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傷口からダラダラとウミを流す者、手榴弾で自決する者…“白骨街道”と呼ばれた“地獄のインパール撤退戦”《兵士の証言》

文春オンライン / 2024年8月12日 6時10分

傷口からダラダラとウミを流す者、手榴弾で自決する者…“白骨街道”と呼ばれた“地獄のインパール撤退戦”《兵士の証言》

©AFLO

 “日本軍の自滅”としてのみとらえられがちなインパール作戦を、イギリス、インドの資料や現地取材により再検証したのが『 インパールの戦い ほんとうに「愚戦」だったのか 』(文春新書)である。本書より一部抜粋し、兵士たちの証言と共に、凄惨を極めた“地獄の撤退戦”を辿る。(全2回の前編/ 続き を読む)

◆◆◆

「白骨街道」と呼ばれるほど凄惨だった撤退戦

 インパールやコヒマからの撤退戦は、「白骨街道」と呼ばれるほどに凄惨なものだった。ここで、コヒマの戦いに参加した第31師団のある兵士が戦後に記した回想を紹介しよう。

〈「わたしたちの部隊は、『烈』兵団の指揮下にあって、インパールの後方を遮断するコヒマを占領していました。しかし、いくら待ってもインパールは落ちません。それどころか、コヒマは前方インパールと、後方リマプール〔ディマプル〕の敵軍によって挟撃されるにいたったのです。前後から敵弾が飛来するわたしたちの上に、雲が低くたれこめて、雨がやってきました。恐ろしいモンスーンがついにきたのです。ずぶ濡れの中で、糧食も、弾薬もなくなりました。下がるに下がれない雨中ですが、そうしていれば、餓死のからだを白くさらしてしまうだけ、という絶体絶命の時を迎えたのです」〉

〈「ビルマに向かって、降りつづける雨の中を、アラカン山脈四十九の山ごえが待っている敗兵の行軍です。一山こすのに一日。谷まという谷まは急流となって、ゴウゴウと音を立てています。衰弱したからだは、その流れに負けてしまうのです。食べるものはなにもありません。わたしたちが噛んでいたのは、とちゅうにはえているタケノコだけでした」〉

〈「死は死を呼ぶといいますが、わたしは目のあたりにそれを、つぎからつぎへと見ました。ひとりが倒れて息絶えると、そのそばにヨロヨロと寄って行って、ばったり倒れるのです。そのようにして、二十人、三十人と折りかさなり、水ぶくれになって、降りしきる雨にさらされている死体のかたわらを通りすぎ、何十日かののちにようやくビルマにはいりました」〉

 この兵士は、一九六四年の東京オリンピックの女子バレーボールで「東洋の魔女」の異名をとった日本代表チームを率いて、金メダル獲得に導いた大松博文監督だ(引用部分は大松博文『おれについてこい!』pp.229-230)。

手榴弾で自決する者、ウミを垂れ流す者…地獄絵図そのままの戦場

 しかし、「白骨街道」という呼び方すら甘いという指摘もある。戦後、女性下着メーカーのワコールを創業する塚本幸一は、徴兵されて第15師団の一兵卒としてインパール作戦に参加した経験を持っている。彼も戦後に残した回想で、撤退時の様子をこう振り返っている。

〈「飢餓と豪雨、それに悪性のマラリア、赤痢などの疫病による悪夢のインパール退却行だった。これを後年の戦記では、『白骨街道』とか『靖国街道』とか呼んでいるが、“街道”というような生やさしいものではない。アラカン山系の道なき道を、谷から谷へ逃亡するのだ。その日本軍を敵は容赦なく追ってくる。
 

 悲惨なものである。われわれは、ただ歩いているだけである。いや、歩ける者はよい。行く道には、既に白骨になっている者、半死状態で、通り過ぎて行く戦友に何かを語りかけようとしている者。負傷した傷口からダラダラとウミを流しながら、放心状態で座っている者。もうそれは地獄絵そのままである。時折りあちらこちらの谷から、手榴弾で自らの生命を絶っている音が聞えてくる。その上、雨期はますます激しくなり、道が泥水の川となって、逃亡するわれわれを苦しめる。」(塚本幸一『塚本幸一 わが青春譜』pp.167-168)〉

 彼らの回想にあるように、携行していた3週間分の食糧はとっくに尽きていた。その上、豪雨のなかを幾重にも連なる山を越えていかなくてはならなかったのである。生還できただけでも奇跡と呼ぶべきものだった。

〈 「英印軍は中国軍より弱い。補給についてとやかく心配することは誤りである」インパール作戦の失敗を招いた指揮官・牟田口廉也の“驕り” 〉へ続く

(笠井 亮平/文春新書)

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