プロ野球の世界から吉祥寺東口交番のお巡りさんに…トライアウト1週間後に大田阿斗里(34)を決断させた“妻の一言”
文春オンライン / 2024年8月24日 11時0分
警察官になって8年目を迎えた大田阿斗里さん ©文藝春秋 撮影・橋本篤
毎年の秋に行われる12球団合同トライアウトはシーズンオフの一大イベントだ。戦力外となった選手たちが、NPBへの生き残りを賭けてラストチャンスに挑む一方、引退試合が用意されず寂しく球界を去ることしかできない者にとっては家族に最後のユニフォーム姿を見せるケジメの機会でもある。
プロ野球選手の悲哀が詰まったトライアウトにはNPBや独立リーグのスカウトのみならず、テレビ番組「プロ野球戦力外通告」を放送するTBSのクルーなどメディアが大勢訪れるが、2010年代の中盤以降、明らかに野球界の人間ではないスーツ姿の男たちも散見されるようになっていた。
彼らはプロ野球選手のセカンドキャリアを支援する、いわば第2のスカウトマンだ。多くはプロ野球選手の人脈に期待した保険会社や不動産会社、スポーツジム関係者だが、2016年のトライアウトでは警察官も会場となった甲子園を訪れていた。
警視庁第四機動隊に属する彼らは球場の入り口に机を並べ、パンフレットを配っていた。話を聞くと、警視庁の第四機動隊野球部は、機動隊員の士気を高めることを主な目的として活動しており、また社会人野球の都市対抗出場を目指し、いわば“補強”も兼ねてトライアウト参加者に声をかけているということだった。
9年のプロ野球選手生活で2勝14敗、2度目のトライアウトで…
あの日、パンフレットを受け取ったひとりが、大田阿斗里(34)だ。東京の私立・帝京高校から07年にドラフト3位で横浜ベイスターズに入団した身長188cmの大型右腕である。
8年間在籍した横浜ではわずか2勝(14敗)しかあげられず、15年に戦力外に。同年のトライアウトに参加し、翌16年春のオリックスキャンプでテスト生として参加。育成契約を結ぶと、シーズン中に支配下選手登録を勝ち取った。
だが、半年あまり在籍しただけでオフに戦力外となり、再びトライアウトへ。
「1度目のトライアウト参加はまだまだ野球がやりたい気持ちが強かったんですが、“この1年でダメだったら引退”だと覚悟を決めて臨んだオリックスの1年間で野球は“やりきった”と思えました。本当はトライアウトにも参加するつもりはなかったんですけど、会場が甲子園だったので、特別な思い入れのある場所で最後に投げて終わりたいな、と」
家族の前で引退登板を果たし、その後、会場で配られていたパンフレットを受け取り、持ち帰った。
「トライアウトから1週間が経過し、どこからも声がかからないことがはっきりすると、パンフレットに目を通した妻から警察官の採用試験を薦められました。現役時代に自分が警察官になるなんて考えたこともありませんでしたが、『これだけ野球を頑張れたんだから、どんな仕事でも頑張れるよ』という一言が決め手になりましたね」
警視庁警察官採用試験はトライアウトから2カ月あまりあとの17年1月だった。
結果は一発合格。JR吉祥寺駅東口の交番が最初の勤務地だった。
「道を尋ねられたり、ケンカが起きたら駆けつけるような“町のお巡りさん”」
「仕事の内容は、道を尋ねられたり、ケンカなんかが起きたら駆けつけるような、みなさんが想像される“町のお巡りさん”です。体力には自信がありましたし、不慣れな仕事を大変に思うことはありませんでした。野球選手時代は家を空けることが多く、子供が産まれたばかりだったこともあって妻には迷惑をかけていたんです。
警視庁の警察官なら異動は都内だけですので家族への負担は少ない。ただ、夜勤の経験がなかったので、夜中に仕事することは当初、慣れませんでしたね。ただ、それも時間が解決してくれました」
見ず知らずの人からも応援されるのがプロ野球選手なら、市井の人々に寄り添うのが警察官の仕事だ。交番勤務を終え、第四機動隊に配属されたあとは、即位の礼や東京五輪、G7広島サミットなどの警備も担当した。
「僕自身に抵抗はまったくなかったです。第四機動隊では花火大会など、それまで観客として参加していた会場を警備することもある。それはそれで新鮮でした」
最も不安定なプロ野球選手という職業から、最も安定した公務員という職業へ。
豪腕は転身を遂げた。
〈 「調子が悪いから二軍にいるんだろうなと思ったら」高2の夏に甲子園出場、ドラ3でプロ入りした大田阿斗里(34)が絶望した“2人のバッター”とは 〉へ続く
(柳川 悠二)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
《巡査部長に昇進》「1日8時間も机に向かうなんて人生で初めて」警察官に転身した大田阿斗里が語る、プロ野球選手と警察官の“意外な相性”
文春オンライン / 2024年8月24日 11時0分
-
「調子が悪いから二軍にいるんだろうなと思ったら」高2の夏に甲子園出場、ドラ3でプロ入りした大田阿斗里(34)が絶望した“2人のバッター”とは
文春オンライン / 2024年8月24日 11時0分
-
戦力外→格闘家転向も「やってられない」 わずか2戦で異例の“引退”「冷めた」
Full-Count / 2024年8月23日 7時10分
-
NPB、トライアウト廃止を検討 獲得選手激減“引退試合化” 社会人・独立リーグ向け新形態の可能性
スポーツ報知 / 2024年8月22日 5時0分
-
12球団トライアウト今秋で一区切り 来秋存続か否か、開催方式変更含めて話し合い NPBと選手会
スポニチアネックス / 2024年8月21日 13時21分
ランキング
-
1大谷翔平、劇的な「40-40」達成の裏で…近づくタイ・カッブ以来115年ぶり史上3人目の偉業とは
THE ANSWER / 2024年8月24日 15時13分
-
2大谷翔平、自身初のサヨナラ満塁本塁打で史上最速「40―40」達成 一問一答〈1〉「トップクラスの思い出」
スポーツ報知 / 2024年8月24日 14時49分
-
3マリナーズに「イチロー監督待望論」…本人は否定も話題性、親和性、能力値は十分
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年8月24日 9時26分
-
4ドジャース・大谷「40―40」達成でもMVP争いは混戦 「20―60」デラクルス、3冠射程オズナ
スポニチアネックス / 2024年8月23日 1時32分
-
5大谷翔平は“ジャッジより上” 劇的「40-40」に指揮官も唖然「上回る選手がいるとは思えない」
Full-Count / 2024年8月24日 14時22分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください