1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「死ぬよ?」40代・肥満・喫煙者にピル1年以上処方…有名現役医師が激怒する「オンライン診療ビジネス」の闇

文春オンライン / 2024年8月6日 11時0分

「死ぬよ?」40代・肥満・喫煙者にピル1年以上処方…有名現役医師が激怒する「オンライン診療ビジネス」の闇

宋美玄医師(丸の内の森レディースクリニック院長)「オンラインクリニック側に適切なフォローアップ体制がないために、普通の婦人科やレディースクリニックが尻拭いをさせられています」

新型コロナの感染拡大を機にスマホ・PCなどを用いたオンライン診療が解禁されてから4年、特に行政の監視の目が入りにくい保険外診療(自由診療)でオンライン診療の「カジュアル化」が急速に進んでいる。

 ネットにはAGA(男性型脱毛症)治療、ED(勃起障害)治療、ピル(経口避妊薬)処方、ダイエット目的のGLP-1受容体作動薬(糖尿病治療薬)処方などの広告が溢れ、テレビCMでも毎日のようにタレントが“おうち”で気軽に受診しようと呼びかける。

 患者囲い込みの競争は激しさを増しているが、その裏でオンライン診療をめぐる健康被害やトラブルも増加し「尻ぬぐい」をさせられている医師から怒りの声が上がっている。

「激烈に怒ってます」ピル処方・AGA治療などでトラブル増加

「オンラインクリニック側に適切なフォローアップ体制がないために、処方されたピルを飲んで足が痛くなったという患者さんが普通の婦人科やレディースクリニックに駆け込んで来ているんです。私のクリニックにも来ますし、知り合いの産婦人科医のところにもたくさん来ていて、みんな激烈に怒っています」

 そう語るのは、『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)などの著書で知られる丸の内の森レディースクリニック院長の宋(ソン)美玄(ミヒョン)医師。宋医師によると、オンラインクリニックの不適切なピル処方には「そもそもこの人に処方するか?」という診察自体が不適切な事例と、処方後のフォローアップ体制がないケースがあるという。

 オンラインクリニックがよく処方する低用量ピルの「マーベロン」や「トリキュラー」には禁忌が多数あり、「前兆を伴う片頭痛の患者」「35歳以上で1日15本以上の喫煙者」などには処方してはならない。肥満の女性も血栓症などが発生しやすいため要注意とされている。

「対面診療ならばよほどの藪医者でない限り絶対ピルを出さないような人にもオンラインで処方されていて、『不正出血している』と言っても出され続けているケースがあるんです。知っている話では、40代後半で肥満かつ喫煙者という方に低用量ピルが1年以上出されていたケースもあります。『死ぬよ?』と思って。そういう事例が全国にたくさんあると思います」(宋医師)

患者は路頭に迷い、クリニックは尻拭いをさせられる

処方後も医師は十分観察し、血栓症など重大な副作用の疑いがある場合は、すぐに総合病院の救急外来などにつながなければならない。しかしオンラインクリニックにそうしたフォローアップ体制がないと、副作用の不安が募った患者は路頭に迷い、あらためてレディースクリニックの門をたたくことになる。

「『足が痛いなど血栓症が疑われるときはこの医療機関にかかってください』と細かく案内していればいいのだけれど、それがない。そういう患者さんを受け入れる私たちからしたら、自分が処方したわけでもないのに、病院に連絡・紹介するなどの手間もかかるし、見落としがあれば訴訟のリスクを負うことにもなる。『なぜあなたたちのビジネスの尻拭いを私たちがさせられるの!』という感じです」(宋医師)

AGA治療もGLP-1ダイエットも「ネットでお気軽に」の危険性

 オンラインクリニックのAGA治療で使用される「フィナステリド」も、ダイエット目的で使用される「リベルサス」などのGLP-1受容体作動薬も、経口避妊薬と同じく処方箋が必要な医薬品。「フィナステリド」は保険収載されていないため全額自費の自由診療でのみ処方され、発毛剤の「ミノキシジル」と併用して使われることが多い。「リベルサス」は糖尿病患者に使用する場合のみ保険適用となるため、こちらもダイエット目的で使用する場合は全額自費となる。

 神奈川県保険医協会理事の磯崎哲男医師(小磯診療所院長)は、企業主導で大々的にテレビCM・ネット広告を打って患者を囲い込む「オンライン診療ビジネス」が拡大している現状に警鐘を鳴らす。

「『フィナステリド』はもともと前立腺肥大症治療薬として開発された薬で、後に脱毛を抑制する効果が報告されたことからAGA治療薬として承認されました。当然主作用もあれば副作用もあります。爆笑問題がAGAのCMをやっていた頃は『ちゃんと医療機関を受診しよう』という内容でしたが、オンライン診療が解禁されてからだんだん『ネットでお気軽に』という風潮になり、安全性よりも時間の短縮や便利さばかりが前面に出るようになりました」

「GLP-1製剤は、私たちも糖尿病患者に使用して痩せる効果を実感しているので、痩せたいという方が全額自費で治療を受けるケースは結構あると思います。しかし、糖尿病患者に使用する場合は病気を治すというメリットがあるから、副作用というデメリットをカバーできますが、何の病気もない人にダイエット目的で使えばデメリットの方が大きくなる。膵炎などの副作用が生じるケースもありますので、問題は大きいと思っています」

「保険診療という選択肢」を奪っている可能性

 オンラインクリニックによる低用量ピルの処方については別の問題も指摘されている。低用量ピルには保険適用のピル(LEP)と保険適用外の自費ピル(OC)があり、生理痛(月経困難症)を抱える患者は保険診療でピルの処方を受けられるのだが、宋医師によると、オンライン診療ではその情報が十分に提供されていない場合があるという。

「月経困難症がある方は『マーベロン』や『トリキュラー』よりももっと新しくて副作用が少ない超低用量タイプのピルの処方を保険診療で安く受けることができます。一部のオンラインクリニックは、保険診療を行うと行政のチェックが入るので、保険が使えることを隠して全額自費で処方していたりするんです。ホームページを見ても、そもそも保険適用のピルがあるということが全くわからない場合が多い。保険診療という選択肢を実質的に奪っている可能性があるんですよ」

患者囲い込み競争を加速させる「アフィリエイト広告」

 患者の背景や基礎疾患は多様であるにもかかわらず、オンライン診療の広告で目立つのは、対面診療で処方されるのと同じ薬を「診察料0円」「初回6か月分無料」で「最短24時間以内」にお届けしますといったコスパを強調した宣伝文句だ。中には「とにかく薬だけあげるから試してみて」と言わんばかりのネット広告も散見される。もちろん自由診療であれ無診察治療は医師法違反である。

 オンライン診療ビジネスの患者囲い込みでさらに大きな役割を果たしているのが、成果報酬型のアフィリエイト広告だ。例えば「オンライン診療」「AGA」で検索すると、「AGAオンライン診療TOP 5」などのランキング形式のアフィリエイトサイトが真っ先に目に入る。どこへ行っても、だいたい同じクリニックが上位にランキングされており、こうしたサイトが一部のクリニックの集客を加速させている状況がうかがえる。

 アフィリエイトサイトには成果報酬の料率が高い企業の広告が目立つように配置されているため、ランキングが必ずしも医療の質を反映したものでないのは言うまでもないが、こうしたサイトを閲覧する消費者はあたかも通販サイトで月額定額制のサブスクのプランを選ぶように、カジュアルな気分で大事な受診先を選びかねない。

 こうしたオンライン診療の広告を磯崎医師は強く問題視する。

「患者側にもリテラシーが求められますが、悩んでいる人の心をくすぐるように非常にうまく広告が作られているので、思わず信頼してしまう方は多いと思います」

「女性の健康のど真ん中」の大事な薬もお金儲けに利用されている

 宋医師は自院でもオンライン診療を実践しており、決してオンライン診療自体に反対しているわけではない。ピル処方も「最初は対面診療が必要だけど、安定してきたらオンラインにして対面は年1回くらいにして全然いい」という考え。磯崎医師も対面診療を補完するためのオンライン診療、僻地(へきち)・離島の医療レベルを上げるためのオンライン診療は安全を担保した上で進めていいという立場。懸念しているのは、病院や診療所ではなく実質的に営利企業が 医師を組織化し、医療機関と提携して診療・処方をしているとして合法性を装い、フォローアップも不十分な医療を展開するオンライン診療ビジネスの拡大だ。

「自由診療であれば診療所を置かなくてもドクターがいればオンラインでできてしまう。この盲点を突く形で、誰の監視もない中で企業が医師に診察させて薬を配送しているところが非常に問題だと思っています」(磯崎医師)

「低用量ピルは子宮内膜症や卵巣がんなどを予防する効果もある、女性の健康のど真ん中の薬です。それをお金儲けだけに利用するビジネスを野放しにしているのはどうなんだろうと思います」(宋医師)

不適切なオンライン診療を見抜くためのポイントは?

 望まれるのは、不適切なオンライン診療が淘汰され、健全なオンライン診療が広がることだが、健康被害・トラブルが減る気配はない。私たちはどうすれば不適切なオンライン診療から身を守ることができるのか。

 宋医師、磯崎医師が不適切なオンライン診療を見抜くためのポイントとして挙げるのは「診察する医師の所属」と「副作用などで困ったときに受診する医療機関」の確認だ。磯崎医師は場合によっては「相手が本当に医師資格を持つ医師なのかどうかも確認した方がいい」と指摘する。

「日本医師会が発行している顔写真付きの医師資格証というものがあります。厚労省のガイドラインには、オンライン診療を行う際は『医師免許を保有していることを患者が確認できる環境を整えておくこと』と記載されているので、疑わしい場合は医師資格証を見せてもらうのがいいと思います。信頼できる先生かどうかを直感で判断することも大切です。普通の診察室で一対一で話すような感じで不安に思うことを尋ねて、本当に自分のことをよく考えて診療しているかどうかを確認するといいでしょう。『具合が悪くなったときはどうしたらいいんですか』『どこの医療機関にかかったらいいんですか』などと質問して、すぐにちゃんと答えられる先生を選んでもらいたいと思います」(磯崎医師)

不適切なオンライン診療を見抜くための確認ポイント
□診察する医師の所属医療機関、医療機関の問い合わせ先が明示されているか
□本当に医師か確認したい場合は、医師資格証や医師免許証を提示してもらう
□副作用などで困ったときの受診先の医療機関が明示されているか
□基礎疾患などについてしっかり問診を行ったか
□治療のメリット・デメリットを示しているか
□本当に自分のことをよく考えて診察してくれているか

トラブル・被害に遭ったら「消費者庁などに相談して」

 国民生活センターは2023年12月、「美容医療のオンライン診療」に関する相談件数が増加しており、中でもダイエット目的のGLP-1受容体作動薬などの「定期購入」をめぐるトラブルが目立つとして注意を呼びかけた。NHKもこれを大きく報じたが、オンライン診療ビジネスの競争は今も過熱しており、利用者も増えている。

 宋医師は不適切なオンライン診療の被害に遭ったときは「消費者庁などに相談してほしい」と呼びかける。オンライン診療をめぐるトラブル・健康被害、不適切な広告などに関しては消費者庁や厚労省に相談・通報の窓口があることも頭に入れておきたい。

オンライン診療に関する消費者庁・厚労省の相談・通報窓口
〇契約に関する相談:消費者庁「消費者ホットライン188番」
〇広告に関する通報:厚労省「医療機関ネットパトロール」
  https://iryoukoukoku-patrol.mhlw.go.jp

(山崎 柊三)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください