「自分には能力がなかった」どれだけ助言をしてもイーロン・マスクは聞く耳持たず…元Twitterジャパン社長が語った「退職の真相」
文春オンライン / 2024年8月14日 11時0分
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元Twitterジャパン社長が明かす「退職の真相」とは? ©文藝春秋
〈 「Appleに広告出稿を止められた」大ピンチ…イーロン・マスクが取った「驚きの解決法」とは 〉から続く
「要するに、彼(イーロン・マスク氏)に聞き入れてもらえるような能力が自分にはなかったということなのだと思います」。2014年からTwitterジャパンの代表取締役を務める笹本裕氏が同社を退職した理由には、世界的経営者イーロン・マスク氏との不協和があった。退職の真相を、笹本氏の新刊 『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』 (文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編を読む )
◆◆◆
私が退職を決めた理由
私の興味関心は、とにかく日本とアジアの事業でした。
だから、少なくともアジア圏の事業について聞く耳を持ってもらえないのであれば、自分の存在は不要だなと思いました。
これは批判ではなく、イーロンは「アメリカをなんとかしないといけない」ということに99パーセント頭が行ってしまっていました。だから、もう少しイーロンが日本やアジアの事業に気を配ってくれていれば、という気持ちはあります。
エンジニアの配置についても疑問がありました。
スーパーアプリを開発するならやはり、すでにLINEやWeChatといったスーパーアプリが存在するアジアで開発するべきだと私は思っていました。アメリカにスーパーアプリはありません。ないところでそれを開発しようとしても、それに共感できるエンジニアは少ない。
だから新たなTwitterを創造していくなら、たとえば、東京にプロダクトデザインをする人たちを置いて、シンガポールにソフトウェアのデザインをする人を置く。そしてインドに開発体制を置く。私はこの3拠点制を提案していたのですが、少し時期尚早だったのかもしれません。
イーロンは「まずアメリカを回さないといけない」ということで頭がいっぱいだった。それがちょっと残念でした。「破壊と創造を一緒に動かしていくなら、私の提言が受け入れられてもよかったのにな」と。
私が辞めるに至ったのは、そういう戦略の違いがあったからです。私の力不足でもあるのですが。要するに、彼に聞き入れてもらえるような能力が自分にはなかったということなのだと思います。
爪痕は残せた、はず
あえて自分を擁護するなら、努力はしたつもりです。少しは爪痕を残せたはずです。
ひとつは先に触れた検索連動型の広告商品。もうひとつは私が辞めてからですが、イーロンは「日本にエンジニアを1人置くことにしたよ」と言ってくれました。ちなみに私は8人置いてくれと言っていました。だから8分の1は達成したということになるでしょうか。
他に、「日本の売上倍増計画」を彼に提案したこともあります。これもほとんど箇条書きのようなものですが、それを書いて送って、すぐに私は辞めてしまった。だから今になってもイーロンは、「日本は倍にできるよ」と言っているようです。社員が「どうやってやるんですか?」と聞いても、イーロンは「それはお前らが考えろ」としか言いません。戦略の詳しい中身がわからないからです。
負け犬の遠吠えでしょうか。
意に反するリストラ。せめてもの抵抗
私が退職を決めたのは、2023年2月の末と3月の頭に、私の意思と反する2度目か3度目のリストラが遂行されたのがトリガーと言えます。
私はなにより、イーロンにはTwitterの事業を成功させてほしいと思っていました。そう考えたときに、日本でのリストラは大きな間違いだと思ったのです。だから無駄な抵抗だとはわかっていましたが、自分が意思表示をすべきだと思いました。
いわば最後のあがきです。
日本でリストラをしてはいけないことは、すべて指標で説明できます。
一人頭の売上規模や収益率などをすべてきちんと説明すると、日本の事業には触ってはいけないとわかるはずです。
でも、グローバルのことを考えている彼にとっては、それはあまり関係ない。「日本の収益率はいいから」とか、そういう話を彼はあまり聞きたくない。だから「全体でとにかくあと500人減らしたい」というときに、日本はまだ人が残っているから「じゃあ日本だね」という話になってしまった。他の国はもう人が減ってしまっているから、これ以上削れないのです。
でも経営判断としては、絶対にそれは間違いなのです。そこに対する違和感は、あまりにも大きいものがありました。
このままやっていったら、日本もどこかのタイミングでガタガタッと崩れていく。まだその段階に来ていないだけです。いまは崖っ縁にいるような状態で、このままだと崖から落ちるのは見えていました。
私にできることには限界がある。だから、自分から辞めようと思っていた矢先に、イーロンからレイオフの通知が届きました。
〈 「イーロンは間違っている」「リストラが続くやり方では絶対にうまくいかない」元Twitterジャパン社長が語った「アメリカ型経営の限界」 〉へ続く
(笹本 裕/ノンフィクション出版)
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