「どれだけすごい人間やねん!」池江璃花子が“育ての親”を感嘆させた“復活劇”
文春オンライン / 2024年7月31日 6時0分
![「どれだけすごい人間やねん!」池江璃花子が“育ての親”を感嘆させた“復活劇”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72426_0-small.jpg)
東京五輪での池江璃花子 ©JMPA
〈 「医師から水に顔をつけることを禁じられていた」育ての親が語る“規格外の選手”池江璃花子がプールに帰ってきた日 〉から続く
パリオリンピックで女子100メートルバタフライに出場した池江璃花子さんは、2019年に白血病を公表し、療養生活に専念した後、復活を果たした。池江さんの成長を中学2年から見守ってきた“育ての親”、ルネサンス元社長の吉田正昭氏が、当時の様子を語った「文藝春秋」のインタビューを紹介する。
「“真ん中”って緊張する」
実戦復帰は2020年8月。東京辰巳国際水泳場で行われた東京都特別水泳大会です。最寄りの新木場駅から汗だくになって、私が到着すると、会場の外にうちのスタッフ、マネジャーと璃花子が所在なさげに立っていました。
「おう、なにしてんの」と聞くと、「いや、もう中が寒くて」って言う。
普段は、レース前に外に出るような子じゃない。会場の控室にいることが落ち着かなかったのでしょう。珍しく緊張しているように見えました。
いざレースが始まればもういつも通りの璃花子で、自分のペースで泳いでいるように見えました。
50メートル自由形に出場し、5位とはいえ、26秒32と目標のタイムを大幅に上回る結果に。レース後、彼女は「第2の水泳人生の始まり」と話していましたが、幸先のいいスタートとなりました。
調子を取り戻してきたのが、2021年2月のジャパンオープン。予選を1位通過した璃花子は、決勝で第4レーン、つまり中央のコースを泳ぐことになりました。
「定位置に戻ってこれたな」
「真ん中って、やっぱり緊張します」
「いつも泳いでいた自分のコース。緊張しないやろ」
控え室でそんなやりとりをしましたが、ようやく自分のホームグラウンド、ホームコースに帰ってきたという思いが強かったのかもしれません。緊張とわくわく感が入り混じっていたんでしょうね。
約2週間後の東京都オープンでは、50メートルバタフライで優勝。五輪種目ではありませんが、目標を大きく上回るタイムで日本学生新記録を樹立しました。バタフライの練習を本格的に再開してから1週間ほどの時期でしたから、本人も手ごたえを感じていたようです。
「ラスト10メートル」を克服
そして2021年4月の日本選手権。東京五輪の選考会を兼ねた大会で、璃花子は出場した4種目すべてで優勝するのです。
ここで勝つって、どれだけすごい人間やねん! 璃花子のアスリートとしての才能、そして人間力にただただ圧倒されるばかりでした。
2日目に行われた100メートルバタフライ決勝。ゴール後、電光掲示板のタイムを確認するや、右手で何度もガッツポーズを作っていました。東京五輪代表の座を勝ち取ることができたのです。
本当に考えられないことでした。プールに復帰してから、わずか1年。まだ身体も元に戻っていない状態で日本のトップに返り咲くなんて……。復帰したばかりの時期に出場したレースから見守ってきたので、衝撃的でした。
「自分が勝てるのはずっと先のことだと思っていた。つらくてしんどくても、努力は必ず報われると思った。仲間たちが全力で送り出してくれて、いまはすごく幸せ」
インタビューで涙ぐむ璃花子の姿を目の当たりにして、私も思わずウルッとしてしまいました。
実はこの前日、100メートルバタフライの準決勝が終わったあと、たまたまクールダウンを終えた璃花子と会場で会いました。当時の課題はラスト10メートル。復帰したばかりで筋力が万全でないため、どうしても終盤にペースダウンをしてしまうレースが続いていました。
このときも「後半きつかったか?」とたずねると、「きつかった。ものすごくきつかったです」と。「今回は優勝を狙っていないので、とにかく楽しんできます」って笑顔で話していました。
しかし結果は、翌日の100メートルのバタフライ決勝で最後までスピードが落ちることなく優勝しました。これによって残りのレースについて考え方が大きく変わったと思います。残りの100メートル自由形、50メートルバタフライ、自由形での優勝につながったのです。
さらに彼女が凄いのは、この日本選手権で、次のレースを見据えた泳ぎをしていたことです。
100メートル自由形の準決勝において、前半のペースがかなり遅かった。7位で折り返したと思いますが、体力が限界に来てしまったんじゃないかと心臓が止まりそうになりました。結局、後半に追い上げ、首位で決勝に進みました。
あとでコーチに聞くと、どれくらいの距離であれば、先頭の選手から離されても後半で追い付けるか確認していたそうです。それを聞いて、本当にすごいアスリートだなと感服しました。
◆
本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 池江璃花子は病室で笑った 」)。
(吉田 正昭/文藝春秋 2021年9月号)
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