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サッカー・コーチと関係を持ち、妊娠して棄てられた14歳の少女は売春を始めた…衝撃作『少年と少女』が描いた“台湾社会の暗部”

文春オンライン / 2024年7月26日 6時10分

サッカー・コーチと関係を持ち、妊娠して棄てられた14歳の少女は売春を始めた…衝撃作『少年と少女』が描いた“台湾社会の暗部”

『少年と少女』台湾版ポスター ©Rise Productions Co.,Ltd.

〈 殺人を目撃したダンサーを追う漫画家兼殺し屋。台湾映画のイメージを覆す幻の作品『逃亡者狂騒曲』 〉から続く

 リム・カーワイ監督をキュレータ―に迎えてリニューアルした「台湾文化センター 台湾映画上映会」。その第4回が7月21日、東京外国語大学(東京・府中市)で開かれた。日本では虐待から売春や麻薬にかかわる少女を描いた『あんのこと』がヒットしているが、今回上映されたのも過酷な状況におかれ罪に手を染めていく少年少女を描いた衝撃的な新作。上映後に行われたトークイベントの模様をレポートする。( #1 、 #2 、 #3 を読む)

◆◆◆

町を出るため売春とドラッグに手を染める二人

 この日上映されたのは、2023年製作の『少年と少女』。トークイベントには、同作のシュウ・リーダ監督と、三澤真美恵・日本大学文理学部教授(台湾映画史研究)が登壇した。

『少年と少女』

寂れた海辺の小さな町で、無気力な14歳の少年は、貧しく親のない14歳の少女と出会う。少女はサッカーのコーチと関係を持ち、妊娠して棄てられたばかりだった。秘密を知った少年は、少女にコーチから金をせしめる計画を持ちかけるが、計画は失敗。町から出ていくために、すべてから逃げ出すために、少女が売春をし、少年がドラッグを売ることで金を稼ごうとするが……。台湾の暗部に焦点を当てた、シュウ・リーダ監督の初長篇作品。主演のふたりは演技未経験だったが、トラヴィス・フーは金馬奨新人俳優賞にノミネートされた。

監督:シュウ・リーダ(許立達)、出演:トラヴィス・フー(胡語恆)、イン・チエンレイ(尹茜蕾) /2023年/台湾/140分/©Rise Productions Co., Ltd.

三澤真美恵教授(以下、三澤) シュウ・リーダ監督は、台湾で今最も期待されている若手の監督のひとりと言っていいかと思います。初めて監督作を拝見しましたが、題材の重さに圧倒されました。同時に鉛色の空と海、街の凄惨な美しさが胸に突き刺さるような思いがしました。フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』を想起しました。

 日本で台湾は、アジアで初めて同性婚を合法化したり、ジェンダー平等、民主主義指数でアジア1位と、きらきらとした人権立国という印象が強いかと思います。しかしこの映画は、それとは真逆の印象を与えるものでした。

 こうした台湾社会の暗い一面を描くことができる、論じることができることに、台湾を支えている表現の自由を感じます。重い題材を極めて映画的な美しさで提示することで、現代台湾社会のかかえる問題を可視化するとともに、問題の持っている普遍性に気づかせてくれる作品だと思いました。

シュウ・リーダ監督(以下、シュウ) ありがとうございます。

演技経験のない14歳の少年少女にこだわった理由

三澤 地域間格差、単身家庭、DV、警官の汚職、未成年の性売買、子どもに対するネグレクト、ドラッグと、深刻な問題が次々に出てきます。なぜこのような題材を映画にしようと思われたのでしょうか。

シュウ この作品の脚本を書く前に、ドキュメンタリー映画を製作していて、台湾のある小さな村に行きました。そこで、「この村は貧しくて希望がない、子どもたちは皆遠くへ行ってしまう。この状況を映画にしてほしい」と言われたのです。そこから台湾社会が抱える様々な問題を盛り込みました。

三澤 主人公を演じた少年と少女の役者が素晴らしかった。演技経験がなかったそうですが、どのように配役を決められたのでしょうか。

シュウ 今回キャスティングに当たって、演技の経験がないことと、実際に役と同じ14歳であることにこだわりました。普通は14歳の役と言っても、年嵩の俳優が演じることが多いでしょう。しかしそれは避けたかった。なぜなら、高校生になるとほとんど大人に近くなって自由にどこにでも行けますが、しかし中学生なら行動にも制限がありますし、多感な時期の微妙な空気を演出したかったのです。

 まず最初に選んだのが少女を演じたイン・チエンレイでした。彼女はカメラテストで送られてきた映像が非常に印象的でした。背景が伝統的な家庭で、話すのもとても台湾らしい言葉でした。彼女はすぐに決めましたが、逆に少年については難航しました。トラヴィス・フーに決まったのは、撮影の3カ月くらい前です。

三澤 舞台となった町や海に寂寥感があり、印象的です。

シュウ そうですね。撮影を行ったのは台湾の西部の町です。美しい場所ですが、どこか寂しさを感じさせるのです。そのせいか、そこで映画を撮る人は多くありません。

性的なシーンの演出で気をつけたこと

 会場からは、演技経験のない14歳の少年少女に対し、性的なシーンをどのように気をつけて演出をしたのか、という質問があった。

シュウ 14歳の少年少女にインティメイトな(親密な)シーンを演じてもらうのにはたいへん気を使いました。いま台湾でも多くなっていますが、*インティマシー・コーディネーターを入れ、少年少女の家族にも説明をしました。実際の撮影では、何度もリハーサルをしてひとつひとつ確認してから撮影しました。14歳の彼らは恋愛経験が豊富でなかったり、こうしたシーンの動作・行為がどういう意味を持つのか、それを伝えて演技をさせなければならなかったのですが、なかなか難しかったですね。

 また、少女が売春することでお金を稼ぐという極端な手段に出るのはなぜか、という質問に対して、監督はこう答えた。

シュウ 少女の価値観では自然な方法だったといえるかもしれません。最初に、サッカーのコーチに身体を弄ばれ、無情にも棄てられたことから、自分の身体には価値がない、他の誰が好きにしてもいいじゃないかと。幼くはありますが、14歳ではこう考えてしまうこともあるのではないかと思います。

そこに生きる人を感じることができる台湾映画の魅力

 最後に、台湾映画の魅力について二人が語った。

三澤 台湾の映画はきらきらした映画だけではなく、社会批判を含んでいます。それが台湾社会の包容力であり、台湾映画の魅力だと思います。さきほど監督と話した際に、この映画の少年のように、台湾には未来に対する不安感があると言われていました。ウクライナ戦争が始まった後に、しばしば台湾のことが言われるわけですが、地政学的な台湾ではなく、台湾の人を想像してほしいと思います。台湾に生きている人を感じるのに、映画はとても魅力的な媒体であることをあらためて感じました。

シュウ 台湾映画の魅力は多様性にあると思います。今回の台湾映画上映会のラインナップ7作品を観てもとても多様な作品が並んでいます。映画監督としては、台湾で映画を撮るのは、資金さえ集めることができれば、どんな題材でもどんな角度でも制限はない。その自由こそが台湾映画の魅力だと思います。

*インティマシー・コーディネーター 制作側と俳優の間に立って、性的なシーンについての演出の意図を的確に俳優に伝えるとともに、演じる俳優を身体的、精神的に守りサポートする専門のコーディネーター。

(週刊文春CINEMAオンライン編集部/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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