岡村隆史の影響で5歳からダンス漬け→17歳でパリ五輪「金メダル候補」に…「ブレイキン」国内トップ選手・RAM(23)が語る“激動のダンサー人生”
文春オンライン / 2024年8月9日 11時0分
![岡村隆史の影響で5歳からダンス漬け→17歳でパリ五輪「金メダル候補」に…「ブレイキン」国内トップ選手・RAM(23)が語る“激動のダンサー人生”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/bunshun/bunshun_72452_0-small.jpg)
「ブレイキン」国内トップダンサー・RAMさん ©平松市聖/文藝春秋
〈 「審査員の好みによって結果は変わってしまう」パリ五輪注目の新競技「ブレイキン」国内トップ選手・RAM(23)が解説する“観戦ポイント” 〉から続く
7月26日に開幕し、数々の名シーンが誕生しているパリオリンピック。8月9日、8月10日には、注目の新競技「ブレイキン」が行われる。各国の出場者が、DJの流す曲のリズムやビートに即興で動きを合わせて、個性あふれるダンスを競う。日本からは男女4人が出場し、史上初のオリンピックメダルを目指す。
今回、惜しくも日本代表に選ばれなかったのが、ブレイキン国内トップ選手の河合来夢さん(23歳、ダンサーネーム・RAM)。2018年に行われたユースオリンピックで金メダルを獲得し、パリオリンピックでの金メダル候補とも言われていた。彼女は、5歳から始めたブレイキンとどのように向き合い、日本代表落選をどんな気持ちで受け止めたのか――。(全2回の2回目/ 1回目から続く )
◆◆◆
母が岡村隆史やゴリのダンスに憧れて…
――RAMさんがブレイキンを始めたきっかけは?
河合来夢さん(以下、RAM) 5歳のときに母に連れられて、近所のダンススクールに行ったのがきっかけです。いわゆる「習い事の一環」として、始めました。
――なぜお母さんはRAMさんをダンススクールに?
RAM 母が学生の頃、ナインティナインの岡村隆史さんやガレッジセールのゴリさんがブレイキンを踊るテレビ番組を観て、「自分も踊ってみたい!」と思ったものの、運動が苦手で断念したのだそうです。
私が生まれてから、「自分の子どもには、運動が苦手で何かを諦める経験をさせたくない」と考えていたところ、近所にブレイキンを教えるダンススクールがあるのを知って。ブレイキンなら、子どもが楽しみながら運動できるんじゃないか、ということで。
「楽しい」より「辛い」と思う時期が長かった
――初めてダンススクールに行ったときのことは覚えていますか?
RAM はい。最初にスクールに行ったときは人見知りで大泣きしてしまって。先生に抱きかかえられながらレッスンを受けたのを覚えています。2回目のレッスンは、「次のレッスンを頑張ったら、来夢が欲しがっていたルービックキューブを買ってあげる」という母の言葉につられて、しぶしぶ行きましたね(笑)。
そのあとも、「楽しい」より「辛い」と思う時期が長くて。スクールに行けば友達と会えるし、そこでダンスを踊るのは楽しいんだけど、とにかく練習がしんどかったんですよね。
どのスポーツにも言えることかもしれませんが、頑張って練習してできるようになったことが、次の日にはなぜかできなくなる。「今日はできた!」「次の日はダメだった」の繰り返しで、その「ダメな日」が発表会や大会と重なることも多い。思うようにいかない感じがすごく辛くて、小さい頃は「親が通えって言うから……」と思いながらスクールに通っていました。
「その瞬間を求めている」辛い練習を続けられた理由
――辛い思いをしながらも続けられた理由は、なんだったのでしょうか?
RAM ブレイキンを通じて、世界がどんどん広がっていく感覚があったんです。年齢も性別も違う友達ができたり、仲間と一緒にひとつの目標に向かって頑張ったりと、学校に通うだけではできないような経験がたくさんできて、刺激になりましたね。
また、これまでできなかったことが突然できるようになって、みんなの前でうまく踊れた瞬間は、本当に嬉しいんです。思うようにいかないときは不安だし辛いけど、「その瞬間」を求めているときの緊張感は、たまらないんですよ。
――ブレイキンにのめり込むようになったのは、いつ頃から?
RAM 「もっとブレイキンをがんばりたい」と思い始めたのは10歳の頃です。その頃、初めてバトル(向かい合って交互に踊り、勝負を決める)に出たんですよ。
ルールは曖昧にしか理解していないし、どんな人が参加するのかもよくわからないまま舞台に立ったら、案の定、予選落ちして。ものすごく悔しくて、そこからスクールのレッスンも、練習も増やしていきました。
世界的ダンスチームのスクールに入学してダンス漬けの生活
――大会での優勝や、世界を意識し始めたのは。
RAM 「世界」を意識し始めた時期は、はっきりとは覚えていません。でも、中学生の頃には「やるからには、世界を目指したい」と考えるようになっていました。中学3年生のとき、母に頼んで世界的ダンスチーム「THE FLOORRIORZ」が運営するスクール、「THE FLOORRIORZ ACADEMY(現:BREAKING ACADEMY)」に入学。その頃は、学校と食事とお風呂と寝る時間以外はダンス漬けの生活を送っていましたね。
「自分がやりたいから、ブレイキンを頑張る」と思うようになったのも、この頃からです。日々の練習の積み重ねや試合での勝ち負けを繰り返して、少しずつ世界を意識するようになっていきましたね。
ユース五輪で優勝し、「パリ五輪の金メダル候補」と言われていたが…
――その後、17歳のときに、2018年に行われた世界ユースブレイキン選手権の女子の部で優勝、そして同年のユースオリンピックでは、女子ブレイキンと混合団体の両方で金メダルを獲得しました。目指していた世界が現実のものとなったときの心境はどうでしたか?
RAM 世界的チームで練習していて、自分より圧倒的に上手な人を毎日見ているからか、今も昔も「世界に辿り着いた」とか「うまくなった」と思ったことがなくって。
「この人が同じ大会に出ていたら、優勝できなかったかもしれない」という人が、日本国内だけでも大勢いるんですよ。昔はそれで落ち込むこともありましたが、今は「私も見習ってもっと頑張らなきゃな」とモチベーションになっています。
――2024年パリオリンピックの競技種目へのブレイキン採用が検討され、「ブレイキンの競技入りが決まったら、金メダル候補のひとりだ」と言われていたのもこの頃ですよね。
RAM そうですね。結果として日本代表にはなれずに悔しい思いはしたのですが、今は「この悔しさを次につなげていかないとな」と思っています。
代表選考レースをしていた期間は悪循環が続いていた
――オリンピック代表落選に対する率直な思いを聞かせていただけますか。
RAM 代表選考レースをしていた期間は、怪我をしてしまったり、メンタル的にも不安定だったりして、いろんな意味で“それどころじゃなかった”んですよね。
やるからには勝ちたい、世界を目指したいという気持ちはもちろんありました。ユースの大会で優勝したことで、応援してくれる人も増えている。友人や家族も支えてくれている。だからこそ頑張らなきゃ、もっと練習しなきゃって空回りしていたというか。「どうしたら失敗しないか」「どうしたら評価されるか」ばかり考えて、ブレイキンを楽しめなくなっていったんです。
楽しくないから、自分の踊りに納得できない。そうすると、「本当にこれでいいのかな」って不安が積み重なって、本番でうまくリズムに乗れなかったり、練習では絶対しないようなミスをしてしまったり。そうするとさらに自分のダンスに自信がなくなる。そんな悪循環が続いていた時期でした。
悪循環を乗り越えられた“きっかけ”
――今はブレイキンとどのように向き合っていますか。
RAM 一時期のような悪循環は乗り越えられました。それは、「メンタルトレーニング」を始めたことがきっかけのひとつかもしれません。
メンタルトレーニングをしていく中で、自分の一番の敵は自分だって気がついて。競技だからもちろん戦う相手はいるけど、まずは、自分に勝たないと先に進めないなって思ったんです。
今振り返ると、あの頃の私は自分を信じてあげられてなかった。「失敗するかも」「負けちゃうかも」と思いながらバトルしていました。世界を目指して頑張ると決めたなら、それに向かって走りきらなきゃいけなかった。一度も振り向かずに走りきれたら、万が一結果は出なかったとしても、後悔はしなかったと思うんですよね。
それに気づいてからは、マインド面ですごく変化があって。周りにどう見られるかじゃなくて、自分が納得できるダンスを追求できるようになりました。そしたら、先日開催された世界的なブレイキンバトルイベント「Red Bull BC One」の予選で、東京代表に選ばれて。本選で負けてしまい日本代表にはなれなかったのですが、自分らしいダンスで次につながる結果が出せるようになったのは、嬉しかったですね。
今までの経験から、子どもたちに伝えたいこと
――最後に、今後の目標を教えてください。
RAM まずブレイキンの話で言うと、私なりに世の中に浸透させる手伝いができたら、と思っています。SNSでブレイキンの魅力を発信したり、今日のように取材を受けたり。あとは他の競技の人たちとの交流も増やしていきたいです。
もっと個人的な話で言うと、子どもたちの背中を押す活動がしたいです。実は、今年の4月から公立小学校で非常勤講師をしています。ブレイキンを続けながら先生として働くのは、体力的に大変なことも多い。それでもいつか、クラスの担任になりたいなと思っています。これまでの経験から、「1回でもいいから、何かをやり遂げることの大切さ」を子どもたちに伝えたいんです。
ブレイキンをする中で、辛いことや落ち込むこともたくさんありました。それでも続けていくうちに、自分のことを好きになれたな、と思っていて。その経験を、子どもたちにもしてほしい。ダンスじゃなくて、他のスポーツでも、勉強でもなんでもいい。子どもたちが、何か1つ頑張れるものを見つけるサポートをしたいんです。目標実現のためにも、学校の先生もブレイキンも、どちらもまだまだ頑張っていきます!
撮影=平松市聖/文藝春秋
(仲 奈々)
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