「厳しいことを言わせていただければ、今すぐ辞表を書くべきです」…ライフネット生命創業者が明かす“飲みニケーション”をしてはいけない4つの理由
文春オンライン / 2024年8月9日 6時10分
写真はイメージ ©AFLO
〈 日本は世界200カ国中158位…先進国と比べても投票率が圧倒的に低いのは、いったいなぜ? 〉から続く
部下を適材適所でマネジメントする能力が求められる「上司」の仕事。しかし、マネジメント以前の問題として、若手社員とのコミュニケーション自体に悩むリーダーも少なくない。
ライフネット生命の創業者、そして、立命館アジア太平洋大学学長へ就任するなど、さまざまな業績を上げてきた出口治明氏は、どのように部下とのコミュニケーションを考えてきたのか。同氏の著書『 「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには 』(角川新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
◆◆◆
飲みニケーションの文化は日本独自のもの
リーダーは、職場の部下のことをよく知る必要があります。なぜなら部下の適性にふさわしい仕事をあてがうのがマネジメントの役割だからです。つまり、人材のポートフォリオを上手に組むことがマネージャー本来の仕事なのです。人を上手に使おうと思ったら、部下の得意不得意、向き不向きを前もって把握しておかなければなりません。
日本の常識で考えれば、部下との飲み会やゴルフは有効かもしれません。しかし僕自身は、就業時間外にマネジメントを行うのは邪道だと考えています。部下もゴルフや飲み会が好きならかまいませんが、そうでない人もいるからです。
以前、『プレジデントオンライン』の中で、「悩み事の出口」という連載コーナーを受け持っていたことがあります。このコーナーで、「同じ部署の上司や同僚はみな酒好き。仕事後の飲み会が多くて睡眠不足が悩みです」という相談を受けました。
僕は次のように答えました(一部抜粋)。
〈「職場は何よりも仕事をするところです。ベストコンディションで毎日出勤するのが社会人の最低限の心構えです。だから『僕は会社に貢献したい。飲みに行くとフラフラになっていい仕事ができないから、今日は勘弁してください』とキッパリと断ってみたらどうですか」〉
また、ある企業の管理者研修に招かれたとき、「この10年来、ほぼ毎日、飲みニケーションを行っている」という参加者がいました。
僕はその人に、「厳しいことを言わせていただければ、今すぐ辞表を書くべきです」と思わず言ってしまいました。
飲みニケーションがいけない、4つの理由
なぜ、飲みニケーションはいけないのか。理由は「4つ」あります。
飲みニケーションをしてはいけない4つの理由
(1)飲み会は、就業時間外に行うものだから
(2)お酒が嫌いな人、飲めない人もいるから
(3)グローバルには、「飲むのも仕事」といった風潮はないから
(4)公平性を欠くから
(1)飲み会は、就業時間外に行うものだから
部下とのコミュニケーションは、原則、就業時間内にやるべき仕事です。時間外にコミュニケーションを取るなど論外です。
自分の立場を利用して業務外の行為を強要した場合、強要した人の態度によってはパワハラに認定される可能性もあります。
就業規則に定められている業務時間内で、真剣に部下と向き合う。相手の意向をよく汲んで、どのようなことを聞かれても適切な受け答えをする。それができれば、部下は上司を信頼するようになるはずです。
(2)お酒が嫌いな人、飲めない人もいるから
たとえば、部下がイスラーム教徒だったり(教義によって飲酒が禁じられている)、お酒が飲めない体質だったりしたらどうするのでしょうか。グローバル企業であれば、絶対に許されないことです。
お酒の力を借りなければ部下とコミュニケーションが取れないのであれば、そもそも管理者の資格がないと思います。
(3)グローバルには、「飲むのも仕事」といった風潮はないから
今から四半世紀前の話ですが、海外の重要取引先の会長が来日しました。当時の社長は、「大事にしていた60年代のワインでおもてなしをしよう」と考え、「このワインはあなたのためにさきほど開けました。一杯飲んでください」とワインをグラスに注ぎました。
ですが先方は、「お気持ちは感謝しますが、私は2年前からお酒を断っていますので、水で結構です」と断ったのです。
日本人であれば……
日本人であれば、「では、一杯だけ」と口をつけるでしょうが、グローバルなリーダーは平気で断ります。
日本では、いわゆる飲みニケーション文化が根強いのですが、海外では、17~18時になったら仕事を終えて、あとは家族や恋人との時間を過ごす国のほうが圧倒的に多いのです。
「一緒にお酒を飲めば、本音が聞ける」「お酒なしには信頼関係は築けない」などという歪んだ考え方は、日本でしか通用しません。
もちろん、僕も仕事で知り合った人と飲みに行くことがよくあります。ですがそれはあくまで、仕事を通じて得た信頼関係の「プラスアルファ」部分です。
就業時間内のコミュニケーションで既に信頼関係は築けており、その上で相手もお酒が好きなことがわかっているのですから、それは、友人同士の通常のお付き合いと同じです。僕は、お酒がないと信頼関係が築けないなどとはまったく考えていませんし、無理に誘うこともありません。
(4)公平性を欠くから
あるグローバル企業のトップは、「役員になってからは、部下とランチに行くことも、飲みに行くこともない。秘書と食事をすることもない」と話していました。
理由は、「一部の人とだけランチを共にすると、公平性を欠いてしまう。全員とランチをすることも飲みに行くこともできないのなら、誰とも行かないのがフェアである」からです。そこまで厳しくする必要はないとも思いますが、フェアネスを何より大切にするこのトップの見識には感服しました。
たとえば、秘書など、身近にいる人とだけランチをしていると、彼らの限られた情報だけが自然と耳に入ることになります。それでは正しい判断はできません。ランチの場を使うなら、普段なかなか話をする機会がない人とランチをとるべきです。
トップは会議等で、あるいは社内を回って、等しくいろいろな人の話に耳を傾けるべきです。もちろん、それは就業時間内に行うべきであって、飲み会の場を安易に使うべきではありません。
(出口 治明/Webオリジナル(外部転載))
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