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「命をかけてその程度か」“日本を守る”自衛官の意外な給料事情…「退職金3000万円」でも“恵まれていない”ワケ

文春オンライン / 2024年8月2日 6時10分

「命をかけてその程度か」“日本を守る”自衛官の意外な給料事情…「退職金3000万円」でも“恵まれていない”ワケ

写真はイメージです ©YANCHINGNOW/イメージマート

 自衛官の定年は一般企業、他の公務員よりも早く、年間6000人の退職者の大部分が55歳前後だという。定年後も大企業顧問、研究機関の長、大学、メディアなどで活躍できるのは、一握りの超エリート自衛官だけ。そのほかの自衛官はどんなセカンドキャリアを歩み、どのような現実と向き合っているのだろうか?

 ここでは、防衛大出身の作家・松田小牧氏が、自衛官のセカンドキャリアを追った著著『 定年自衛官再就職物語 - セカンドキャリアの生きがいと憂うつ - 』(ワニ・プラス)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)

◆◆◆

自衛官の年収は300万円未満から1000万円以上まで

 自衛官はどの程度の給料をもらっているのか、そして辞めた後はどうなるかについて、ここで説明しておきたい。

 自衛官の給与は、階級や勤続年数、職務の成果などからなる号棒によって決まる。自衛官の給与を規定している俸給表によると、陸将・海将・空将では70万6000円から117万5000円、一佐では39万6200円から54万5100円、1尉では28万1200円から44万6000円の範囲となっている。

 この基本給に加え、夏、冬には合わせて4.5か月分の給与が支給される。給与は職種や環境によっても異なり、艦船に乗り組む場合には乗り組み手当、航空機を操縦する場合には飛行手当が支給され、艦船に搭載された航空機のパイロットは乗り組み手当と航空手当が支給される。

 自衛官の平均年収は、鳥取地方協力本部が公開しているデータによると、幹部自衛官では25歳約510万円、30歳約610万円、35歳約730万円、40歳約870万円、45歳約900万円、50歳約980万円となっている。

 一方、准曹では、25歳約400万円、30歳約480万円、35歳約570万円、45歳約640万円、50歳約700万円、55歳約750万円という数字だ。これらの目に見える給与に加えて、官舎には破格の家賃で住むことができるし、駐屯地・基地内では栄養とボリュームと美味しさが確保されたご飯を喫食することもできる。

再就職後の賃金の差異

 2021年度の民間給与実態統計調査によると、日本人の平均給与は443万円。これを年代別に見ると20~24歳269万円、25~29歳371万円、30~34歳413万円、35~39歳449万円、40~44歳480万円、45~49歳504万円、50~54歳520万円となっている。どの年代においても自衛官のほうが高いことがわかる。

 給与だけを見て、「自衛官、案外恵まれてるじゃん」と思うか、「命をかけてその程度か」と思うかは人によるだろう。

 そして再就職後の賃金は、職業によってももちろん差異はあるが、大きくは階級によって異なる。公務員的な発想から、「同じ1佐だったのに、あいつは1000万円で俺は500万円しかもらえない」といった事態はまず発生しない。将官であれば少なくとも800万円以上の水準にあり、1000万円を超えるケースも珍しくない。

 そして1佐で500~700万円台、2佐で400~500万円台、3佐で400万円台、尉官で400万円前後、准曹で300万円台が基本となっている。また再就職先の給与は、地域でも異なる。やはり関東近辺は高いが、北海道、東北や九州地方は低い傾向にある。

命をかける軍隊組織だからといって特別扱いされない

 確かに、退官までの年収は決して低いわけではない。とはいえ、いまや自衛官が年金をもらえるようになるのは65歳。民間企業の勤め人とまったく同じ年齢だ。年金がもらえるまで10年間ほど、働かずに生きていくという選択肢を取れる自衛官はそう多くはないだろう。自衛隊をよく知らない人の中には、「恩給のような形で、退官するといくらかもらえるのでは?」や「その分退職金がいっぱい出るんでしょ?」といった思いを持っている人もいるようだ。その点についても簡単に説明したい。

 年金については現在、65歳になるまでにもらえる年金はない。確かにかつての軍隊には、ある程度在籍するか、戦争で怪我をした場合などに「恩給」をもらえる制度があった。具体的な在籍年数は、実際に軍隊にいた期間と加算年を合わせて准士官以上13年、下士官以下12年となっている。要件に当てはまる方々への恩給は、令和となったいまも払われ続けている。

 ただし、制度としては1959年の国家公務員共済組合法の施行に基づき恩給制度から共済年金制度に移行。命をかける軍隊組織だからといって特別扱いされなくなった経緯がある。それでもかつては共済分のみ65歳以前に支給されたが、厚生年金制度に統一されたいま、それもなくなった。

 ちなみにアメリカでは、軍人の年金制度が一般公務員とは別に設けられており、20年勤務すれば退役直後から年金を受給することができる。つまり、高卒で入隊した場合には、40歳を前にして年金を受給することができるというわけだ。

「退職金3000万円超」は恵まれているのか

 次に退職金について。年金についてはほかの公務員と変わらないと述べたが、退職金に関しては自衛隊特有の加算がある。幹部(3尉以上)の退職金は約2700万円、准曹は約2100万円だが、それに加えて「若年定年退職者給付金」が支払われる。これはあけすけに言えば「年金受給開始までの期間の足しにするためのお金」の性格を持つ。すぐに再就職してもまず確実に給与が下がるため、年金給付まではその減少分を補填するという位置づけだ。

 この制度に基づき、1佐以下で退官した自衛官に対しては、退職金に加えて約1000万円が支給される。

 また2023年4月に国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げることなどを定めた改正国家公務員法が施行されたが、それに伴い、若年定年退職者給付金の支給算定期間もこれまでの「60歳」から「65歳」に引き上げられることとなった。必然的に今後は、若年退職者給付金の支給額は増加することが見込まれる。

 それを前提として、2024年4月現在では、56歳・3佐(旧日本軍でいえば少佐、一般企業の課長クラス)・俸給44万8100円で退職する場合は、退職金と給付金を併せ約3900万円を受け取ることになる。56歳・曹長(一般企業の主任クラス)・俸給34万82000円の場合は3000万円ほどである。

「退官後は働かず、あとは年金で暮らす」というのは難しい

 民間大企業の平均退職金は大卒総合職で2563万9000円、高卒総合職で1971万2000円(中央労働委員会「2021年賃金事情等総合調査」)。国家公務員の退職給付の支給水準見直しによって自衛官の退職金も数百万単位で減少したとはいえ、自衛官は退職金だけでも大企業の労働者の平均よりも高い。

「退職金に加えて1000万円を支給する」と聞けばうらやましい話にも思えるかもしれないが、56歳定年とすれば年金受給までは9年、年間約111万円の上乗せにすぎない。当然すぐさま再就職する必要がある。

 さらなる注意点もある。それは、稼ぎすぎた場合には返納しなくてはいけない点だ。もともと、この若年給付費金の目的は、年金開始までの収入の補填にある。その趣旨に照らし合わせたとき、「若年給付金をもらわなくても自分で稼げるなら、渡したお金は返してね」と迫られるわけだ。また一度返納してしまえば、その後給与が激減したとしても再度もらえることはない。

 これと同じような制度が、老齢厚生年金にもあることをご存知の方もいるだろう。「年金だけじゃ不安だから働こう」と思って働くと、年金支給が停止されてしまう仕組みだ。この仕組みは「中途半端に働いて年金が減らされるくらいなら、もう働かない」と考える人を増やしているとして、しばしば批判の的ともなっている。

 また中には、「退職金があるし、再就職もしているから若退金は使ってもいいや」と散財したり、投資で失敗したりするケースもあるという。そのようなケースを差し引いたとしても、現代の多くの自衛官にとっては「退官後は働かず、あとは年金で暮らす」という生きかたは難しい。

〈 「いやだ、人殺しの訓練してた人なの」54歳で陸上自衛隊を退職した元自衛官が、転職後に突きつけられた“悲しい現実” 〉へ続く

(松田 小牧/Webオリジナル(外部転載))

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