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「盗んだものは7000円とリンゴ2個だけ」高齢者2人を包丁で殺害…26歳・犯人男に“同情が集まった”ワケ《前橋高齢者強盗殺人事件》

文春オンライン / 2024年7月28日 17時0分

「盗んだものは7000円とリンゴ2個だけ」高齢者2人を包丁で殺害…26歳・犯人男に“同情が集まった”ワケ《前橋高齢者強盗殺人事件》

土屋和也死刑囚が一時期暮らした、母親の実家がある街(写真:筆者提供)

 盗んだのは約7000円と犯行後に囓ったリンゴ2個だけ…。2020年9月に死刑が確定した土屋和也死刑囚は、なぜ高齢者2人を包丁で刺して殺害したのか? 事件後の加害者や、その家族を追った高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「 日影のこえ 」による新刊『 事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

◆◆◆

はよ、判決言えや。死刑だろうが!!

〈 被告である自分は、あの日証言台の席でややうなだれていた。
 

(裁判長)「これより判決を言い渡す。被告人前へ」


 それを聞いて証言台へ移動する。


「はよ、判決言えや。死刑だろうが!!」


 そう心の中で叫んでいた。


(裁判長)「主文は後に回して罪となるべき事実、理由から先に述べる」


 後方、傍聴席の記者がバタバタと急いで法廷内から外に出ていった。


「はい正解、予想どおり」


 判決文を読み進める裁判長。それから一息吐いてこう言った。


(裁判長)「被告人起立しなさい。主文を言い渡します」


「下手なドラマでもこんな演出しねぇぞ」


(裁判長)「主文。被告人を死刑に処する」


「はいはい、茶番、茶番。はじめから死刑って言えや。後からペタペタと理由を補完する様な文体にすんな」(一部要約、土屋和也死刑囚の手記より)〉

 これは、2014年11月から12月にかけ2人を殺害したとして死刑判決を下された土屋和也(当時26歳)の述懐である。発言者が明記されていない箇所は彼の、当時の心情だ。

 和也は当初の手記ではこう息巻いたが、のちに彼が綴った手記と照らし合わせると、それが咄嗟に出た“空いばり”だとわかる。自分は根っからのシリアルキラー(連続殺人犯)じゃない。悪いのは母親をはじめ、世間だ。そんなやりきれない思いが感じ取れるのだ。

 自分にとっての転機は、良くも悪くも4歳から15歳まで過ごした児童福祉施設です。それが一番影響が大きい。年を重ねる度、自分に対しての自信、期待、夢が薄れていきました。俺。虚勢だった。体調は普通…時々、昔の仕打ちや行動を思い返しては悔やんだり、頭に来たり、非のない人などに八つ当たりしたことを反省しています。人生やり直したいけど、またあんな思いをするのは……。

 群馬県前橋市。どの地方都市にもある長閑な住宅街で事件は起こった。2014年11月10日午前3時頃、和也は当時93歳の女性宅に侵入し、女性をバールで殴り包丁で刺して殺害。現金約7000円を奪う。

 1ヶ月後の12月16日午前3時半頃にも女性宅から約700メートル離れた81歳の男性宅に侵入し、午前11時50分頃、包丁で男性の首や左脇を刺して殺害。トイレから出てきた80歳の妻も切りつけて重傷を負わせた。8時間以上この家に潜んだあと、夫婦を襲ったのだ。盗んだのはリンゴ2個だけだった。

 逮捕の決め手は、現場に残されたリンゴだった。男性宅への侵入口になったとみられる、割られた出窓がある部屋に、芯の部分まで食べ切ったり、かじったりした状態のリンゴが複数残されていたのだ。

 付近の防犯カメラには事件後、和也とよく似た男が映り、現場に残されたリンゴに付着したDNA型と、彼の型とが一致した。俗に「前橋高齢者強盗殺人事件」と呼ばれる本事件は、カネ目当ての強盗殺人と報じられたが、その犯行目的と残忍な犯行の整合性が取れず、物証となるリンゴをわざわざ血まみれの現場に残したことも含めて、不可解な点の多い事件とされた。

 和也の自宅を捜索すると、室内はカップ麺やペットボトルなどのゴミで散らかり、電気は止められ、生活が苦しかった様子が垣間見られたという。

2人を殺して得たものは「7000円とリンゴ2個」

 警察での取り調べに対して「家に入ったら人がいたので、刺した」「借金があり生活に困っていた」などと供述した和也は、高齢者2人を強盗目的で殺害し、1人に重傷を負わせたとして一審で死刑判決を受ける。続く二審でも控訴は棄却。最高裁に上告するも判決は覆らず2020年9月8日、死刑が確定した。

 私は一審での死刑判決直後の2016年8月から取材を始め、和也との面会を重ねた。

 きっかけは後先考えない和也の犯行と、異常なまでに多かった同情の声にあった。分別のある成人男性が起こした事件にしてはあまりにも短絡的すぎる。なにしろ人を2人も殺して得たものが現金約7000円とリンゴ2個だけなのだ。

〈 「彼も被害者」「セーフティネットがあれば違った人生を送っていたはずだ」高齢者2人を包丁で殺害…それでも26歳犯人に同情が集まった《前橋高齢者強盗殺人事件》の特異性 〉へ続く

(高木 瑞穂,YouTube「日影のこえ」取材班/Webオリジナル(外部転載))

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