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「ただ議会で質問すればいいという問題ではない」10年にわたって“質問回数ゼロ”…当選7回・ベテラン地方議員の「驚きの言い分」

文春オンライン / 2024年8月13日 11時0分

「ただ議会で質問すればいいという問題ではない」10年にわたって“質問回数ゼロ”…当選7回・ベテラン地方議員の「驚きの言い分」

写真はイメージ ©getty 

〈 「反対するといじめられる」「議会に緊張感がなくなる」それでも地方政治から「ボス議員」がいなくならない理由 〉から続く

 東京から1400キロ余り離れた北海道枝幸町(定数12)。当選7回、在職27年のベテラン議員はなぜ10年間、議会で何も質問しないのか? その驚きの言い分を、全国1788の地方議会(都道府県・政令指定市・市区町村)と、そこに所属する約3万2000人の議員すべてを対象とした大規模アンケートを行った、NHKスペシャル取材班による新書『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

「どうして質問しないんですか?」

 単刀直入にこの男性に尋ねた。バツの悪そうな表情をするのかと思いきや、当然と言わんばかりの態度で、「質問するという強い思いはない」と言い切るのだ。

 主張はこうだ。そもそも議員とは町民の意見を行政に届ける橋渡し役である。それぞれの住民の意をくんで、利害の調整を図ることが仕事だという。つまり、この男性は町内に持つ幅広い人脈を使い、いわゆる“根回し”を展開するわけだ。彼によれば、議会で質問しなくても、町政は円滑に進むという。

 話を聞けば聞くほど、疑問は出てくる。そもそも、全国町村議会議長会が発行する議員の心得を記した指南書『議員必携』には、「議会での発言こそが議員活動の中心」と書かれている。「議会での質問」こそが、大事な役割の一つのはずなのだ。

「質問回数ゼロ議員」の言い分

 その役割を放棄してどのような政治活動をしているのか。ある日の活動に密着することを許された。

 男性が出かけたのは、町内の温泉施設にある一室。そこには、数名の高齢の女性たちがいた。女性たちは、長年男性を支援している住民だ。

「これだけはしてほしいんだっていう、町に要望みたいのない? そしたら、そういう話は俺が持って行くようにするから」。男性はそう言って、女性たちから、町の中にある困り事を聴取していった。

 女性たちから「ここは港町で魚介類の加工場も多いけど、冬が半年休み。もう少し長い期間仕事あればいいな」とか、「冬の間吹雪とかあるでしょう。そういう時に、夜中、除雪するんですけど、昼間全然してくれない。吹雪の間だけでも昼間に除雪してほしい」などといった要望が、矢継ぎ早に上がった。

 要望を聞いた男性が、その後向かったのは町役場。予算の立案を担う町の総務課長を呼び出した。

「やっぱり町が寂れていってるんじゃないかという話なんだわ。冬に仕事がないというのが一番のネックになってるんじゃないかと。常時、枝幸に残って仕事につけるっていうものがなければ、若い人たちの定住というものが難しいんでないかということを訴えてたね。それと除雪、常にしてもらいたいと。一人世帯になってきてる人が非常に多いということもあって、大変だということなんだわ」

 要望をひとしきり聞いた総務課長は恐縮した様子で次のように答えた。

「町のほうでも認識してるところもありますんで、できることからというんですかね。その辺は考えていければなというところはあります。はい」

 地域を深く愛してきたというこの男性。これまで、町名の「えさし(枝幸)」にちなみ、全国の「さちえさん」や「ゆきえさん」を集めるイベントを開催し、町おこしに貢献してきたことが自らの功績だという。

「やっぱり町民の意向をまず聞いて、行政との橋渡しを自分はしている。自分で考えて質問するのもいいが、ただ議会で質問すればいいという問題ではない」

 男性は、そう持論を展開した。

 自信に満ちた彼の主張にはそれなりの説得力が感じられる。小さなコミュニティの中での意見の調整としてはこうした方法もやむを得ないような気もしてくる。しかし、問題点はないのだろうか。

「口利き」が議員の仕事だった時代もあったが…

 男性議員が、議会を活動の場としない背景には、討論の場となるべき議会が機能していない現状があるのだろう。前出の山梨学院大学の江藤教授は、次のように指摘する。

「右肩上がりの経済成長の時代は、議員の仕事は口利きのようなところがありました。ただし、地方分権が進み、時代が変わって議会に求められる役割は、大きく変わりましたが、肝心の議員には、まだ旧来の意識のままの人が多いのです。かつては公的施設などを作るにしても、『あれも、これも』の時代でしたが、これからは縮小の時代。予算なども限られている中で、公的施設の整備や統廃合、福祉サービスの水準ひとつとっても、『あれか、これか』を絞り込まなければいけなくなります。そうなると、どういう街作りを目指したいか、何に絞り込むかといったことを価値観や意見をぶつけ合いながら決めなければならなくなるので、議会が話し合って決めるという本来の役割の重要性が再認識されるようになるはずです」

(NHKスペシャル取材班/文春新書)

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