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「突如、校内に響く銃声と悲鳴」いつものように学校へ向かった娘は…銃乱射事件の被害者遺族が抱える“大きな喪失感”

文春オンライン / 2024年8月4日 6時0分

「突如、校内に響く銃声と悲鳴」いつものように学校へ向かった娘は…銃乱射事件の被害者遺族が抱える“大きな喪失感”

 今夏、大ヒット中のアニメ映画『ルックバック』は58分間という短い上映時間だが、観客の心を揺さぶる物語として大きな反響を呼んでいる。それよりも遥かに短い、僅か12分間の作品でありながら観た人の胸を深く抉る名作が『愛してるって言っておくね』(ネットフリックスで配信中)だ。2021年、第93回アカデミー賞で短編アニメ賞を受賞している。全編セリフは無く、ほぼモノトーンのデッサンのようなタッチで描かれる静かな物語だ。

 本作は映画『ルックバック』と同様に上空からある一軒の家を見下ろす“神”(あるいは天国)の視点から始まる。その意図は後に明らかとなる。長いテーブルの両端に座り、視線も合わさず黙々と食事をとる夫婦。そこに2人の“影”が現れ、沈黙する夫婦とは対照的に盛んに何事かを相手に向かって語りかける。観客はこの冒頭シーンで夫婦が大きな喪失感を抱え、互いに言葉を呑み込み、会話さえ成り立たない状態であることを察する。2人に何があったのか。

 妻は洗濯機に残された小さな水色のTシャツを目にし、思わず涙する。2人には幼い一人娘がいた。今は亡き娘の“影”が現れ、家族の思い出が蘇る。3人で眺めた夕焼けや幻想的な夜景がモノトーンの世界に“色”を添える。愛娘の成長を温かく見守る夫婦。元気に学校へ向かう娘を見送る、いつもの日常風景。だが、娘は不穏な“影”に覆われる。

 突如、校内に響く銃声と悲鳴。ここで観客は2人の娘が銃乱射事件の被害者であること、そして題名の「愛してるって言っておくね」の意味を知ることとなる。本作は実際に起きた銃乱射事件を基に、残された家族の喪失と再生を繊細なタッチで描いている。

 貫かれているのは「引き算」の演出だ。セリフは無く、色味を抑え、物言わぬ“影”で彼らの心情を表現している。余白が多様な受け止めを促し、重い読後感を観客に与える、短くても胸に迫る傑作だ。

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『愛してるって言っておくね』
https://www.netflix.com/jp/title/81349306

(佐々木 健一/週刊文春 2024年8月8日号)

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