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京大激怒→東大が謝罪して収まったかに見えたが…「合同演説会中止事件」がその後もこじれにこじれた理由

文春オンライン / 2024年8月7日 11時0分

京大激怒→東大が謝罪して収まったかに見えたが…「合同演説会中止事件」がその後もこじれにこじれた理由

写真はイメージ ©getty

〈 《東大VS京大》「きっかけは弁論部同士のいさかい…」東大が京都大学を激怒させた「合同演説会中止事件」 〉から続く

 東大が京大を激怒させ、謝罪にまで至った「1924年の合同演説会中止事件」。なぜ京大側は激怒したのか? その後、事件はどうなったのか? 甲南大学の尾原宏之教授の新刊 『「反・東大」の思想史』 (新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編を読む )

◆◆◆

京大が激怒した理由

 ここまで京大側が激怒した理由はなんだろうか。

 宮本教授は、東大側が教授を出さないなら出演できないといった。壇上で東大側を糾弾した京大講演部員は、「かくの如き不平等の条件の下に演説会に出づることは到底京大側の肯ぢ得ざる所なり」と吠えた。『京都帝国大学新聞』は「合同演説会は両大学に於て条件を同一にすべきもの」という講演部の主張を紹介している。

 京大側は、自分たちが教授を出しているのに、東大側が学生しか出さないのは無礼だと感じたのだろう。さらに、合同演説会が弁論を競い合う団体戦だとすると、東大の学生3人と京大の教授1人+学生2人の勝負となり、格上の東大が格下の京大にハンデを与えているように映りかねない。京大側はこのことを強く忌避したように見える。

 実際、京大側は合同演説会の「本質的目的」に強くこだわった。彼らにとっての「本質的目的」ははっきりしている。合同演説会とは、スポーツ競技と同じように東大と京大が優劣を競う学校同士の対抗戦だということである。格下として扱われる(ように見える)こと、ハンデを与えられる(ように見える)ことが屈辱だからこそ、京大側は執拗に謝罪を要求したのである。

 やがて事態は沈静化に向かった。東大側が、連絡の行き違いや古在総長と野村部長の対立などについて京大側に丁寧に説明し、理解を得たからである。演説会が中止になったことを陳謝する東大学友会中央部の声明文が10月16日付で発表され、17日には「完全なる問題の解決」と「将来の友誼」を謳う京大講演部の声明文が、18日には東大弁論部による同様の声明文が発表された。

糾弾された「変態的快感」

 一件落着に見える。『京都帝国大学新聞』は、「経過がわかつて見れば何でもなくステートメントを出して円満解決」「双方から声明書発表で無事解決」という能天気な見出し文句を掲げた(10月22日)。

 だが、そのような後味のよい結末にはならなかった。円満に解決したと思っていたのはもっぱら京大側だったからである。

 すでに見たように、東大側は単純な連絡ミスを犯したにすぎなかった。だが、ホストとしての責任から京大側にひたすら平身低頭した。一方、京大側は執拗に謝罪を求め、公開の場で居丈高に責め立て、最後は合同演説会そのものを潰した。親しい関係や尊敬し合う関係においては、まず見られない現象である。内心では非常な不快感を抱いた東大生がいたことは想像に難くない。そのことが露見するのは早かった。『帝国大学新聞』の論説「京大講演部の反省を促がす」(11月2日)は、全文に強烈な怒りが満ちている。

 この論説は、演説会中止の責任が当然東大弁論部や学友会中央部にあることを確認した上で、京大側の態度が「相手の弱味」につけこんで「変態的快感」を得ようとするものだったと糾弾する。京大の学生たちが宮本教授の意向で出演拒絶に急転換したことについては、「雅量と理解力に於て惜しい哉無能力者に近かつた一団」の「盲目的なる殉死」と激烈な表現を使った。聴衆を前にしての謝罪要求に関しては、催促されなくても東大側は謝罪するに決まっており、しつこく強要する京大側の「常に高圧的なる嬌慢の態度」は、「彼等の学生たるや否やを疑はしめるに十分」とまで断じた。

 また論説は、京大側がこだわった(合同演説会の)「本質的目的」という言葉に強く反応した。

 すでに触れたように、京大側は合同演説会を学校同士の対抗戦と捉えている。『帝国大学新聞』の論説は、京大側のその発想自体が問題であることを指摘する。「合同講演会は決して競技会ではなく、その覗ふ効果も他の競技と大いに異つてゐる」。

 演説会は、ほかのスポーツ競技とは違い、団体の勝ち負けを競うものではない。ところが京大側は東大に対する「誤つた敵愾心」に突き動かされ、常軌を逸した行動を繰り返した。平身低頭する東大側を踏みつけにすることで「変態的快感」を得るようにさえなってしまった。『帝国大学新聞』が分析する京大側の心理は、このようなものであった。襲いかかってくるライバルの心理分析として、なかなか穿ったところがある。

(尾原 宏之/Webオリジナル(外部転載))

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