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「ジャーン!」「ズズズズズズー」「ドドドドド」謎すぎる彫刻が出迎える石川県羽咋市では、UFOが見られるってホント?

文春オンライン / 2024年8月5日 6時0分

「ジャーン!」「ズズズズズズー」「ドドドドド」謎すぎる彫刻が出迎える石川県羽咋市では、UFOが見られるってホント?

「ジャーン!」の擬音岩(羽咋駅前)

〈 「地震でものすごく暇ですわ。大赤字もいいとこです」浜茶屋の経営者が嘆く窮状《能登半島地震から半年、戻らない日常》 〉から続く

「千里浜なぎさドライブウェイを走ったら、次は羽咋(はくい)の市内に足を延ばしてみませんか」

 地震で被災したあとの能登観光。金沢駅の観光案内所で勧められた通りに車で向かう。ドライブウェイの南端で浜茶屋の苦境を聞いた( #1 )あとは、北端の石川県羽咋市だ。

 まずは、JR七尾線の羽咋駅を訪れた。

「ジャーン!」「ズズズズズズー」

「ジャーン!」

「羽咋駅に見参したぞ」という効果音で書いたわけではない。そう彫刻された石が駅前に鎮座しているのだ。

 看板には「壇上に立ち、あなたにとって何が『ジャーン』なのかをこころに唱えながら撮影してください」とある。

 高さが1mほどあるので、気をつけて登らないといけないが、観光客は「ジャーン!」という彫刻の上に立って写真を撮るのが定番になっているのだろうか。

 近くには「ズズズズズズー」という文字の彫刻もあった。

「いったい、これは何を意味しているのか」

 駅前で客待ちをしていた50代のタクシー運転手に聞いてみた。

「何だろうね。私も不思議に思っているんですよ。スマートホンで市のHPを見てみましょうか」と親切に調べ始める。能登の人は気がいい。

「また集まって来てくださいね」という意味合いを込め

 乗車もしないのに申し訳ないので、市役所の商工観光課に電話した。

 受話器を取った職員は「えっ、何を意味しているか、ですか……」と言葉に詰まり、「ちょっと調べさせてもらってもいいですか」と言うなり、電話を保留にした。

 少しして、説明を受けた通りに記しておくと、「特段意味があるわけではありません。羽咋駅前の商店街の皆さんが賑わいを復活させるために、2005年3月に設置した彫刻です。『また集まって来てくださいね』という意味合いを込めて置いたそうです。彫刻家の馬渕洋さんに造っていただき、全部で5点あります」ということだった。

 他にも「ゴゴゴゴゴゴゴ」「ドドドドド」と掘られた石がある。

「この文字は何だろうと面白がらせて、来てもらおうという戦略ですか」と尋ねると、「そうです、そうです」と職員は調子を合わせる。

 ただ、それだけではないようだ。

「ジョジョ石」とも呼ばれている「擬音岩」

「この彫刻は『擬音岩』と名づけられているのですが、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦作)に描かれている擬音と形が似ているので、漫画の登場人物のポーズをマネして彫刻と一緒に撮影する人もいます。あっ、無理して石の上に乗っていただかなくても結構です」と話す。

 この漫画の登場人物のポーズは、人間には不可能なものまであり、一般に「ジョジョ立ち」と呼ばれている。このため、擬音岩は「ジョジョ石」と言われるようになったという。

 羽咋市のHPには、ジョジョ石の写真が掲載されている。

「擬音岩をジョジョ石として売り出し始めた時、当時の職員がジョジョ立ちのポーズを決めて撮影しました。写っている職員はもう別の課に異動していますが」と電話の職員は説明を続ける。

 なかなか乗りのいい市役所だ。

 そうした振興策にもかかわらず、駅前にあった二つの喫茶店は閉店してしまった。

 前出のタクシー運転手は「駅を出て、右と左に一つずつありました。一方はもうだいぶん前に閉まりましたが、もう一方は能登半島地震が起きた後も頑張っていました。なのに数カ月前に閉店してしまって。昭和の雰囲気がある、いい店だったのですけれどねぇ」と残念がっていた。

UFOに次ぐUFOの…

 駅前には他にも「常識を超えた物」がある。

 UFOのオブジェ、UFOの街路灯、駅のホームにもUFOの絵が描かれていた。

 商工観光課の職員は「羽咋市では運がいいとUFOが見られるらしいのです。私は運がよくないみたいで、実際に見たことはありませんが、見に来る人は大勢います。一度に観光バスが3台も来ることがあるんですよ」と話す。

 市内には宇宙科学博物館「コスモアイル羽咋」がある。

 能登半島地震などで傷んだ生活支援のため、羽咋市商工会が発行した20%のプレミアム付き商品券は「UFO商品券」と名づけられた。

能登観光でコースが組まれる最北の地

 羽咋市の地震被害は酷かったのだろうか。石川県が8月1日にまとめた被害状況によると、羽咋市内では死者1人、軽傷者7人。住家の損壊は全壊が65棟、半壊が524棟、一部損壊は3046棟となっている。奥能登ほど酷くはないが、かなりの被災はしているようだ。

 商工観光課の職員は「市内ではほとんどの観光施設が再開されているので、徐々に観光客も入ってきているのではないかと思います。ただ、民間の観光会社では旅行プランを組む時には、羽咋までしかゴーサインが出ないという話を聞きました。羽咋より奥能登側は危ないと思われているようで、羽咋までしかコースに入れない傾向があるようです」と語る。

 能登観光でコースが組まれる最北の地が羽咋市だというのだ。

 市内の「道の駅のと千里浜」に来客が絶えないのは、そうした裏返しだろうか。

 羽咋駅の近くでは2024年7月1日、新しい交流拠点「LAKUNAはくい」がオープンした。図書カフェや学習スペースが設けられた4階建ての施設だ。被災後にもかかわらず、こうした建物ができたのも、地震の被害がそこまで酷くなかった証拠だろう。

 ただ、タクシーの運転手は「地震の前からすると、明らかに観光客は減っています。和倉温泉(七尾市)が被災してしまったので、泊まった帰りに羽咋駅で下車するという人はいません」と話す。

市が最も力を入れている観光拠点「妙成寺」

 羽咋市が現在、最も力を入れている観光拠点は、市の北部にある妙成(みょうじょう)寺だ。

 700年以上前に創建された日蓮宗の寺院で、江戸時代は加賀藩・前田家の手厚い庇護を受けた。北陸随一と評される五重の塔もある。

 これまで天災や火災の影響を受けてこなかったので、建立当時の姿を残す建築物が多い。境内には国の重要文化財が10棟、県の指定文化財が3棟、市の指定文化財が1棟。羽咋市で本当に「常識を超えたすごい物」があるのは、駅前ではなく妙成寺だ。

 今回の地震でも、石垣が一部崩れたり、灯籠が倒れたりはしたものの、建築物の被害はほぼなかった。震度7を記録した志賀(しか)町との境はすぐそこなのに驚くべきことだ。

「当時の建築技術がどれだけ高かったか」と商工観光課の職員はうなる。地震に耐えた建築物群を見に行くのも観光の一つだろう。

 しかし、拝観者は激減しているようだ。

 寺で受付をしていた僧侶に尋ねると、「ここら辺では宿が取れないので、なかなか来てくれません。お寺ですから、盆にかけて来る人は増えるでしょうが」と、言葉少なだった。

妙成寺の国宝化へ「やる気満々」「自信満々」

 羽咋市では地震の前から、妙成寺の国宝化を目指していた。

 これについても「被災前は盛り上がっていたのですけれど」と、受付の僧侶は元気がない。

 文化財建築が多いと、管理が大変だ。市商工観光課の職員は「修繕を手掛けられる業者は限られているのに、一つ直したら、また別の建物を直さなければならなくなるという状態だったようです」と話す。

 国宝化を目指した修繕で物入りな時に、石垣などが壊れたうえ、拝観者が激減してしまった。気の毒というほかない。

 国宝になれば能登半島全体の希望にはつながるだろうが、果たしてどうなるか。

 観光客がほとんどいない、貸し切りのような境内を歩く。

 地震に耐えた重厚な建築物が静寂の中にたたずんでいた。

 次はいよいよ、震度7を記録した志賀町へ向かう。

 観光地はどのようになっているだろう。

(葉上 太郎)

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