生きているなと思う自分がいるんですよね。
撮影 丸谷嘉長
スタイリング 後藤仁子
ヘアメイク 佐藤寛
INFORMATION
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(門間 雄介/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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