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「英印軍は中国軍より弱い。補給についてとやかく心配することは誤りである」インパール作戦の失敗を招いた指揮官・牟田口廉也の“驕り”

文春オンライン / 2024年8月12日 6時10分

「英印軍は中国軍より弱い。補給についてとやかく心配することは誤りである」インパール作戦の失敗を招いた指揮官・牟田口廉也の“驕り”

写真はイメージカットです ©AFLO

〈 傷口からダラダラとウミを流す者、手榴弾で自決する者…“白骨街道”と呼ばれた“地獄のインパール撤退戦”《兵士の証言》 〉から続く

「日本型組織の最大の失敗例」としていまだに語り継がれるインパール作戦。無敵を誇っていたはずの日本軍はどこで間違えてしまったのか。ここでは 『 インパールの戦い ほんとうに「愚戦」だったのか 』(文春新書)より抜粋。指揮官・牟田口廉也の残した言葉と共に敗因を振り返る。(全2回の後編/ 前編 を読む)

◆◆◆

「英印軍は中国軍より弱い」牟田口廉也の“驕り”

 最初の成功体験に引きずられてしまったことも、その後の英印軍に対する過小評価をもたらすことになった。

 牟田口は第18師団長だった1942年2月、シンガポール攻略で最大の要衝、ブキテマ高地の占領に成功した。英軍にとってアジアの最重要拠点だったシンガポールを陥落させた立役者は、牟田口だと言っていい。しかし問題は、そのときの経験が「英軍取るに足らず」という認識を彼に植え付けたことだった。インパール作戦発起前の時点で、牟田口はこう語っている。

〈「英印軍は中国軍より弱い。果敢な包囲、迂回を行なえば必ず退却する。補給を重視し、補給についてとやかく心配することは誤りである。マレー作戦の体験に徴しても、果敢な突進こそ戦勝の捷路である」(『戦史叢書 インパール作戦』p.153)〉

 牟田口は中国でもシンガポールでも戦ってきたのだから、彼なりに実感があっての発言だろう。しかし、このときからの2年間で、英印軍は大きく変貌を遂げた。1944年にインパールで相対した英印軍は、シンガポールの英軍とは別物になっていたのだ。

 この間、認識を改める機会がないわけではなかった。1943年にウィンゲートによる長駆浸透作戦が行われた際、牟田口は掃討に当たった。印緬国境を越えて日本軍の背後まで移動してきた「チンディット」を目の当たりにして、彼のビルマ防衛に対する認識が根底から覆されたことは第5章で見たとおりだ。これがきっかけで1度は棚上げされたインド北東部進攻作戦が牟田口のなかで急速に現実味を帯びていったのである。ところが、チンディット来襲は、なぜか戦う相手である肝心の英印軍に対する見方には影響を及ぼさなかったようだ。

 これは、牟田口個人の問題という以上に、日本軍全体にはびこっていた認識だったのかもしれない。対米英戦開戦時、南方に向かう日本軍将兵は誰もが一冊の小冊子を携えていた。『これだけ読めば戦は勝てる』という、70ページからなるポケットサイズの冊子だ。

「勝って兜の緒を締めよ」とはならなかった

 英軍を初めて相手にするマレー作戦やシンガポール攻略に際して、戦いの意義から船中での過ごし方、戦闘の各段階の解説までを平易な文章で記したもので、移動中の船内で将兵全員に配付されたという。作成者は「大本営陸軍部」となっているが、実際には1941年当時、台湾軍に在籍していた辻政信参謀が中心となってとりまとめたものである(辻政信『シンガポール─運命の転機─』)。

 そのなかに「敵は支那軍より強いか」という項目があり、こう記されている。

〈「今度の敵を支那軍に比べると将校は西洋人で下士官兵は大部分土人であるから軍隊の上下の精神的団結は全く零だ、唯飛行機や戦車や自動車や大砲の数は支那軍より遥かに多いから注意しなければならぬが旧式のものが多いのみならず折角の武器を使うものが弱兵だから役には立たぬ、従って夜襲は彼等の一番恐れる所である」(『これだけ読めば戦は勝てる』p.15)〉

「上下の精神的団結は全く零」「弱兵だから役には立たぬ」といったあたりに、植民地軍としての英軍に対する侮りがうかがえる。しかも、序盤の南方戦線で英軍が早期に降伏したことで、日本軍の将兵はこれに書かれているとおりだと思ったとしても不思議ではない。

「勝って兜の緒を締めよ」とはならなかったのである。

(笠井 亮平/文春新書)

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